
高さ最大2m。地球で最も標高が高いヒマラヤ山脈に、こんなタワー状の植物が生えていることをご存じだろうか?
標高約4000m以上の低温環境に自生するセイタカダイオウ(Rheum nobile)は、温室に似た構造をもつことから、温室植物とも呼ばれている。
ざっくりいえば、自分の葉を何枚も使って、重要な本体部分をきれいに覆った特殊な姿をしてるのだ。
薄黄色で半透明の苞葉(ほうよう)が、成長に必要な可視光を取り込みつつも、高山の強烈な紫外線や寒風をシャットアウト。
一方で、その奥に潜むたくさんの小さな花が、受粉に役立つ虫を独特な香りで引き寄せるという。
なんとも興味深い植物界のレアタイプ、セイタカダイオウにせまってみよう。
ヒマラヤ山脈に自生。高さ2mにもなるセイタカダイオウ
大型草本植物のセイタカダイオウ(背高大黄/ 学名:Rheum nobile)は、漢方薬の生薬で知られるタデ科ダイオウ(大黄)属に分類される。だが見た目は、ダイオウの仲間とは思えないほど独特な姿をしている。
分布はヒマラヤ山脈東部。標高約4000mから4800mの高山ツンドラ帯に自生する。面白いことにこの植物は、”自己温室化”というか、”テント”を張るような形で成長する。その高さは1mから2mにもなるというから驚きだ。
一般的な高山植物は、強風と極寒から身を守るため、地を這うように低く育つ。
2025年4月、登山ガイドのfacebookユーザーPalden Phynahsa Sherpaさんも、1mほどのセイタカダイオウを思わずシェア。この動画からもその大きさが伝わるはずだ。
自分の苞葉で本体を保護する温室植物
全体は細長いタワーのような円錐状。表面は、何枚もの淡い黄色をした半透明の苞葉(ほうよう)に覆われ、根元から地面にかけては緑色の葉が茂っている。
時期によっては一番上の部分がピンク色を帯び、苞葉の付け根などもピンク色や赤みがかった色をしていることもある。
なお苞葉(ほうよう、または苞)とは、一般に花周辺を保護する葉の一種で、ポインセチアやミズバショウなどにみられるもの。
セイタカダイオウの繊細な苞葉は、高山の強い紫外線や極寒から、本体の成長に必要な分裂組織や大切な花や茎を保護するためのものだ。
と同時に、可視光だけを取り込んで、内部をほんのり温める役目も果たす。
自らの葉で、自分自身をすっかり覆うこの構造が、外気温より数度も高い環境を作り出し、寒冷な高山での温室効果を生む。これが温室植物[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%A9%E5%AE%A4%E6%A4%8D%E7%89%A9]の代表、セイタカダイオウの最大の特徴だ。
花が種に寄生するハエを惹きつけ高確率で受粉
薄い苞葉をそっとめくると、奥に緑色の小さな花がたくさんあるのがわかる。
これらの花が咲くのも温室効果のおかげだが、ここで疑問がわいてしまう。こんなに奥にある花がどうやって受粉するのだろう?
そもそも高山の厳しい環境では、受粉を助ける虫も少なく、実ができるチャンスもわずかだ。
中には、急激な寒さや強風の一時避難所として、セイタカダイオウの”テント”に逃げ込み、知らず知らずのうちに花粉を運ぶ虫もいそうだ。だがこの植物は、繁殖にも戦略的で、より積極的だった。
実はセイタカダイオウの花は、花に卵を産み付けて種子に寄生するクロキノコバエを利用する。そのハエたちを特に惹きつける匂いを放ち、高確率で受粉を成功させるのだ。
いやいやいや、肝心の種子がハエに寄生されるなら意味ないのでは?といいたくなるが、研究によると、セイタカダイオウはそこも承知の上らしい。
たとえ一部の花に卵を産み付けられ、その種子が幼虫に食い荒らされたとしても、花を探し回るキノコバエによって結実する実(のちの種子)のほうがはるかに多いので、あえてそうした戦略をとっているもよう。
受粉でできた実が熟してくると、役目を終えた苞葉は枯れ落ちる。
その後果実は徐々茶色く乾燥し、小さく薄い羽付きの翼果(種子)になって、ある日風に乗って、離れた場所で発芽するのだ。
人々に恵みをもたらす側面も
セイタカダイオウは、人々にも身近な恵みをもたらすという。太い茎の空洞には澄んだ水がたっぷり含まれており、現地では”リフレッシュできる水”として飲まれることも。
その水には冷却効果や浄化効果があるともいわれているが、科学的な根拠などはないそう。
茎の根元の太い部分は、塩ゆでや煮込みにしてミネラルと爽やかな酸味を楽しむことができ、長い根は、乾燥させて粉末化、または長時間煎じることで消化促進、抗炎症作用を持つ薬の材料になる、ともいわれている。
ただしこちらも諸説あり、そもそも飲用からして危険という情報もある。
過酷な大自然に適応したこの高山植物は、見ための独創性だけでなく、数々の興味深い魅力を兼ね備えた特別な植物といえそうだ。
植物学者の興味をそそる稀有な存在
標高が高い特殊な場所に自生するセイタカダイオウは、植物学者にとって調査や標本採取が困難な植物だが、それ以上に面白く、興味をそそる稀有な存在でもある。
その保全状況は不明だが、少なくともネパールでは絶滅危惧種になっているもよう。
このタケノコ風というか息子スティック風な見た目といい、風変わりな性質といい、ワンダー要素が満載なだけに、今後もどうか消えることなくいつまでも存続していて欲しいものだ。
まさに独自に適応を極めた感じの植物界のレアタイプ。日本で直に見られないのは残念だけど、今はSNSの写真や動画がたくさんあるから、ネット上で満足することにしようそうしよう。
References: Neatorama[https://www.neatorama.com/2025/05/31/The-Ingenious-Design-of-the-Himalayan-Rhubarb/] / Kuriositas[https://www.kuriositas.com/2025/05/the-noble-rhubarb-himalayan-marvel-of.html] / Wikipedia[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%82%A6] / Wwf.panda.org[https://wwf.panda.org/es/?119340/A-botanists-trails] / Plantscience-blog[https://www.plantscience-blog.com/post/the-master-of-adaption]
本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。