史上最重量のナナフシの新種がオーストラリアで発見される ファンもうなる巨大ボディ
新たに発見された史上最重量のナナフシ / Image credit:JCU Australia

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 棒のように細長く、木や枝や葉に擬態することで知られているナナフシだが、新たに発見された種は苗木の幹くらいの太さはあるかもしれない。

 オーストラリア北東部で発見された新種は、体重44gと、これまでに記録されたナナフシの中でも群を抜いて重い。

  標高900mを超える高地熱帯雨林の樹冠部に生息するが、このたび発見されたのはメスの個体のみで、その生態はまだ謎に包まれている。

 私を含め、ナナフシを愛してやまない者にとってはたまらない存在であり、同時に、生物多様性と森林保全の重要性を改めて感じさせる発見でもある。

この研究は『Zootaxa[https://mapress.com/zt/article/view/zootaxa.5647.4.4]』誌(2025年6月17日付)に掲載された。

高地熱帯雨林に潜んでいた新種の巨大ナナフシ

 今回の新たな発見があったのは、オーストラリア北東部クイーンズランド州に位置する高地熱帯雨林である。

 標高900 mを超える森林地帯は、世界遺産にも登録されている「クイーンズランドの湿潤熱帯地域」[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E6%B9%BF%E6%BD%A4%E7%86%B1%E5%B8%AF%E5%9C%B0%E5%9F%9F]の一角で、生物多様性の宝庫として知られている。

 発見したのは、ジェームズ・クック大学のアンガス・エモット名誉教授と、クイーンズランド州南東部の研究者ロス・クープランド氏。

 発見されたのはメスの個体で、体長約40cm、体重は44gに達し、これまでオーストラリアで最も重い昆虫とされてきた「ヨロイモグラゴキブリ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B4%E3%82%AD%E3%83%96%E3%83%AA]」の平均体重30~35 gを大きく上回る。

 ヨロイモグラゴキブリは翅を持たず、土中にトンネルを掘って生活する大型のゴキブリで、その重厚な体格から「世界最大級のゴキブリ」として知られてきた。

 それを超えるナナフシが実在したという事実は、昆虫ファンにとってはまさに驚きと感嘆の対象となっている。

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ナナフシ界の巨人、アクロフィラ・アルタと命名

 この新種は「アクロフィラ・アルタ(Acrophylla alta)」と名付けられた。

 「アルタ」はラテン語で「高い」を意味し、その名の通り、森林の樹冠部という極めて高い場所に生息していることから名付けられた。

 発見された個体は、さらに詳しく調査するためエモット氏の自宅に持ち帰られ、飼育された。

 そこで産卵も確認され、卵の形状などから他のナナフシとは異なる特徴が認められた。

 ナナフシは種ごとに卵の構造が異なるため、卵の観察は新種判定において重要な決め手となる。

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擬態の達人・ナナフシの知られざる暮らし

 ナナフシの仲間は世界に約3,000種以上が知られており、体の形状や色を木の枝や葉に似せる高度な擬態能力で知られている。

 擬態は成虫だけでなく卵にも見られ、中には植物の種にそっくりな形状をして地面に紛れ込む種類もいる。捕食者に見つかりにくいように、風に揺れる葉のように体を小刻みに揺らして移動する行動も観察されている。

 多くのナナフシは夜行性で、樹葉や花などの植物を食べる草食性である。

 動きは非常にゆっくりで、飛翔能力を持たない種類も多いが、種によっては長い翅を持ち、短距離を滑空することが可能なものもいる。

 繁殖に関しては、メスだけで単為生殖を行う種もあり、環境が整えばオスなしで個体群を維持できることもある。

 ナナフシの寿命は種によって異なるが、成虫になるまでに数か月から1年以上を要するものもあり、その生活史は環境の変化に強く影響される。

 卵は殻が硬く、地面にばらまかれるように産み落とされるのが一般的で、孵化までに長い休眠期間を必要とする種も多い。

 アクロフィラ・アルタについては、こうしたナナフシの基本的な特徴を備えていると考えられるが、現時点ではどのような植物を好み、どのようなリズムで生活しているのか、詳しい生態は明らかになっていない。

 未知の部分が多いだけに、今後の調査への期待は高まっている。

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熱帯雨林を守る取り組みの重要性

 今回の発見は、未知の昆虫がまだ森林の中に多数存在している可能性を改めて示すものとなった。

 しかし、その一方で、オーストラリア北部の熱帯雨林は現在、外来種の影響によって大きな脅威にさらされている。

 とりわけ問題視されているのが、アシナガキアリ( Anoplolepis gracilipes)による生態系への被害である。

 このアリはオーストラリアでは外来種とされ、在来の無脊椎動物や小型脊椎動物を襲うなど、森林の生態系に深刻な影響を及ぼしている。

 国際自然保護連合(IUCN)の「世界の侵略的外来種ワースト100」にも含まれており、現在は連邦政府による駆除プログラムが実施されているが、その予算が来年度以降も確保されるかどうかは不透明な状況だ。

 こうした課題に直面する中で、新種が発見されたことには重要な意味がある。

 発見者のエモット氏は、「この新種のナナフシがどこに、どのくらい生息しているのかを知ることが、保全につながる第一歩だ」と語る。

 そして「まだ名前も与えられていないうちに絶滅してしまう生き物がいることは、非常に恐ろしいことだ」とも述べ、調査と保護の重要性を強く訴えている。

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References: Jcu.edu.au[https://www.jcu.edu.au/news/releases/2025/july/supersized-stick-insect-discovered-in-wet-tropics] / Mapress[https://mapress.com/zt/article/view/zootaxa.5647.4.4]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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