
自然豊かなマレーシアのタンクラップ森林保護区で、絶滅が懸念されていたユーラシアカワウソが11年ぶりに姿を見せた。
自動撮影カメラに記録された一瞬の映像は、研究者にとって希望の光となった。
マレーシアには自然分布しているカワウソの在来種が4種確認されているが、今回の発見により、タンクラップ森林保護区がマレーシア国内で唯一、そのすべての種の生息が確認された地域であることが判明した。
絶滅危惧種のネコ科の観察カメラに偶然とらえられたのは?
マレーシア・ボルネオ島北部のサバ州に位置するタンクラップ森林保護区では、野生動物の調査と保全を目的として、国際自然保護団体パンセラ(Panthera)[https://panthera.org/]がトレイルカメラ(自動撮影カメラ)を設置している。
これらのカメラは、主に絶滅が危惧されている、ネコ科ベンガルヤマネコ属のマライヤマネコ(Prionailurus planiceps)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B3]の生息を確認するためのものだ。
11年ぶりにユーラシアカワウソがカメラにとらえられる
しかしある日、研究チームが映像データを確認していたところ、まったく予想していなかった生き物の姿が写っていた。
そこに映っていたのは、ユーラシアカワウソだった。
マレーシア国内では2014年を最後にその姿が確認されておらず、一部では絶滅の可能性も指摘されていた。
撮影時、現地は洪水に見舞われていたが、映像には浸水していない林床を移動し、Uターンして画面の外へと去っていくカワウソの姿が記録されていた。
パンセラ・マレーシアのプロジェクトコーディネーターであるティー・タイ・リム氏は、「一瞬の映像ではありますが、これが明確な証拠となりました」と語る。
マレーシアに生息する4種全てが1つの保護区にすべてそろう
カワウソは、哺乳類イタチ科に属する水辺の生き物であり、世界では7属13種が確認されている。その多くは淡水域に生息しているが、一部には海洋性の種も存在する。
このうちマレーシアに自然分布しているのは、ユーラシアカワウソ、スマトラカワウソ、ビロードカワウソとコツメカワウソの4種で、いずれも東南アジアに特有の環境に適応して暮らしており、それぞれ属も異なる。
ユーラシアカワウソ(Lutra lutra)とスマトラカワウソ(Lutra sumatrana)は、同じLutra属に属する。一方、ビロードカワウソ(Lutrogale perspicillata)はLutrogale属、コツメカワウソ(Aonyx cinereus)はAonyx属に分類されており、マレーシアの4種のカワウソは属の多様性も備えている。
今回のユーラシアカワウソの再確認によって、タンクラップ森林保護区がマレーシア国内で唯一、これら4種すべての在来カワウソの生息が確認された地域であることが明らかになった。
この事実は、同地の生物多様性の高さを示すとともに、保全活動の成果を象徴するものでもある。
ユーラシアカワウソとは?
ユーラシアカワウソ(Lutra lutra)は、ヨーロッパからアジア全域、さらに北アフリカにかけて広く分布しているカワウソである。
冷涼な気候から温暖な地域まで、さまざまな環境に適応しており、川や湖、湿地、沿岸部などの淡水域を主な生息地としている。
全長はおよそ100~130cmで、暗褐色の密な毛並みと、喉から胸にかけての白っぽい斑が特徴である。流線形の体と水かきのある足を持ち、泳ぎが得意。
主に魚類を捕食するが、両生類や小型哺乳類、甲殻類を食べることもある。夜行性または薄明薄暮性で、基本的には単独で行動する。
水質や周囲の環境変化に非常に敏感であり、生息地の開発や水の汚染が個体数の減少に直結する。
そのため、ヨーロッパの一部地域では絶滅状態に近づいたこともあったが、保護政策により回復傾向を見せている地域もある。
ちなみに、1979年を最後に目撃例がなく、2012年に絶滅種に指定されたニホンカワウソはユーラシアカワウソの亜種と考えられており、学名はLutra lutra nipponだ。
生きている証拠に感動する研究者
研究者たちは、たとえ一瞬であっても、ユーラシアカワウソの存在を示す証拠を目にできたことに大きな興奮を覚えた。
「画像が撮影された当時、この地域は洪水に見舞われていました」とリム氏は語る。「カワウソは浸水していない場所を通り抜け、Uターンしてカメラの視界から姿を消しました」
研究者たちは、将来的により多くのユーラシアカワウソが自然の生息地で観察されることを期待している。
しかし今は、彼らが確かにそこに存在しているという事実を確認できただけで、感無量だという。
References: Panthera[https://panthera.org/blog-post/tangkulaps-aquatic-triumph-eurasian-otters-return]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。