
腸にいる微生物たちが、私たちの行動や感覚に影響を与えていることはこれまでの数々の研究で明らかとなっている、だが、他にも秘密が隠されていたようだ。
アメリカ・デューク大学の研究によると、腸内の神経細胞が細菌の放出するタンパク質を感知し、脳に「満腹」の信号を送っていることが明らかになったのだ。
つまりお腹の中の腸内細菌たちが、私たちに内緒で「もうお腹いっぱい」と脳に囁いているのだという。
この感覚は「神経微生物覚(neurobiotic sense)」と呼ばれており、いわゆる第六感の一種として注目されている。
研究はマウスで行われたが、将来的には肥満や精神疾患の理解にもつながるかもしれないという。
この研究は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09301-7]』誌(2025年7月25日付)に掲載された。
腸内細菌と脳が会話、お腹いっぱいのサイン
私たちの腸の中には、約100兆個もの微生物が生息している。
細菌やウイルス、真菌などが集まってできたこの環境は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」と呼ばれ、免疫や消化、そして心の健康にまで関わっていることが、近年の研究でわかってきた。
そんな腸内の細菌たちは、「鞭毛(べんもう)」と呼ばれる器官で腸内を移動している。
その鞭毛を構成するタンパク質のひとつが「フラジェリン(flagellin)」だ。細菌が動くたびに、このフラジェリンが腸内に放出される。
今回の研究では、私たちの腸がこのフラジェリンを“感じ取って”いることが明らかになった。
腸の中には、「ニューロポッド」と呼ばれる神経細胞のような細胞が存在している。そこには「TLR5(トール様受容体5)」という受容体があり、なんとこのTLR5がフラジェリンを感知することができるのだ。
そしてこの感知の先にあるのが、「迷走神経」。
つまり、腸内でフラジェリンが検出されると、「もうお腹いっぱいだよ」というサインが脳に届く、そんな神経のやりとりが行われているというのだ。
腸内細菌が「食べすぎ」を止めていた?
では微生物たちは一体どんな話を脳としているのか? 研究チームはそれを確かめるために、マウスを使って実験を行った。
その実験では、まずマウスに一晩エサを与えず、お腹を空かせておく。翌日、そんな腹ペコのマウスの腸にフラジェリンを投与する。
すると奇妙なことに、お腹を空かせているはずのマウスが、思ったほどエサを食べなくなるのだ。
それとは対照的に、TLR5を持たないマウスに同じことをすると、お腹いっぱいエサを食べ、急激に体重が増えたという。
この結果は、腸から脳へのシグナルが「満腹感」に関するもので、私たちが食べ過ぎを防ぐための重要な感覚である可能性を示している。
研究チームは、これを「神経微生物覚(neurobiotic sense)」と呼び、新たな“第六感”候補として注目している。
食事や生活習慣は私たちの行動をどう変えるのか?
この研究では、お腹の中に腸内細菌の出すタンパク質を感知する仕組みがあり、これを通じて、満腹感や食欲が左右されている可能性が明らかにされた。
100兆もの微生物で構成された小さな宇宙のような腸内細菌叢は、食事・ライフスタイル・環境によって大きく変化する。
腸内細菌が私たちの行動を左右するのなら、腸内細菌を左右する食事やライフスタイルもまた、私たちの行動に影響を与えていると言えるかもしれない。
研究チームの今後の課題は、どんな食事が腸内細菌叢をどう左右するのか調べることであるそうだ。
「この研究は、微生物が私たちの行動にどう影響しているのかを解き明かすカギになるかもしれません。肥満や精神疾患を理解する上でも、大きなヒントとなるでしょう」と、研究を率いたデューク大学のディエゴ・ボルケス氏は語っている。
もちろん、今回の発見はマウスを使った研究に基づくもので、人間でも同じような働きがあるかどうかは、これからの研究が待たれるところだ。
今後は、どんな食事や生活習慣が腸内細菌叢に影響し、それがこの“第六感”にどう関係してくるのか、詳しく調べられていくという
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09301-7] / Popularmechanics[https://www.popularmechanics.com/science/health/a65503221/neurobiotic-sense/]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。