
グッピーは熱帯魚の初心者に人気の魚だ。丈夫だし、繁殖もしやすい。
だがその適応能力の高さから、日本の一部の地域で野生化し、「野良グッピー」として繁殖していることが知られている。
そしてなんと、ウクライナの下水処理場でも、「野良グッピー」が生息し、繁殖しているという驚きのニュースが入ってきた。
汚染された下水、鼻をつく悪臭が漂う過酷な環境。普通なら耐えられそうにないこんな場所で、彼らはなぜ生き延びることができたのだろうか。
ウクライナの汚染された下水処理場で40年以上も生息
ウクライナの首都キーウ郊外にある「ボルトニチェスカヤ下水処理場」。ここはキーウとその郊外エリアの生活排水を処理する、大規模下水処理場である。
日本のODA(政府開発援助)の支援も入っており、ここで処理された水は、ドニエプル川へと放水されているそうだ。
そこではなんと、1980年代から観賞魚のグッピーが生息し、繁殖を続けているのだという。
ウクライナ国立科学アカデミー動物学研究所の魚類学者ユリア・クツォコン博士は、次のように説明する。
グッピーが手粋処理場で確認されたのは、1980年代初頭のことです。ここの水温と流れの速さといった特殊な条件のおかげで、グッピーは生き残っただけでなく、定着しています。
処理場の水は汚染レベルが高く、非常に不快な臭いが漂っているにもかかわらず、グッピーはそのような環境に耐えるだけでなく、繁殖にも成功しており、生息数はとても多いのです
汚染されていても水温が維持されている下水道が住処に
グッピーの原産地は、ベネズエラやガイアナ、ブラジルのアマゾン川やオリノコ川、トゥイ川の流域、さらに西インド諸島など熱帯にある流れの速い浅い河川に生息している。
体長はオスで約2.5~3.5cm、メスで約4~6cm程度で、藻類、小型プランクトン、昆虫の幼虫、有機物などを食べる雑食性の魚だ。
熱帯魚だけに耐寒性は低いのだが、下水道や温泉といった環境でも生息できる強靭さを持っており、世界各地で野生化している。
ご存じの通り、ウクライナの冬は非常に厳しく、とても熱帯魚が野生で暮らせる環境ではない。
だが、温排水が排出される都市部の下水道では、十分に生息が可能なのだ。
温排水とは、工場や発電所の冷却水、あるいは炊事や洗濯、風呂などで出る温かい排水のことで、河川の水温が上がる原因として問題視されている。
さらにグッピーは環境汚染にも非常に強い魚で、下水という汚染された環境の中でも、たくましく繁殖し、その数を増やしてしまうのだ。
下は水槽の中で繁殖したグッピー。彼らは卵胎生であり、卵はメスのお腹の中で孵化し、幼魚の形で生まれてくる。
最近ではグッピーを捕食する外来種も下水道に
1980年代から生息しているということは、このグッピーは、ソ連時代からウクライナの下水処理施設ので生き続けてきたことになる。
クツォコン博士によると、グッピーは水の流れが速い、温排水が多く流れ込む「上流」部分を好むのだそうだ。
沈殿池がある「下流」に行くと水の流れが遅くなり、下水の汚染物質が沈殿するため、水質はグッピーでも耐えられないほど過酷になる。
グッピーがこんな環境で40年も生き延びて来られたのは、彼らの適応力が驚くほど高いからである。
ただし最近では、東アジアに生息する、マンシュウドンコ(Amur sleeper)[https://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_sleeper]という肉食性の侵略的外来種が下水処理施設に現れたことで、少しずつ個体数を減らしているという。
マンシュウドンコもグッピー同様、適応力の高い魚であり在来種の存在を脅かしている。
飼育する場合は最後まで責任をもって
観賞魚として人気のグッピーは世界中で飼育されているが、飼いきれなくなって捨てられたり流されたりしたグッピーたちが、各地で野生化している例が報告されている。
河川や池だけではなく、中にはどぶ川や雨水排水溝でも生息が確認された例があるという。
日本の下水の水温は、夏は約28度、冬場でも約18度を維持しているという。熱帯魚が十分に生息できる環境である。
利根川にある下水処理場近辺でも、野生化したグッピーが発見されている。
他にも、温暖な沖縄県では野外で繁殖を重ねた「野良グッピー」が問題になっている。
環境への適応力と繁殖力が異常に高いグッピーは、日本では現在「要注意外来生物」の指定を受けているが、この調子で在来種の生存を脅かし続けていると、「特定外来生物」の指定を受ける日も近いかもしれない。
温泉が多い日本では、油断すると全国どこでも野良グッピーが現れる可能性がある。
なんせ北海道の足寄にあるオンネトー湯の滝でも、数万匹単位の野良グッピーが生息していたという事例がある。
こちらは当局の尽力で駆逐されたようだが、気軽に買えるグッピーは、飼いきれなくなったからといって、気軽に捨てられてしまうケースも多いのだ。
小さな魚ではあるが、生き物を飼育する以上、最後まで責任をもって手元で飼い切ってほしいものである。
References: В киевской канализации десятилетиями живет популярная аквариумная рыбка: как ей это удается[https://tsn.ua/ru/ukrayina/v-kievskoy-kanalizatsii-desyatiletiyami-zhivet-populyarnaya-akvariumnaya-rybka-kak-ey-eto-udaetsya-2870405.html]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。