
日本では「カニ」というと、一般的には茶色かったり赤っぽい色を思い浮かべることが多いと思う。中には青っぽいものもいたりするけど、このカニの色はすごかった。
2025年7月、タイ王国最大の国立公園、「ケーンクラチャン国立公園[https://www.thailandtravel.or.jp/kaeng-krachan-national-park/]」のレンジャーが、アメジストのように美しい紫色に輝くカニを写真に収めた。
このカニはシリントーン・クラブと呼ばれ、タイの王女の名前を戴く気品あふれるカニであり、大自然からの貴重な贈り物として、現地で大きな話題となっているそうだ。
比較的最近発見されたカニ「シリントーンクラブ」
このカニは、シリントーンクラブ(学名:Phricotelphusa sirindhorn[https://www.inaturalist.org/taxa/109353-Phricotelphusa-sirindhorn] / プリコテルフサ・シリントーン)という。タイ語ではปูเจ้าฟ้า(プージャオファー)だ。
タイ南部のごく限られた地域の渓流や滝の周辺に生息する小型の淡水カニで、1986年に、「ンガーオ滝国立公園」で初めて観察され、1989年にタイの甲殻類学者ナイヤネート氏によって新種として記載された。
種名はタイ王室のシリントーン王女に献名されており、現地では「チャオファ・クラブ(王女カニ)」とも呼ばれる。
甲羅幅はおよそ2~3cmで、流れの穏やかな浅瀬や岩の隙間、苔むした湿地に隠れながら生活している。
雑食性で、小型の水生昆虫や落ち葉、藻類などを食べるとされるが、詳細な食性はまだ十分に研究されていない。
シリントーンクラブの本来の特徴は白い甲羅と紫色~黒紫色の脚や鋏の組み合わせによるツートンカラーの模様だ。
そのため海外の一部報道では、似たような模様の「パンダクラブ(学名Lepidothelphusa cognetti)」と紹介されていたが、生息地が異なるため、誤って伝えられた可能性がある。
だが、光の条件や水中の反射、湿度、撮影機材の色補正によって、全身が深い紫色に見えることがある。
特に日陰や水中での光量が少ない場面では、白い部分も紫寄りに映るため、SNSなどでは「アメジストのような紫のカニ」として紹介されることがある。
生息地はタイ南西部のケーンクラチャン国立公園など、森林に囲まれた清流や滝の周辺に限られており、環境の健全性を示す指標種とされる。
そのためタイでは野生動物保護法により捕獲や販売が禁止されており、違法採集や環境破壊からの保全が求められている。
国立公園の閉鎖直前に撮影された貴重な宝石
ケーンクラチャン国立公園では、毎年雨季を迎えた7月1日から10月31日の間、高地にあるパナン・トゥーンと呼ばれる地域一帯が閉鎖され、観光客が中へ入ることはできなくなる。
今回の紫色のシリントーンクラブの画像は、2025年の閉鎖直前に、園内に駐在するレンジャーが撮影したものだそうだ。
ケーンクラチャン国立公園のモンコーン・チャイパクディ園長は、この美しい写真について、次のように語っている。
今回の「シリントーンクラブ」の撮影は、パナン・トゥーン駐在の職員が幸運にも出会えた結果であり、単なる希少生物の発見にとどまりません。
このカニの存在は、ケーンクラチャン国立公園の生態系がいかに健全かを示す重要な指標でもあるのです。
同公園は世界遺産の森であり、貴重な生物多様性を誇る場所です。このカニが生き続けられることは、森林の環境が優れている証拠だと言えるでしょう
美しい紫色の理由はまだよくわかっていない
なぜこのカニが紫色なのか?詳しいメカニズムはまだ解明されていない。
だが紫色の脚部はカロテノイドやオムモクローム系の色素と、甲殻表面の微細構造による光の反射が組み合わさって発色しているとする説がある。
他にも、多くのカニやエビの殻には、アスタキサンチンという赤い色素が含まれているため、この色素がクルスタセオルビンというタンパク質と結合することで、光の反射の仕方が変化し、青や紫に見えるようになるという説もある。
ただし、すべての青~紫色のカニの色が、必ずアスタキサンチン由来とは限らない。鑑賞用のカラフルなカニの中には、メラニンなど他の色素によるものもいる。
今回の紫色のシリントーンクラブは一種の突然変異なのか、それとも何らかの進化の道筋の結果なのか、今後の研究が待たれるところだ。
野生動物と野鳥の宝庫の国立公園
ケーンクラチャン国立公園には、ヒョウやキングコブラ、ヒロハシバシなど、多様な野生生物が生息している。
キャンプやバードウォッチングなどで訪れる人も多く、駐在しているレンジャーの案内で公園内を探検することも可能である。
バンコクから車で2~3時間と、一泊旅行でも行ける場所ではあるし、雨季の初めで運が良ければ、この美しいカニに出会える可能性も皆無ではない。
とはいえ、自分の車がないと結構厳しいとの話を聞くので、行ってみたいと思う人はレンタカーを手配した方がいいかもしれない。
References: Rare purple crabs[https://www.popsci.com/environment/purple-crabs-thailand/] / Inaturalist[https://www.inaturalist.org/taxa/109353-Phricotelphusa-sirindhorn]
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。