
鮮やかな色彩と造形で知られているクジャクの羽が、実は特定の条件下でレーザー光を放つことができることが、最新の研究で明らかになった。
これは動物の体の構造を利用した「生体レーザー」の最初の例とされ、科学者たちはこの現象のメカニズムを調べることで、新しい光学技術の開発につなげようとしている。
将来的には、医療用の埋め込み型センサーや偽造防止素材など、さまざまな応用が期待されている。
この研究は『Scientific Reports[https://www.nature.com/articles/s41598-025-04039-8]』誌(2025年7月1日付)に掲載された。
クジャクの羽が色鮮やかな秘密
クジャクといえば、大きく広げた尾羽の鮮やかな青や緑の色が特徴だ。しかしその色は、絵の具やインクのような色素でできているわけではない。
羽の表面には、人の目では見えないほど小さな模様が整然と並んでいる。この模様が光を細かく散らし、虹のように色を分けて見せている。
この非常に小さな模様は「ナノ構造」と呼ばれ、CDやDVDの表面が光の角度で色を変えるのと似た仕組みだ。
羽の内部には「小羽枝(しょううし)」という細い繊維があり、その表面は髪や爪と同じたんぱく質のケラチンで覆われている。
中にはメラニン色素が詰まっていて、小羽枝の間隔や並び方によって反射する光の色が変わる。そのため羽全体に鮮やかな模様が浮かび上がる。
同じような構造は、蝶の羽やカブトムシの体にも見られる。
クジャクの羽に“レーザー光を生み出す仕組み”を発見
アメリカのフロリダ工科大学とヤングスタウン州立大学の研究チームは、市販のクジャクの羽を使って実験を行った。羽に特殊な染料をしみ込ませ、強い光を一瞬だけ当てて観察したのだ。
すると、尾羽の目玉模様(アイスポット)の部分から、黄緑色の光がレーザー光のような性質で放たれていることがわかった。
特に緑色の部分では、他の色よりも強い光が出ていた。
レーザーとは、光を増幅して、まっすぐに、整った形で出す特殊な光のことだ。
普通の光とは違い、波の高さやタイミングがそろっている。レーザーを作るには「光共振器(ひかりこうきょうしんき)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%89%E5%85%B1%E6%8C%AF%E5%99%A8]」という仕組みが必要になる。
これは、鏡の間で光を何度も反射させ、波をそろえる装置のようなものだ。
今回の研究で、クジャクの尾羽の目玉模様には、この光共振器のように働くナノ構造があることがわかった。
そしてそこから放たれる光は、緑と黄橙色という限られた波長だけだった。これはまさに、光が整った形で出ている証拠だという。
なぜクジャクはそんな構造を持っているのか?
では、なぜクジャクはそんな高度な仕組みを羽根の中に持っているのだろうか?残念ながら、その理由はまだはっきりしていない。
だが最近の研究では、多くの動物が人間には見えない紫外線などの光を使って、お互いにコミュニケーションを取っていることがわかってきている。
もしかすると、クジャク同士には、羽根のレーザー光のような輝きが見えていて、それが求愛や縄張りのアピールに役立っているのかもしれない。
様々な技術に応用できる可能性
今回の研究では、羽のどの部分が光を強める役割をしているのかまでは特定できなかった。
しかし、研究を行ったネイサン・ドーソン氏らは、この現象を応用して、人の体の中でも安全に使えるレーザー光源が作れると考えている。
もし実用化されれば、体内に入れて病気を調べるセンサーや、医療用の精密な光治療などに使えるかもしれない。
クジャクの羽の中の小さな仕組みが、未来の医療を変える鍵になる可能性があるのだ。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41598-025-04039-8] / Mind-Blowing Discovery: Peacocks Have Lasers In Their Tails[https://www.sciencealert.com/mind-blowing-discovery-peacocks-have-lasers-in-their-tails] / Peacock feathers can emit laser beams[https://arstechnica.com/science/2025/07/scientists-use-peacock-feathers-to-make-frickin-laser-beams/]
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。