ジャガイモはトマトから進化した。900万年前の野生種の自然交配で起きた野菜革命
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 トマトとジャガイモ、一見まったく異なる野菜に見えるが、実は深いつながりがあった。

 中国をはじめとする国際チームが発表した新たな研究によると、約900万年前、南米に自生していたトマトとジャガイモに似た植物が自然交配を行い、現在のジャガイモの原型が誕生したという。

 この驚きの発見は、私たちが食べている「塊茎(かいけい:植物の地下茎の一部が肥大化したもの)」というイモの部分が、偶然による異種間の交雑によって進化したことを伝えている。

 この研究は『Cell[https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00736-6?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0092867425007366?showall=true]』(2025年7月31日付)に掲載された。

ジャガイモはどこからやってきたのか?

 世界各地で栽培されているジャガイモだが、そのポピュラーさのわりに起源不明のミステリアスな作物でもある。

 見た目こそチリ原産の野生種「エツベロスム(Etuberosum)[https://en.wikipedia.org/wiki/Solanum_etuberosum]」にそっくりだ。ところが、このナス属の植物には「塊茎(かいけい)」、すなわち地地下茎が膨らんで養分を蓄えるイモの部分がない。

 一方で、系統解析によると、ジャガイモはむしろトマトに近いことが明らかになっている。

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ジャガイモはトマトとエツベロスムの自然交配から誕生した

 はたしてジャガイモはどこからやってきたのか?

  この謎を解明するために、中国農業科学院深圳農業ゲノム研究所をはじめとする国際研究チームは、ジャガイモの栽培種450種と野生種56種のゲノムを解析した。

 論文の筆頭著者チャン・ジヤン氏は、「採取が難しい野生のジャガイモですが、今回のデータセットはこれまでに解析された中で最も包括的なゲノム情報でした」と語る。

 そして分かったのは、どのジャガイモ種にもエツベロスムとトマト両方の遺伝子情報が含まれているということだ。

 つまり、大昔に両種が交雑し、それによってジャガイモが誕生したと考えられるのだ。

 エツベロスムとトマトは遠く離れた種だ。だがおよそ1400万年前には共通の祖先が存在した。

 この共通祖先から枝分かれしてから500万年後、それぞれ独自の進化の道のりを歩んだ両種だったが、それでもまだ交配することができた。

 そして今から900万年前に自然交配が起きて登場したのがあの美味しいジャガイモの祖先だったのだ。

 今回の研究では、イモの部分(塊茎)の形成に不可欠な遺伝子が、エツベロスムとトマトの両方から受け継がれたことも明らかになっている。

 すなわちトマト由来の「SP6A遺伝子」は、塊茎を作るタイミングを伝えるスイッチとして機能する。一方、エツベロスム由来の「IT1遺伝子」は、塊茎を形成する地下茎の成長を制御する。

 あの美味しい塊茎は、この2つの遺伝子がそろって初めて成長が可能になったのだ。

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激変するアンデスの環境を生き抜いたジャガイモ

 実は900万年前の登場時期は、ちょうどアンデス山脈が急激に隆起し、新しい生態系が生まれていた時期と一致する。

 おそらく初期のジャガイモは、地下に栄養を蓄える塊茎を持つことで、寒冷で厳しい山岳地帯に適応し、生き延びることができた。

 さらに塊茎のおかげで種や受粉なしで繁殖できるようになったことも、温暖な草原から高地の寒冷な草地まで、ジャガイモが多様な環境に広がることを手助けした。

 そんなわけで、900万年前に南米で起きたトマトとエツベロスムの自然交配は、まさしく野菜の革命だったのだ。

 そのおかげで塊茎を持つ最初のジャガイモが誕生し、アンデス山脈の厳しい環境でも生き残ることができた。

 そしてジャガイモはさまざまな進化を遂げて世界中に広がり、私たちの胃袋に収まるようになったというわけだ。

References: Cell.com[https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00736-6?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0092867425007366?showall=true] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1092263]

本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。

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