冷たさと暖かさは別の経路で脳に伝わる 皮膚と脳をつなぐ「冷感経路」とは?
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皮膚から脳へ温度を伝える経路は、暖かさも冷たさも同じ神経経路を使っていると長らく考えられてきた。だが今回の研究で、その常識が覆された。

 冷たさには、それだけを伝える専用の経路が存在していたのである。

 アメリカの研究チームがマウスを用いた実験で、皮膚から脳に冷たさを伝える経路の全体像を初めて明らかにした。

 今回の発見により、冷たさと暖かさは異なる道筋で脳に届くことが分かった。これは感覚の仕組みに対する理解を大きく塗り替える成果である。

この研究は、2024年7月28日、科学誌『Nature Communications[https://go.redirectingat.com/?id=92X1590019&xcust=livescience_row_1426287413276175655&xs=1&url=https%3A%2F%2Fwww.nature.com%2Farticles%2Fs41467-025-61562-y&sref=https%3A%2F%2Fwww.livescience.com%2Fhealth%2Fneuroscience%2Fwarm-and-cool-temperatures-travel-on-completely-different-paths-to-the-brain-study-finds]』に掲載された。

冷たさ専用の経路が存在した

 皮膚には、温度を感じ取るための「センサー」のような細胞がある。今回の研究では、特に15~25℃くらいの「ひんやり」と感じる温度に反応するセンサーが注目された。

 このセンサーが冷たさを感じると、まず皮膚の神経細胞が信号を出す。その信号は背骨の中を通る脊髄(せきずい)に送られ、そこから脳へと届けられる。

 これまでは、この途中の経路が冷たさも暖かさも同じだと考えられていた。

 だが今回の調査で、冷たさだけを受け取り、しかも信号を「増幅」する特別な細胞が脊髄(せきずい)に存在することがわかった。

 これまでは、この途中の経路が冷たさも暖かさも同じだと考えられていた。だが今回の調査で、冷たさだけを受け取り、しかも信号を「増幅」する特別な細胞が脊髄に存在することがわかった。

この細胞は「介在ニューロン[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8B%E5%9C%A8%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%B3]」と呼ばれる。

 介在ニューロンは、脊髄(せきずい)や脳の中で神経同士をつなぐ中継役のような細胞だ。

 単なる通訳ではなく、受け取った信号を強めたり、逆に弱めたり、情報を選別する役割も持っている。

 今回見つかったのは、その中でも「冷たい刺激」だけを選び取って強くし、脳に送り出す特化型の介在ニューロンだった。

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実験で確かめられた冷感経路の働き

 研究チームは、マウスの脊髄にあるこの介在ニューロンを働かなくする実験を行った。その結果、マウスは冷たい物に触れても反応しなくなった。

 逆に、暖かさや熱さには変わらず反応した。このことから、冷たさを脳に伝えるにはこの専用経路が必要不可欠であることが証明された。

 実は、皮膚の温度センサー自体は以前から知られており、その研究は2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞[https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2021/press-release/]している。しかし、脊髄で冷たさの信号が特別に処理されるという仕組みは、今回初めて明らかになった。

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医療への応用も視野に

 この発見は、医療の現場にも役立つ可能性がある。

 たとえば、がんの化学療法を受ける患者の中には、軽く冷たい空気や水に触れただけで強い痛みを感じる「寒冷アロディニア」という症状を持つ人がいる。

 寒冷アロディニアとは、本来なら痛みを感じないはずの弱い冷たさに触れただけで、強い痛みや不快感を感じてしまう状態のことだ。

 氷水に手を入れたときのような痛みが、冷たい風や水道水程度でも起こる場合がある。この症状は日常生活にも支障をきたすため、患者にとって大きな負担となっている。

 冷たさ専用の経路を理解すれば、このような症状を和らげる新しい治療法が開発できるかもしれない。

 ドゥアン准教授は「今回の成果は、感覚の仕組みを解き明かすための大きな一歩だ」と話す。今後は、この冷たさ専用経路が痛みやかゆみといった他の感覚の経路とどう関わっているのか、さらに詳しい研究が進められる予定だ。

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