太陽の360億倍の質量をもつ、史上最大級のブラックホールを発見
史上最大級の大きさを持つブラックホール/Credit: NASA/ESA

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  イギリスのポーツマス大学の天体物理学者たちが、太陽の約360億倍という驚異的な質量を持つブラックホールを発見した。

 このブラックホールは、地球から約56億光年離れたしし座に位置する「コズミック・ホースシュー(宇宙の蹄鉄:Cosmic Horseshoe)」と呼ばれる重力レンズ系の中心にある。

2つの銀河から成るこの系は、その形が馬蹄に似ていることでも知られる。

 今回の天体は、これまで知られている中でも最大級の可能性があり、宇宙で存在し得る理論的な質量の上限に迫っている。

 研究者によれば、この超巨大ブラックホールとコズミック・ホースシューは、ともに進化の最終段階に到達した姿だという。

 この研究は『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society[https://academic.oup.com/mnras/article/541/4/2853/8213862?login=false]』(2025年8月7日付)に掲載された。

宇宙最大級、360億太陽質量の怪物ブラックホール

 太陽の約360億倍という途方もない質量を持つブラックホールが、地球から約56億光年離れた銀河の中心で発見された。

 発見したのは、ポーツマス大学の天体物理学者トーマス・コレット氏らの研究チームで、このブラックホールは既知の中でも質量が上位10位に入り、史上最大である可能性もあるという。

 この巨大ブラックホールがあるのは、「コズミック・ホースシュー(Cosmic Horseshoe)」と呼ばれる天体だ。

 馬の蹄鉄のような形をしていることからその名が付いたが、実際には2つの銀河が並んだ「重力レンズ系」である。

 地球から見て手前にある銀河は非常に質量が大きく、その重力が背後の遠方銀河から届く光を曲げてしまう。

 このとき、光が銀河の周囲を回り込むように進むため、背後の天体が輪のように映し出されることがある。この現象が「アインシュタインリング」である。

 銀河や銀河団などの強い重力がレンズのように働き、背後の天体からの光の進む道を曲げることで生じる。

 時空が歪むため、光は手前の天体の周囲を回り込むように届き、結果として背後の天体がリング状の像として映し出されるのだ。

 コズミック・ホースシューの場合、完全な輪ではなく馬蹄形に見えるため、この名前が付けられた。そして今回の怪物ブラックホールは、この重力レンズを生み出している手前の銀河の中心に存在している。

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新たな手法で超巨大ブラックホールの測定が可能に

 今回の発見は、「重力レンズ」と「恒星運動解析(stellar kinematics)」を組み合わせた新手法の成果だ。

 恒星運動解析とは、ブラックホール周囲の恒星の速度や軌道から質量を推定する方法のこと。そのメリットは、完全に沈黙しているブラックホールでも検出できることだ。

 実は今回のブラックホールは、巨大である一方、周囲から物質を取り込んでいない休眠ブラックホールであることが確認されている。

 周囲の物質を吸い込んで強烈に輝く「クエーサー」ではないのだ。したがって、これを見つけるには、純粋にその重力の影響を手がかりにするしかなかった。

 そしてその測定によるなら、コズミック・ホースシューのブラックホールは、銀河の星々を秒速約400km、つまり光速の0.1%という驚異的な速度で動かしている。

 しかもその質量は、天の川銀河中心にある「いて座A*」の約1万倍だ。

 多くの銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在するが、中でもひときわ大きい太陽の50億倍以上の質量を持つブラックホールを「ウルトラマッシブ・ブラックホール」という。

 コズミック・ホースシューはまさに「ウルトラマッシブ・ブラックホール」だ。

 「これはこれまでに発見されたブラックホールの中でも質量がトップ10に入る存在で、おそらく史上最大かもしれません」(コレット氏)

 単純な大きさだけなら、太陽の約660億倍とコズミック・ホースシューの倍の質量があるブラックホール「TON 618」がすでに見つかっている。

 既知のブラックホールには、太陽の約660億倍の質量を持つとされる「TON 618」がある。

 距離は地球から約108億光年だが、宇宙の膨張を考慮すると現在の位置は約168億光年離れていると推定される。

 こうした距離の違いは、光の旅の時間と宇宙膨張の影響を分けて考える必要があるためだ。

 ただし、TON 618 の質量は間接的な推定に基づいており、観測データやモデルには大きな不確定要素がある。したがって、これが本当に宇宙最大のブラックホールかどうかは断定できない。

 一方で、コズミック・ホースシューのブラックホールは、重力レンズ効果と恒星運動学を組み合わせた観測により、より高い確度で質量が測定されている。

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銀河とブラックホールの最終形態

 そんな怪物ブラックホールを宿すコズミック・ホースシューも、ただの銀河ではない。銀河が進化の果てにたどり着く最終形態「化石銀河群」と呼ばれるカテゴリーに属しているのだ。

 つまり、それは重力で縛られた複数の小さな銀河が1つに融合することで形成されたと考えられている。

おそらく、元々の伴銀河にあったすべての超大質量ブラックホールが合体し、今回検出されたウルトラマッシブ・ブラックホールを形成したのでしょう

つまり私たちは銀河形成の最終形態、ならびにブラックホール形成の最終形態を目の当たりにしているのです(コレット氏)

 今回のコズミック・ホースシューのブラックホール発見につながった重力レンズ効果と恒星運動解析を使えば、宇宙のどこかにはきっとあるだろう他の沈黙したウルトラマッシブ・ブラックホールも見つけらられると期待できるそうだ。

追記(2025/08/10):一部の誤りを訂正して、補足をくわえて再送します。

References: Is this the biggest black hole ever discovered?[https://www.nature.com/articles/s41550-025-02563-1] / Astronomers Discover Most Massive Black Hole Yet[https://cosmosmagazine.com/space/astronomy/biggest-black-hole-discovered/] / Sci.news[https://www.sci.news/astronomy/cosmic-horseshoe-black-hole-14122.html]

本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。

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