ロンドンマラソンの女性ランナーの尿を肥料化し、小麦栽培に活用する試み
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 マラソン前のトイレ行列は、ランナーなら誰もが知る小さな試練だ。緊張感と同時に尿意も高まりを見せるからだ。

 2025年のロンドンマラソンでは、その切実な時間を少しでも和らげようと、女性ランナー専用の特別なトイレがスタート地点に用意されていた。

だが驚くべきはその後だ。このトイレで効率的に集められた尿は、畑を潤す液体肥料として再利用される計画が進められていたのである。

 1,000リットル分の尿で、3,000本のパンを焼けるだけの小麦が育つという試算が出され、環境と食をつなぐ新たな挑戦として注目を集めている。 

スタート地点に並ぶカラフルな女性専用トイレ

 2025年4月21日、ロンドンマラソンのスタート地点のひとつであるグリニッジ・パーク「イエロースタート」エリアに、見慣れない形状のトイレブースが設置された。

 これは英国ブリストル発のスタートアップ企業Peequal[https://www.peequal.com/]社が開発した、女性専用の半屋外型仮設トイレ、「Peequal(ピークアル)」である。Pee(ピー)は尿のことだ。

 以下の画像左側が、女性の尿専用トイレブース、ピークアルだ。入り口には可愛いイラスト付きで、「pees not poos(尿専用、便はご遠慮を)」と書いてある。

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 従来の仮設トイレは個室に入って便座に座る方式だが、ピークアルは台座をまたぎ、中腰の姿勢で用を足す構造だ。

 このスタイルにより、座る必要がなく、短時間で利用できるため、イベント会場での女性トイレ待機時間を大幅に短縮できる。 

 和式トイレのように深くしゃがむわけではないが、日本人ならこの形状を見たらしゃがんでしまいそうだよね。

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「待たなくて済む」と利用者からは大好評

 このようなイベント会場では、女性トイレの行列が男性より最大で34倍も長くなる傾向があるという。

 だがこの仮設トイレ、なんと女性の平均的なトイレ時間を270%も短縮するらしい。

参加者たちの間では、「待たなくていい!」「最高!」と大好評なんだそうだ。

 その結果、従来型のものよりも回転率が高くなることから、マラソンや音楽フェスといった大規模イベントでの導入が進んでいるそうだ。

 ロンドンマラソンの出場者、スーザン・ファレルさんは、興奮気味にこう話す。

ピークアルの新型のトイレを使ったことがありますが、そのデザインはプライバシーを損なわず、本当に列を飛ばしているみたいで得した気分になりました。

これまでは男性がスイスイ通り抜けるのを見て、「どうして私たちは待たなきゃいけないの?」と思っていましたが、今はもう大丈夫。もっと多くのイベントで、このトイレが見られるようになることを願っています

 他の参加者からたちからも、以下のような声が届いている。

 中腰になるのがきついという人も少なくないようだが、壁にもたれかかったり、ハンドルを握れば安定する。それ以上に「待たなくて済む」ポイントが大きかったようだ。

  • とにかく速いし、簡単だし、何よりも臭くないのよ!
  • もっと多くの場所に設置してほしいわ
  • 清潔だし、最高に素晴らしいトイレよ
  • 本当に、本当に助かったわ
  • 汚いものに触る必要がないのがいいわね
  • 安全だし、とても快適よ
  • 長い列に並ばなくていいんだもの、素晴らしい「トイレ体験」になったわ
  • でもちょっとしぶきが足にかかっちゃったのよね
  • ズボンをはいているから、うまくできるか心配で行かなかったの
  • スクワットの姿勢は太ももにきついんだけど、そのうち慣れると思うわ

 ピークアルの仮設トイレの使い方を紹介する動画がこちら。しっかり踏ん張ってしゃがんで用を足すよう案内されている。

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 なお、待ち時間の短縮は、マラソンのスタート前の心理的負担を軽減する効果もあるそうだ。

 Peequal社の共同創業者 アンバー・プロバインさんは次のように語っている。

女性はレースのスタート時間かトイレかのどちらかを選ばなければならない、という状況に置かれるべきではないと、私たちは強く信じているんです

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女性ランナーの尿を肥料に転換して小麦栽培に活用

 今回、ロンドンマラソンにピークアルが設置された背景には、もうひとつの大きな目的があった。

 それは、利用者の尿を資源として回収し、農業に活用するという試みである。

 この取り組みは、女性用立ち小便型トイレを提供するPeequal社、栄養分の回収技術を持つNPKリカバリー社、そしてイギリスの王立農業大学(RAU)が連携して実施している。

 マラソン当日、ピークアルの各ユニットに設置されたタンクからは約1,000リットルの尿が集められた。

 集められた尿は、その場で処理されるのではなく、NPKリカバリー社の施設に運ばれる。

 ここで、尿に含まれる窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)といった植物に不可欠な栄養素をバクテリアの力で回収し、細菌や不純物を取り除いて衛生的な肥料に変える。

 最終的に得られるのは液体または結晶化された肥料で、農地で直接利用できる形態だ。

NPKリカバリー社の試算によれば、スタート地点で集めた1,000リットルの尿は、3,000本のパンを焼くのに必要な小麦を育てるだけの肥料になるという。

 これはイベントPR向けの推定値だが、同社が示す現実的な換算では約195本分のパンに相当する。

 2024年の大会参加者53,700人全員から平均的な量を回収できたとすれば、パン3,000本以上に相当する小麦を育てられる計算になる。

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王立大学での試験予定

 NPKリカバリー社が製造した尿由来の肥料は、RAUの試験農場に送られ、小麦の生育にどのような効果をもたらすかを評価する比較試験が行われる予定だ。

 試験では、尿由来の肥料と従来の硝酸アンモニウム肥料を用いた場合とで、茎葉の成長や植物全体の健康状態を比較する。

 尿は主に水分で構成されるが、肥料成分として重要な窒素、リン、カリウムを高濃度で含む。

これらは化学肥料の主要成分でもあり、その再利用は化学肥料への依存を減らす手段となり得る。

 ランナーの尿を安全に処理し農地へと還元するこの取り組みは、短期間のイベントと長期的な農業生産を結びつける資源循環の一例だ。

 ロンドンマラソンのサステナビリティ責任者ケイト・チャップマンさんは、「私たちの環境戦略の一部は、イベントで発生するすべての廃棄物に次の用途を見つけることです。

 堆肥化や再利用、アップサイクルなど方法はさまざまですが、尿がこれほど前向きな形で利用できるのは嬉しいことです」と語る。

 試験の結果は今後公表される見込みで、農業分野における持続可能な肥料利用の新たな一歩として期待されている。

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References: Pee From Runners at the London Marathon is Going to Be Turned into Fertilizer for Wheat[https://www.goodnewsnetwork.org/pee-from-runners-at-the-london-marathon-is-going-to-be-turned-into-fertilizer-for-wheat/] / Loos to loaves: How the ‘nervous wees’ of London Marathon runners are being turned into fertiliser[https://www.euronews.com/green/2025/04/26/loos-to-loaves-how-the-nervous-wees-of-london-marathon-runners-are-being-turned-into-ferti]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。

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