
イスラエル中部の古代都市シロ遺跡で、『旧約聖書』に記された移動式神殿「幕屋」と一致する構造物が発見された。
遺構の寸法や方位、儀式の痕跡は聖書の記述と合致しており、十戒が刻まれた石板を収めた「契約の箱」がここに安置されていた可能性があるという。
契約の箱は古代イスラエルで最も神聖な聖具とされ、その行方はいまも謎に包まれている。
今回の発見は、聖書の物語と考古学的証拠を結びつける重要な手がかりとなるかもしれない。
旧約聖書の記述と一致する移動式神殿「「幕屋」を発見
この発掘を行ったのは「聖書考古学研究協会[https://biblearchaeologyreport.com/2023/07/20/footsteps-three-things-in-shiloh-samuel-likely-saw/]」のスコット・ストリプリング博士率いるチームで、古代都市シロで発見された遺構は長辺と短辺の比が2対1となる矩形で、東西方向に正対して配置されていた。
これは旧約聖書に記された幕屋の仕様と一致しており、現場では内部を二つに分ける厚い壁状の区画も確認された。
幕屋[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%95%E5%B1%8B]は、聖書に登場する移動式の神殿のことで会見の天幕とも呼ばれる。
出エジプト記[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%87%BA%E3%82%A8%E3%82%B8%E3%83%97%E3%83%88%E8%A8%98]によると、モーセが神の指示を受けて造らせたもので、内部には「聖所」と「至聖所」に分かれ、至聖所には契約の箱を安置したとされている。
儀式の痕跡を示す大量の動物骨
遺構の周辺からは、10万点を超える動物の骨が出土した。羊、ヤギ、牛が中心で、その多くが右半身に偏っている。
旧約聖書『レビ記[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%93%E8%A8%98]』第7章には、いけにえの右半身を祭司に捧げる規定があり、この特徴と一致していた。
発掘現場からは、骨とともに鉄器時代I期(紀元前1200~1000年頃)の土器も発見された。
この年代は、幕屋がシロで約400年間使用されたとされる時期と合致する。
契約の箱とは何か
契約の箱[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%91%E7%B4%84%E3%81%AE%E7%AE%B1]は、旧約聖書に登場する最も神聖な聖具である。聖書によれば、モーセが紀元前15世紀頃に神の指示を受けて製作した。箱はアカシア材で作られ、内外を金で覆い、長さ約125cm、幅と高さは約75cmだった。
上部には「贖いの座(Mercy Seat)」と呼ばれる金の蓋が置かれ、その両端にケルビム像が向かい合って据えられていた。
ケルビム(智天使)は聖書に登場する天使的存在で、多くの翼と複数の顔を持つと描かれることもある。
『エゼキエル書』や『黙示録』には、人間、獅子、雄牛、鷲の顔を合わせ持つ姿が記され、神の御座や聖域を守る象徴とされている。契約の箱のケルビム像は、左右一対が翼を広げて中央の贖いの座を覆う形で作られていた。
契約の箱の中には三つの聖なる品が収められていたとされる。
・十戒の石板:神がモーセに授けた十の戒めを刻んだもので、神とイスラエル民族の契約の証とされた
・マナを入れた壺:出エジプトの旅の途中、神が天から降らせて人々を養った白い食物「マナ」を保存したもので、神の恵みと導きを象徴する
・アロンの杖:モーセの兄で大祭司となったアロンの持っていた杖で、ある出来事で芽を出し花を咲かせたとされ、祭司の正統な権威を示す象徴とされた
契約の箱は至聖所に安置され、年に一度の大贖罪日には大祭司がここで儀式を行った。
紀元前586年、バビロンによるエルサレム破壊以前に記録から姿を消し、その行方はいまも不明である。
宗教と政治の中心だった古代都市シロ
シロはエフライム山地に位置し、エルサレムの北約31kmにある古代都市である。
交易路に近く、イスラエル諸部族が集まりやすい立地条件を備えていた。
『ヨシュア記[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%A2%E8%A8%98]』によれば、イスラエルの民はこの地に幕屋を設置し、以後およそ300年間、宗教と共同体運営の中心として機能したという。
ヨシュア記は旧約聖書に収められた歴史書で、モーセの後継者ヨシュアがイスラエル民族を率いてカナンの地に入植し、部族ごとに土地を分配する過程が描かれている。シロはその舞台の一つとして記録されている。
『サムエル記[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%82%A8%E3%83%AB%E8%A8%98]』第4章には、大祭司エリがこの地で幕屋を管理していたこと、そしてペリシテ人による契約の箱の奪取と、その知らせを聞いたエリが倒れて亡くなった出来事が記されている。
サムエル記』士師時代からイスラエル王国の成立期までの歴史を扱う書で、預言者サムエルや最初の王サウル、ダビデの物語を含む。
発掘が示す新たな可能性
今回の遺構には、至聖所と聖所を隔てるとみられる厚い壁が残っており、聖書の構造描写と一致していた。
このことから、ここが契約の箱を安置した空間であった可能性が高まっている。
ストリプリング博士は、エリが亡くなったとされる門の遺構を発見した可能性も指摘している。
シロでの発掘はイスラエル最大規模の考古学プロジェクトであり、毎年新たな成果が発表されている。
古代イスラエルの宗教儀礼と歴史を知る上で、今後も注目される現場である。
References: FOOTSTEPS: Three Things in Shiloh Samuel Likely Saw[https://biblearchaeologyreport.com/2023/07/20/footsteps-three-things-in-shiloh-samuel-likely-saw/] / Cbn.com[https://cbn.com/news/israel/archaeologist-excited-recent-finds-ancient-shiloh-biblical-site-ark-tabernacle] / Ancient-origins[https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/tabernacle-shiloh-0022314]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。