インドネシアで100万年前の石器発見、フローレス島の“ホビット”との関係も
スラウェシ島カリオで発見された石器/Credit: M.W. Moore/University of New England

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 インドネシアのスラウェシ島で、100万年以上前の人類の石器が発見された。同島でこれまでに見つかった人類活動の痕跡よりも5倍も古いものだ。

 今の時点で、石器を作った人類が何者であるのか確かなことは分からない。

 だが、オーストラリア・グリフィス大学やインドネシアの研究チームによるこの発見は、東南アジアにおける初期人類の拡散を解き明かす手がかりとなる。

 そして、謎の多い小型のヒト属と考えられてい「フローレス人(通称”ホビット”)の起源に関係している可能性もあるという。

この研究は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09348-6]』(2025年8月6日付)に掲載された。

人類は予想よりずっと早くスラウェシ島に到達していた?

 今回の7点の石器は、インドネシア中部にある同国4番目の島「スラウェシ島」、その南部の「カリオ(Calio)遺跡」で出土した。

 この遺跡は約100万年前の更新世初期のもの。当時は氷期にあたり、世界の海面は現在より最大100mも低かったが、それでもスラウェシ島はインドネシアの他の島々や東南アジア本土から海で隔てられていた。

 また石器の年代は、堆積物の古地磁気測定と同じ地層で見つかったブタの骨の年代測定により、148万~104万年前と推定されている。これはこの島でこれまでに発見された人類の痕跡より5倍も古いものだ。

 つまり、初期人類は、これまで想定されたいたよりずっと早い時期に、海を渡ってスラウェシ島へ辿り着いていた可能性が高いということだ。

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フローレス島の“ホビット”はスラウェシ島からやってきた?

 インドネシアの島々は人類史においても特異な存在である。

 現在は1万7,000以上の島々からなる同国だが、かつては陸橋や島伝いの経路が存在し、初期人類や現生人類はアジア本土から太平洋地域、さらにはオーストラリアまで渡ることができた。

 そうした人々の中に、実在した”ホビット”というべき、謎めいた初期人類がいる。

 彼らが残した骨と石器は、”カリオ遺跡から南へ約500kmの「フローレス島」で発見されたことから、その名を「フローレス人(ホモ・フローレシエンシス)」という。

 少なくとも20万~5万年前にそこで暮らしていた彼らは、身長わずか1mほどしかなかった。

 これまでの研究では、ホモ・エレクトスの子孫だが、孤立した島でしばしば起きる「島嶼化」という進化によって背丈が小さくなったのだと考えられている。

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 これまでフローレス島で発見された石器が102万年前に遡るものであるのに対し、スラウェシ島のものは20万年前までしか遡れなかった。

 だが今回、スラウェシ島でそれよりずっと古い100万年前の石器が発見された。

 それはつまり、スラウェシ島の人類がフローレス島と同じか、それ以上に古いということだ。これを踏まえると、フローレス人は実はスラウェシ島からやってきた可能性も考えられるのだ。

 オーストラリア、グリフィス大学のアダム・ブラム教授は、こうした発見について人類の移動の歴史を紐解く手がかりと語っている。

この発見は、絶滅人類がウォレス線を越えて移動した経緯を理解する手がかりです。ウォレス線の向こう側では、特異でしばしば奇妙な動物種が孤立した環境で進化してきました(ブラム教授)

 ウォレス線とは、ボルネオ島とスラウェシ島の間、およびバリ島とロンボク島の間を通る生物の分布境界線のことだ。

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人類進化の行方を左右する謎の島・スラウェシ

 とはいえ、カリオで見つかったのは石器だけで、それを作った肝心の人類の化石はまだ発見されていない。

 つまり、100万年前のスラウェシ島に人類がいたことは確かでも、その正体は今も謎に包まれているのだ。

 ブラム教授によると、石器を作った人類の種類だけでなく、その用途も定かではないという。

 ただし、縁が鋭い石の剥片であることから、肉を切ったり、木や骨を削ったりといった作業に役立ったことは間違いないとみられる。

 「スラウェシは何が飛び出すかわからない予測不能な存在で、それ自体が小さな大陸のようなものです」と、ブラム教授は語る。

 世界で11番目に大きいスラウェシ島は当時、複数の小島から成り、河川や海岸平野など、多様で豊かな環境が広がっていたとされる。

 それほど魅力的な場所でありながら、これまで体系的な調査が行われたのはほんの一部に過ぎない。

 ゆえに、この島にはまだ数え切れないほどの謎が眠っており、考古学者にとっては新発見の可能性に満ちた舞台なのだと教授は話している。

References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09348-6] / Island neighbours of “Hobbit” ancient humans discovered[https://cosmosmagazine.com/history/archaeology/sulawesi-ancient-stone-tools/] / Theconversation[https://theconversation.com/this-stone-tool-is-over-1-million-years-old-how-did-its-maker-get-to-sulawesi-without-a-boat-262337]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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