深海9500m以下の闇に潜む「エイリアン」たち 地球最深の生態系を発見
超深海を生きる白いとげのある多毛類 / Image credit:© IDSSE/CAS

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 太陽の光が一切届かない暗黒で極限環境にある深海で、生物はどれほどの深さまで耐えられるのか?

 中国をはじめとする国際研究チームが、太平洋北西部の水深9,000m以下の最深部で目撃したのは、これまでの常識を覆すような奇妙な深海生物たちだ。

 そこには、氷のように見えるバクテリアの絨毯、二枚貝の群落、チューブワームの草原、多毛類などが生息していた。

 これまでに撮影された最も深い海で生きる脊椎動物は、2023年に伊豆小笠原海溝の水深8,336mの地点で発見されたクサウオだったが、今回の記録はさらに深い。

 極限の深海にも生命は存在するだろうとかねてから考えられてきたが、それを実際に目の当たりにした研究者たちは、その生態系の豊かさに驚嘆したという。

この研究は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09317-z]』(2025年7月30日付)に掲載された。

有人潜水艇で9000m以下の深海へダイブ

 探査が行われたのは、北海道沖からロシアのコマンダー諸島付近まで延びる「千島・カムチャツカ海溝」と、そこからアラスカ湾まで続く「アリューシャン海溝」だ。

 千島・カムチャツカ海溝は最深部で水深約9,600m、アリューシャン海溝は最大で約8,000mの深さを誇る。

 これらは「ハダル帯(Hadal zone)」と呼ばれる、深さ6,000~11,000mの海域に位置する。

 ハダル帯は海底が大きく沈み込む場所、つまり地球のプレートがぶつかって一方がもう一方の下に沈み込む「沈み込み帯」に沿って形成される。水温はほぼ0℃、圧力は地上の約1,000倍にも達し、光は全く届かない。

 中国科学深海科学工程研究所を中心とする国際研究チームは総距離2,500km以上にわたって、深度1万mでも数時間活動できる有人潜水艇「奮闘者号」に乗り、水深5,800~9,533mにおよぶ複数の海溝の探索を行った。

 彼らがそこで目にしたのは、「繁栄する群落」と評される生き物たちだ。

 「人類がまだ探検したことのない場所に行くだなんて、深海科学者にとってはワクワクものです」と、中国科学深海科学工程研究所のポン・シャオトン博士は語る。

 彼らが遭遇し、カメラでとらえたのは、多様なチューブワームや軟体動物が密集する「生命の草原」のごとき光景だ。

 中には、これまで記録されたことのない新種らしき生き物もいた。

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光が届かない超水圧環境でどうやって生きているのか?

 そうした生き物たちは、光がまったく届かない暗闇の中を、巨大な水圧に潰されることなく生きている。

 地上の生命にとっては、植物が光合成することで作り出されたエネルギーが、生きる基盤となる。では、闇に閉ざされた深海の生物はどうやって生きているのか?

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 その鍵となるのは、海底から湧き出る硫化水素やメタンといった化学物質だ。

 つまり光合成ではなく、「化学合成」によってエネルギーを作り出し、これを基盤にした生態系が存在するかもしれないということだ。

 だが具体的に、そうした化学物質がどのようにエネルギーへと変換されているのかについては、今後の研究テーマであるという。

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 さらに深海の生き物が極限の高圧環境で生きていられる仕組みも謎だ。

 「これらの生物は超高圧環境に適応するための何らかの仕組みを持っているはずです」「これも解明すべき課題です」と、中国科学深海科学工程研究所のドゥ・メイラン博士は話す。

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生命の常識を覆す発見、だが彼らはそれほど珍しくもない?

 今回目撃された深海の生き物たちは、生命はどのくらいの深度と圧力に耐えられるのかというこれまでの常識を覆すものだ。

 だが常識はずれであっても、例外的ではないかもしれない。

 そうした極限の深海の生き物たちは、ごく稀な存在などではなく、実は広く分布している可能性があるからだ。

 では、そんな海の奥底での体験は、人間である研究者にとってどのようなものなのか?ドゥ博士はこう語っている。

怖いと感じる人もいるでしょうが、私はいつも学生たちにこう勧めています。海底の窓から外を見てごらんなさい。

きっとインスピレーションを受けますよ

References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09317-z] / Bbc.com[https://www.bbc.com/news/articles/c3wnqe5j99do]

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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