「予知能力」は未来の記憶? 意識は時間を超えるかもしれないという科学者の仮説
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 未来の出来事をあらかじめ感じ取る「虫の知らせ」や「直感」は、ただの気のせいではなく、未来から届いた記憶なのかもしれない。

 アメリカの神経科学者、ジュリア・モスブリッジ博士と超心理学者、ディーン・レイディン博士らは、意識が時間を超えて未来の出来事を知る可能性について真剣に研究している。

 予知能力というとオカルトのように思われがちだが、実はその現象は科学的な実験と統計によって裏付けられてきた。

 もしこの仮説が正しいとしたら、私たちが当たり前だと思っている「時間」の概念そのものを見直す必要があるかもしれない。

父の死を予感していた少女

 1989年のある夜、4歳の少女が電話を受けた後の母の叫び声で目を覚ました。「事故でお父さんが死んだのよ!」母親は涙ながらにそう叫んだ。

 しかし少女はその知らせに驚く様子もなかった。実はその直前、出張へ向かう父と玄関で抱き合っていたとき、もう二度と会えないことを感じていたという。

 この体験は、認知神経科学者ジュリア・モスブリッジ博士が聞き取った数多くの「予知に関する証言」のひとつにすぎない。

 博士は、こうした不思議な現象を単なる偶然として片づけるのではなく、「未来の記憶」としてとらえ、科学的に解き明かそうとしている。

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科学者自身も体験していた「未来の夢」

 モスブリッジ博士は、7歳のころから予知夢のような体験を重ねていた。

 最初は本人も両親も信じていなかったが、夢の内容を日記に記録するようになると、その一部が後日、現実として起きることに気づいたという。

 もちろん記憶違いもあるが、誰にも予測できないような出来事をあらかじめ夢に見ていたケースもある。

 モスブリッジ博士は現在、フロリダ大学の未来思考センターで上級フェローを務め、人間の潜在能力と意識の可能性を研究している。

 さらに、サンディエゴ大学では物理学および生物物理学の非常勤講師として教鞭をとり、カリフォルニア州ノバトに拠点を置くノエティック・サイエンス研究所では専門研究員として意識と時間の関係を調査している。

時間は本当に「まっすぐ」流れているのか?

 モスブリッジ博士は、「予知能力を理解することは難しくない。ただ、経験のない人にとっては信じがたいだけ」と語る。

 問題は、私たちが「時間は過去から未来へと直線的に流れるもの」と信じて疑わない点にあるという。

 時間の本質は、実は物理学の世界でもまだ完全には解明されていない。

 特に量子力学の分野では、常識では理解しがたい現象が数多く報告されている。

 たとえば、「量子もつれ」という現象では、遠く離れた粒子同士が瞬時に情報を共有し合い、まるでテレパシーのように同じ動きを見せる。これはアインシュタインですら「不気味な作用」と呼んだほどである。

 このような現象は、「原因が先にあり、結果が後に続く」という時間の常識を根本から揺るがすものだ。

  さらに、研究によっては、この「もつれ」が空間だけでなく、時間にも作用している可能性が指摘されている。つまり、未来と現在が何らかの形で結びついているかもしれないというのだ。

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意識が未来を感じ取る瞬間

 モスブリッジ博士と研究を共にするディーン・レイディン博士は、こうした量子の性質と人間の意識との間に深い関係があると見ている。

 こうした仮説を裏付ける実験のひとつが、ディーン・レイディン博士によって1990年代に行われた。

 博士はノエティック・サイエンス研究所の主任科学者であり、カリフォルニア統合心理学研究所では統合心理学とトランスパーソナル心理学の特別教授も務めている。意識の科学的解明に数十年取り組んできた専門家で、『エンタングルド・マインズ』『スーパーノーマル』『リアル・マジック』などの著書がある。

 レイディン博士の実験では、参加者に脳波測定装置(EEG)を装着し、コンピュータ画面上にランダムな画像を表示した。

 画像は「ポジティブ」と「ネガティブ」の2種類に分類されており、ポジティブな画像には朝焼けの風景や笑顔の赤ちゃん、可愛い動物などが含まれ、ネガティブな画像には交通事故や戦争の現場、恐怖を感じる顔などが使われた。

 画像が表示されるタイミングは完全にランダムで、参加者には事前に内容はわからない。しかし驚くべきことに、ネガティブな画像が表示される直前にだけ、参加者の脳波に明確な反応が現れた。まるで、見ていないはずの未来の情報を、無意識のうちに感じ取っていたかのようだった。

 この「プレセンティメント(予感)」と呼ばれる現象は、その後も世界中の研究者によって30回以上繰り返し検証されており、再現性のある結果が得られている。

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CIAも研究していた「予知能力」

 予知能力に興味を持っていたのは科学者だけではない。アメリカ中央情報局(CIA)も、かつて極秘裏にこの分野の研究を行っていた。

 1995年には、その内容が機密解除され、多くの実験結果やレポートが一般公開された。

 CIAが関心を寄せたのは、戦争や諜報活動における「遠隔透視」や「未来予測」の可能性だ。相手国の秘密施設を透視したり、テロ攻撃の予知ができれば、大きな戦略的価値があると考えられていた。

 実際、CIAはスタンフォード研究所などの科学者たちに資金を提供し、「スターゲイト・プロジェクト[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88]」と呼ばれる計画を進めた。

 この計画では、選ばれた被験者たちが、何も情報のない状態で遠く離れた場所や未来の出来事を言い当てられるかを検証した。

 その中でも「遠隔透視」と呼ばれる技術は、ある程度の成功を収めたとされている。

 のちに統計学者がデータを再分析した結果、「偶然とは言えないレベルの的中率がある」と結論づけられた。

 この事実は、モスブリッジ博士のような研究者にとって大きな後押しとなった。

 予知能力は「非科学的」と切り捨てられるようなものではなく、科学的検証に耐えうる現象であるという可能性を示したのだ。

未来を見るシャーマンたちの知恵

 予知能力や直感といった感覚は、実は現代だけのものではない。何千年も前から、さまざまな文化や民族の中で「未来を見る力」を持つ人物が重要な役割を果たしてきた。

 たとえば、チベットの神託師(オラクル)は、国家の未来を占う存在として今も儀式に参加している。

 アメリカ先住民のシャーマンや、アマゾンのジャングルに暮らす部族の呪術師たちも、予知能力や霊的なメッセージを受け取る「特別な目」を持っているとされてきた。

 彼らはただの占い師ではない。植物や自然と深くつながり、特定の儀式や修行、そして幻覚性のある薬草(アヤワスカやモーニンググローリーなど)を使って、通常の意識状態を超えた「第二の視覚(セカンド・サイト)」を開くという。

 これは古くから「第三の目」とも呼ばれ、現実世界とは違う情報にアクセスするための能力とされている。

 レイディン博士は、こうした古代の知恵と現代科学が、実は同じ現象を違う言葉で説明しているのではないかと考えている。

 つまり、科学が発見しようとしている「予知能力」は、古代の人々がすでに経験として理解していた可能性があるのだ。

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予知能力の正体は量子もつれ?

 このような視点を踏まえて、レイディン博士は次のような仮説を立てている。

もし人間の意識が、量子的なレベルで「未来の自分」とつながっていたとしたら、まだ経験していない未来の出来事が、現在の脳に情報として届く可能性がある

量子もつれが、時間を越えて働くとすれば、意識も同じように過去・現在・未来をまたいで情報をやり取りしているのかもしれない

 つまり、予知とは「未来の記憶」が一時的に意識に現れる現象だと考えられる。

 これはまだ仮説の段階ではあるが、モスブリッジ博士やレイディン博士の研究、そして数々の統計的実験が、この可能性を裏付ける方向に進んでいる。

デジャヴも「未来の記憶」なのか?

 誰しも一度は、「これ、前にも体験したことがある気がする…」という奇妙な感覚を味わったことがあるはずだ。これが「デジャヴ(既視感)」と呼ばれる現象だ。

 心理学では、記憶のズレや脳の誤作動だと説明されることもあるが、モスブリッジ博士らの見方では、デジャヴは未来から届いた記憶の断片である可能性もあるという。

 もし意識が時間を超えて未来にアクセスすることができるなら、私たちの脳はときに、その情報を「過去の記憶」として誤認してしまうことがあるのかもしれない。

 デジャヴは、もっとも身近に体験できる“予知能力”の形なのかもしれない。

     意識は、時間の流れから一時的に外れ、未来の情報を受け取ることができるのかもしれない。 

    References: Everything in the Universe—Even Aliens—May Share a Form of Consciousness, Scientists Say[https://www.popularmechanics.com/science/a65653221/science-of-precognition-explained/]

    本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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