
アメリカのアラバマ州センターポイントの住宅街で、1匹の飼い犬が相次いで人骨を持ち帰るという異例の出来事が続いた。
2025年8月8日、犬が新たな骨を見つけたことで、静かな住宅街は未解決殺人事件をめぐる捜査の現場と化した。
これまでも犬により、頭蓋骨や大腿骨など人骨が発見され、DNA鑑定の結果、同一人物のものと確認されたが、いまだ身元は判明していない。
平和で穏やかだった住宅街の裏側に、思いもよらぬ殺人現場が隠されていた可能性が浮かび上がり、地域は騒然としているという。
愛犬が人骨を拾い集めて来る
2025年8月9日午前10時45分頃、アメリカのアラバマ州センターポイントの保安官事務所は、犬が近所の森から人骨を拾ってきたという通報を受けた。
正直、通報を受けた係官は「またしても!」と思ったかもしれない。その犬が人骨を持ち帰ったのは、なんとこの1年間で4回目だったのだ。
犬の名前は「チカリン」といい、2歳のメスのジャーマンシェパード・ミックスだ。
最初の「発見」は、2024年8月20日のことだった。チカリンと、当時まだ生きていたもう一匹の飼い犬が、自宅そばの道路で頭蓋骨を嗅ぎまわっているのを飼い主のポーリナ・メヒアさんと、夫のオルリンさんが見つけたのだ。
夫は、チカリンともう1匹の犬が頭蓋骨で遊んでいるのを目撃して、「これは人の骨だ」と言ったんです。
それで夫が警察に電話したんですけど、最初は人骨だなんて信じてもらえませんでした。刑事が来てようやく本物だとわかったんです
検視の結果、頭蓋骨には銃創があり、人為的な死の可能性を示していた。チカリンたちの発見がなければ、この事件は闇に葬られていたはずだ。
チカリンはもしたら名探偵犬なのかもしれない。
2024年12月には脛骨を、そして2025年4月には大腿骨と下顎骨を、チカロンは持ち帰ったのだ。
さらに1年後に4回目となる人骨を持ち帰る
そして最初の頭蓋骨発見からちょうど1年を迎えようとする2025年8月8日、チカリンは再び長い骨を咥えて帰ってきた。
翌9日、通報を受けた警官が現場に急行し、付近の森を捜索。さらに警察犬やGPSを投入し、チカリンが普段歩き回っているエリアを調べたところ、森の奥からさらに人骨が発見されたという。
DNA鑑定により、見つかった骨はすべて同じ一人の人物のものと判明している。
DNAプロファイルは完全に作成されているものの、FBIが管理する犯罪捜査におけるDNAデータベースシステムで、全米の法医学機関が利用する「CODIS」には一致する人物はおらず、被害者の身元は判明していない。
さらに複数の行方不明者の記録と照合されたが、こちらも該当する人物はいなかった。犠牲者が誰なのか?その正体は今も謎のままである。
現在わかっている事実はただひとつ。アラバマ州センターポイント近郊の森に、遺棄された遺体が存在していたということだけなのだ。
飼い主家族に訪れる試練
チカリンはいつのまにか、この事件で最も有能な「捜査員」になってしまっている。飼い主のメヒアさん夫妻は、犬が骨を見つけるたびに警察へ通報してきた。
妻のポーリナさんは、メディアの取材に対し、複雑な気持ちを明かしている。
本当に驚いていますが、同時に誇らしい気持ちもあります。1年以上にわたって、チカリンは遺体の発見を助けてきたのですから。
でもその一方で、誰の骨なのかも、どれほど前に失踪した人なのかも皆目わからない。そんなものを犬が毎回持ち帰ってくるのは怖いですね
さらに追い打ちをかけるように、つい最近、夫のオルリンさんがアメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)に拘束され、ルイジアナ州の施設に移送されたのだ。
夫妻は在留資格の調整手続きを進めていたが、まだ完了していなかったために「無資格状態」とみなされ、「不法滞在者」として拘束された形のようだ。
これにはトランプ政権の移民政策の強化が背景として関係している可能性も否めないが、自宅に残された家族には大きな悲しみと負担がのしかかっている。
私たちはずっと正しいことをしようとしてきたし、警察の捜査にも協力してきました。でも夫はまた拘束されてしまったのです
ポーリナさんは現在、弁護士を通じて夫の釈放を求めているという。
チカリンは地元でちょっとした有名犬となり、「警察犬として採用すべきだ」という声も上がっている。
ポーリナさんは幼い娘を育てながら、夫とともに営んできた住宅リフォームの仕事を一人で続けている。
夫は私や地域社会、そしてこの小さなビジネスにとって本当に大きな支えでした。
今は彼が残した複数の現場を私が引き継いでいます。
多くを望んでいるわけではありません。ただ、私のような家族を支えてくれる社会であってほしいのです
センターポイントの静かな住宅街に点々と現れる人骨が、いったい誰のもので、なぜそこにあるのか。
その謎が早く解き明かされ、家族が再びそろって日常を取り戻せる日が来ることを、彼女はこころから願っていそうだ。