
オーストラリアで行われた約500羽の野鳥調査で、思った以上に多くの個体が「性転換」をしていたことが明らかになった。
ここで言う性転換とは、遺伝子上の性別とは異なる外見的特徴や生殖器を持つ状態を指す。
サンシャイン・コースト大学を中心とする研究チームの今回の発見は、野生の鳥における性のあり方が、これまで考えられていたよりもはるかに柔軟であることを示している。
それだけでなく、絶滅危惧種の保全や鳥類研究の手法にまで大きな影響を与える可能性がある。
この研究は『Biology Letters[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2025.0182]』(2025年8月13日付)に掲載された。
「見た目」だけでは判断できない鳥の性別
今回の研究では、オーストラリア、サンシャイン・コースト大学をはじめとする鳥類学者チームが、クイーンズランド州の野生動物病院に運ばれ、病気や怪我で自然死、または安楽死した鳥、500羽を対象に性転換の発生率を調査した。
対象となった種は同地域でよく見られる5種、カササギフエガラス(Australian magpie)、ワライカワセミ(Laughing kookaburra)、レンジャクバト(Crested pigeon)、ゴシキセイガイインコ(Rainbow lorikeet)、コセイガイインコ(Scaly-breasted lorikeet)である。
研究チームは、各鳥の生殖器を解剖で確認すると同時に、DNAを調べて遺伝的な性別を特定した。
その結果、最大6%の個体が「性転換」していたことがわかった。つまり、性染色体はメスなのにオスの生殖器を持っていたり、その逆であったりしたのだ。
性転換の大半はメスからオスへ
ただし、性転換した鳥の多くは、「遺伝的にはメス」なのに、「オスの生殖器」を持っていた。
研究チームのドミニク・ポトヴィン准教授は、「性転換が見られた鳥の92%が、遺伝的にはメスであるにもかかわらず、オスの生殖器を持っていた」と述べている。
メス化したワライカワセミ、卵を産んでいた
また、遺伝的にはオスであるワライカワセミの個体に、発達した卵胞と拡張した卵管が確認されたことに驚いたという。これは、実際に卵を産んだばかりであることを示している。
性転換は魚や爬虫類だけではない
自然界では、性別が変化する現象は決して珍しくない。
魚類や両生類、爬虫類、さらには一部の軟体動物などでは、環境の影響によって性別が決まる例が多く知られている。たとえば、卵が育つ温度によってオスかメスかが決まる種もある。
一方で、鳥類や哺乳類は、性別が厳密に遺伝的に決定されていると考えられてきた。人間ではXとYの性染色体が性を決めるが、鳥類ではZとWという異なる染色体が用いられ、オスはZZ、メスはZWである。
本来、こうした遺伝的な性別は胚の発生後に変わることはないとされてきた。
ところが今回の研究では、そうした遺伝的設計図に基づく性の発現が、何らかの理由で途中から別の方向へ進んでしまうことがあると示唆された。
遺伝子経路の異常や、逆の性を抑制する働きがうまく機能しないことで、本来の性別とは異なる特徴が現れる場合があるという。
たとえば、遺伝的にはメスでありながら、オスの生殖器を持つ個体が確認されている。また、精巣と卵巣の両方の性質を併せ持つ「卵精巣(ovotestes)」が形成されることもある。
今後の鳥の保全活動や研究への影響
この研究の共著者であるサンシャイン・コースト大学のドミニク・ポトヴィン准教授は、「性転換がなぜ起こるかを理解することは、保全活動や鳥類研究の精度向上に不可欠」と語る。
これまで鳥の性別は、遺伝子マーカー・羽の色・行動といったもので判定されてきた。だが今回、性転換が普通に起きていることが判明したことで、従来の判定法では正確さに問題があることが明らかになった。
論文の筆頭著者であるサンシャイン・コースト大学のクランシー・ホール博士は、「血液や羽のDNAだけで性別を判定すると、最大6%は間違える恐れがあります」と指摘する。
そうした性転換個体は、野生における繁殖率に影響する可能性もある。
「これにより性比の偏り・個体数の減少・配偶者選好の変化、さらには個体群の衰退につながる可能性もあります」とホール博士。
鳥の性別の見誤りは、他のストレス要因と組み合わさることで保全活動を脅かす可能性すらあるという。
ただし、どのような時に性転換が起きるのか原因はまだわかっておらず、さらなる研究が必要であるとのことだ。
References: Royalsocietypublishing[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2025.0182] / ‘Sex reversal’ might be more common in birds than we thought[https://cosmosmagazine.com/nature/birds/sex-reversal-wild-birds-australia/]
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。