
アルゼンチン沖の南大西洋に広がる「マル・デル・プラタ海底渓谷」の水深3,500m地点で、史上初の深海探査が行われた。ほぼ富士山が沈むほどの深さだ。
遠隔操作型の無人探査機が潜航し、パステルピンク色のロブスターや、アニメキャラクターのようなヒトデ、透明なクラゲなど、ユニークな生物たちをカメラに収めた。
そのうちの約40種が新種候補であるという。この探査の模様はライブ配信され、約400万人が未知の深海の世界に魅了された。
だが、様々な生物発見の影に、人間活動の影もはっきりと存在していた。
アルゼンチン沖に眠る巨大海底渓谷
今回探査が行われた「マル・デル・プラタ海底渓谷(Mar del Plata Submarine Canyon)」は、南米アルゼンチンの東沖、大西洋の海底に広がる巨大な海底渓谷だ。
水深は最大3,500mに達し、これはグランドキャニオン(約1,600m)の2倍以上。日本の富士山(3,776m)がほぼ沈む深さである。
この探査は、アルゼンチン国立科学技術研究会議と自然科学博物館((CONICET)の研究チームによって実施された。
彼らはシュミット・オーシャン(Schmidt Ocean)研究所の調査船「R/Vファルコア・トゥー」に乗り込み、遠隔操作型無人探査機「ROVスバスチャン(SuBastian)」を用いて21日間にわたる調査を行った。
スバスチャンは高解像度カメラと採取アームを備え、これまで人類が目にしたことのなかった深海の世界を鮮明に捉えることに成功した。
新種候補が続々、深海に生きる個性豊かな生き物たち
探査で記録された生物たちは、どれも私たちの常識を超えたユニークな姿をしていた。とりわけ注目を集めたのは、パステルピンク色をした甲殻類の一種、「バービーロブスター」だ。
また、背中がこんもりと盛り上がったオレンジ色のヒトデも特徴的だ。。
さらに、海底をゆっくりと這う「センジュナマコ(Scotoplanes)」の仲間の姿も。
センジュナマコは、深海に生息するナマコの一種で、丸い体と足のような突起が特徴的。英語では「シーピッグ(海のブタ)」と呼ばれており、その愛嬌ある姿から人気も高い。
その中には、これまで科学的に記録されたことのない約40種の新種候補が含まれていた。
これらの生物は今後、標本の分析やDNA解析を通じて、分類や命名が進められていく予定だ。
深海に棲む生命の豊かさに驚嘆の声
この探査を主導したダニエル・ラウレッタ博士(CONICET/自然科学博物館)は、次のように語る。
この探査は私にとって一生に一度の体験でした。10年来の仲間たちと一緒にこの航海を成し遂げられたことは大きな誇りです
スバスチャンの映像は驚くほど鮮明で、これほど複雑な深海環境をここまで理解できたのは初めてです(ダニエル・ラウレッタ博士)
この探査の模様は世界中にライブ配信され、視聴者は約400万人に達した。
シュミット・オーシャン研究所の共同創設者であり会長でもあるウェンディ・シュミット氏は、次のように述べている。
深海とその生命の驚異、サンゴからタコ、クラゲまでが、科学者たちの情熱と視聴者の好奇心によって国全体を魅了しました
アルゼンチンは、深海探査の力がいかに人々の想像力をかき立てるかを世界に示しています(ウェンディ・シュミット氏)
同研究所の事務局長、ジョティカ・ヴィルマニ博士もまたこう語った。
この探査は、科学と探求の力がどれだけ人々を動かせるかを証明しました。アルゼンチンの人々が自国の深海に誇りと愛情を持つようになる姿を見るのはとても感動的でした
科学者たちは厳しい作業をこなしながらも、その知見を何百万人と共有してくれたのです(ジョティカ・ヴィルマニ博士)
深海環境に人間の活動の痕跡も
だが、カメラが捉えたのは美しい生物たちだけではなかった。
スバスチャンが撮影した映像には、靴、ビニール袋、釣り具など、人間の生活から出たごみもはっきりと映っていたという。
深海という人の踏み込めない場所にも、すでに人間の活動の影響は及んでいるのだ。
この星のすべてがつながっているという事実に目を向けたとき、私たちの選択が未来の生態系を守る一歩になるのかもしれない。
References: Schmidtocean[https://schmidtocean.org/first-high-tech-exploration-of-argentinas-mar-del-plata-canyon-inspires-millions/]
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。