マヤ文明崩壊の新たな手がかり、ユカタンの洞窟で見つかった13年に及ぶ干ばつの痕跡
ユカタン半島最大の洞窟 / Image credit:Sebastian Breitenbach

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 かつてメソアメリカに巨大な都市と王朝を築き上げたマヤ文明。その崩壊は長年の謎とされてきたが、ついにその真相に近づく新たな手がかりが発見された。

メキシコ・ユカタン半島の洞窟に立つ石の柱、石筍(せきじゅん)に刻まれた年輪のような痕跡が、13年間続いた干ばつと、それに続く複数の長期干ばつの存在を示していたのである。

 記念碑の建設が止まり、王朝が途絶えたその時期と一致するこの気候変動は、マヤ文明の終焉と深く関わっていた可能性がある。

 この研究は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adw7661]』誌(2025年8月13日付)に掲載された。

洞窟に刻まれた長い干ばつの記憶

 メキシコ南東部のユカタン半島北部にある洞窟に立つ石筍(せきじゅん)と呼ばれる石の柱に、マヤ文明崩壊の手がかりとなる証拠が記録されていた。

 石筍とは、鍾乳洞の天井から滴り落ちる水に含まれる炭酸カルシウムなどの鉱物が、長い時間をかけて床に積み重なってできた堆積物である。

 上から下へと少しずつ伸びていくため、木の年輪のように過去の気候条件を層として保存している。

 ケンブリッジ大学を中心とする国際研究チームがこの石筍の酸素同位体を分析したところ、西暦871年から1021年の間に13年間続いた干ばつ、さらに3年以上続く複数の干ばつがあったことが明らかになった。

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年ごとの雨季を記録した石の年輪

 これまでにも、湖底の堆積物を用いた酸素同位体分析によって、マヤ文明終末期の気候を調べようとする試みは行われてきた。

 酸素には、重さの異なる「酸素16」や「酸素18」といった同位体があり、その比率は降水量や気温によって変化する。石筍に含まれる酸素の割合を調べることで、当時の気候がどのようなものだったのかを詳しく知ることができる。

 しかし、湖の堆積物から得られるのは、おおまかな気候の傾向にとどまり、雨季や年ごとの細かな変化まではわからなかった。

 一方、今回調査対象となった石筍には、1ミリほどの厚さで年ごとの層がはっきりと残っていた。

 このため研究チームは、年単位だけでなく、雨季ごとの降水状況まで明らかにすることができた。

 研究を率いたダニエル・H・ジェームズ博士は、「年平均の降水量では農作物が育つかどうかはわからない。

雨季にどれだけ雨が降ったかが決定的だ」と語っている。

 マヤの農耕社会にとって、雨季の干ばつは命に関わる問題だったのだろう。

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文明崩壊の時期と干ばつが一致

 マヤ文明の「終末期古典期(Terminal Classic period)」と呼ばれる時代には、南部の大都市が次々と放棄され、王朝が終わりを迎えた。

 その時期と、今回確認された干ばつの時期が一致していることは注目に値する。

 実際に、チチェン・イッツァをはじめとする北部のマヤ都市では、この時期に記念碑の建設が止まり、政治活動も減少していた。

 記念碑に刻まれた日付に空白があることも、当時の混乱を物語っている。

 ジェームズ博士は、「人々は記念碑を建てるより、作物が育つかどうか、明日を生き延びられるかを気にしていたのだろう」と語っている。

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高度な技術でも抗えなかった自然の力

  マヤ文明は、紀元前2000年頃に始まり、スペインによる征服が進んだ16世紀にかけて中米一帯で栄えた文明である。

 特に250年から900年頃の「古典期」には、大規模な都市や神殿が築かれ、数学や天文学、暦、独自の文字体系が発展した。

 また、貯水槽や運河など、高度な水利システムを備えていたことでも知られている。だが、それでも十三年にわたる深刻な干ばつには対応しきれなかった。

 干ばつが続いた期間には記念碑の建設が止まり、人口の移動や都市の衰退が見られた。これらの現象は、気候変動が文明に及ぼした影響の一例として、現代の研究でも注目されている。

 ジェームズ博士によれば、今回の分析手法は干ばつだけでなく、過去の熱帯暴風雨の頻度なども明らかにできる可能性があるという。

 古代の歴史と気候データを細かく比較できる事例として、非常に意義深いと博士は語っている。

References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1094110]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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