オンリーインド事案。牛が病院に侵入して書類を食べる映像が論争に発展
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 インドのウッタル・プラデーシュ州にある医療施設の診察室に、1頭の雄牛が入り込んで、書類をむしゃむしゃ食べる様子が撮影され、ネットで物議をかもしている。

 その絵面だけを想像すれば、インドならではのユーモラスな事案にも思えるんじゃないかと思う。

 だが実はその裏で、インドの地方自治体における、公共医療の実態を映す出来事でもあったのだ。

医療施設に侵入して書類を食べる雄牛

 この動画は2025年8月12日から、インド各地のメディアで取り上げられ、SNSでも広く拡散されるようになった。

 動画には地方の診療所の診察室に、一頭の雄牛(オスの牛)が悠然と入り込み、机の上にあった書類らしき紙の束を食べる場面が写されている。

 これぞオンリー・インド。そこいら中を牛が闊歩して、自由気ままに暮らしているインドならではの日常的風景なのかもしれない。

 と、ここまでなら「ほのぼの動画」で済んだのだが、問題になったのは牛ではなく、この医療施設にあった。

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誰もいない医療施設の謎

 動画に写っていた診療所内の様子を思い出してみてほしい。医師や看護師など職員の姿が一切なかったはずだ。

 具合が悪くて来院した患者に対応できる人間が、医療施設に誰一人いないというのは、あまりにも異常な光景ではないだろうか。

 この診療所は、ウッタル・プラデーシュ州バハラーイチ地区にある、一次医療センター(PHC)の外来診療所(OPD)である。

 一次医療センター(PHC)とはインドの農村医療を担う公的医療施設であり、1カ所のPHCでおよそ2~3万人の住民の医療をカバーすることを想定している。

 ここでは基本的な外来診療や簡単な外科手術、入院ができるようになっているほか、家族計画を含む母子の保険福祉にも対応している。

 その他、風土病の予防と完備、安全な水の供給、衛生・健康に関する教育、予防接種など、いわば医療施設と保健所の両方の機能を持つのが特徴だ。

 PHCには最低でも医師が1名と、看護師や医療補助スタッフが配置されており、診療時間中は彼らがそこにいて、来院する患者に対応するはずだった。

 なのにこの動画では、診療所内は無人のように見える。これでは地域の医療を担うことはできないし、患者が訪れても途方に暮れるだけではないのか。

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大きな論争に発展

 この動画はインド中に拡散され、当然多くの批判が集まったが、ある政治家の投稿によってさらに事態は複雑化した。

 インドの社会主義政党であるサマージワーディー党の党首、アキレーシュ・ヤーダブ氏が、自身のXでこの動画を共有し、ヒンディー語で皮肉を述べたのだ。

州政府が定期的に開催している無料健康フェアの、抜き打ち検査にやって来たのは牛だった。だがそこでわかったのは、医者の方は来ていなかったということだ。

誰かが「おい、医者はいつ来るんだ?」と尋ねると、別の誰かが答えた。「どうやら政府が変わらない限り、医者は来ないらしい」ってね

 ここで言及されている健康フェアとは、州政府が毎週日曜日に各地区の一次医療センター(PHC)で行っている健康診断や医療相談会のことである。

 2024年8月には州政府により、「州内75地区、約3,000か所のPHCで毎週開催する」と発表されていた。

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 だが医師もスタッフもいない状況では、日常の診療もできず、医療施設として機能していないのは明らかだろう。

 サマージワーディー党とは、ヒンディー語で「社会主義者党」を意味する政党で、主にウッタル・プラデーシュ州を基盤とし、農村部や特定のカースト層を支持基盤としている。

 2012年から2017年にかけてはこの党が与党となり、ヤーダブ氏がウッタル・プラデーシュ州の州首相を務めたこともある。

 現在の与党はヨギ・アディティヤナート州首相率いるインド人民党(BJP)だが、それに対抗する野党の一つとして、依然として大きな影響力を持っているのだ。

 そんな中、今回のヤーダブ氏の投稿は、現政権への直接的な批判として受け止められ、SNS上で大きな反響を呼ぶことになった。

SNSに広がる怒りと反発

 インドの各メディアやSNSでは、当初は無人のPHCに対して批判する論調だったという。

 確かに、地域の医療をまったく担っていない施設に対して、国民の怒りが沸き起こるのも無理はない。

 しかしこの動画を現政権の批判につなげたヤーダブ氏の投稿には、単なる賛同だけでなく、過去政権を批判するコメントも殺到。

 ある意味この牛は、インドの政治的問題を浮き彫りにするためにやってきたのかもしれない。

 この事案をめぐり、医療現場への不満と政党間の責任論がぶつかり合う様相に。

  • あんたたちサマージワーディー党の政権時代は、長年医療を停滞させた。貧しい人々は、基本的な治療を受けるためにもデリーに行かざるを得なかったんだ。だが今のヨギ政権になってからはAIIMS(国立医科大学病院)が2つ設立された。州内で世界水準の治療が受けられるのは、BJPの誠実な取り組みの結果だ
  • あなたは元州首相でしょう?それなのにこんな子どもじみた投稿ばかりしている。つまり、ヨギ政権にはあなたが突けるような大きな欠点が残っていないということだよ
  • 政権交代なんて起こらない。もし仮に起きたら、みんなまた家から出られなくなる。なぜなら、政治家が再びマフィアに取り入り、彼らの子守歌を聞かせるような政治に逆戻りするからだ
  • あんたの政権のときにも医者はいたが、自分の経営する私立病院にだけだったじゃないか。
    公立病院では治療と称して、ただのキニーネの錠剤が渡された。それも薬剤師ではなく清掃員が配っていたんだぞ。それがあんたの時代の医療の実態だったんだ
  • 牛が健康フェアに入り込んだからといって揶揄するな。お前らの政権のときは「マフィアの牛(ならず者政治家)」が政府に入り込んで、人を殺したり土地を奪ったりしていたじゃないか
  • あんたの時代には、医者は時間通りに来ず、病院には薬も治療もなかった。医療は書類の上だけで存在していた。そんな風に批判しても無駄だ。実際の改善はBJP政権が進めているんだから
  • BJP政権は健康フェアを通じて村々まで医療を届けている。たまにスタッフ不在のケースがあっても、すぐに対処されるよ。以前のような汚職と怠慢はなくなり、今は実際に人々に利益が行き届いているんだ
  • あんたたちが政権を取っていたときは、牛は屠殺場に送られていた。だがヨギ政権の今は自由に生きているぞ
  • 今のヨギ政権では、サマージワーディー政権時代のように医師のポストが空席のまま放置されたり、病院が閉鎖されたりすることはない。各地区で医科大学が開設され、医師の採用も進み、医療が村々に届いている

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後を絶たない「牛による」インドならではのトラブル事案

 実は今回の事案発生より少し前の8月1日、、ウッタルプラデーシュ州内では、別のオンリー・インドな「牛のニュース」も報じられていた。

 同州バレリーのナワーブガンジ地区で、夜10時半ごろに撮影されたCCTV映像には、2頭の野良牛が衝突し、露天の茶店に突っ込む様子が映っていた。

 幸いなことに、その場にいた客は直前に逃げ出していたが、店はわずか数秒で壊されてしまったのだ。

 インドでは現在、このような野良牛による事故が頻発しており、住民が当局に繰り返し苦情を送っているにもかかわらず、抜本的な対策は何もされていない。

 当局が放置した結果として、野良牛による事故や物損、さらにはケガをさせられるケースも相次ぎ、住民の不安と不満が高まっているという。

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 バハラーイチの病院に侵入して、書類を食い荒らした雄牛と、バレリーで茶店を破壊した野良牛。

 性質も状況も異なるが、共通するのは「公共の空間に侵入した牛が、制度や安全のほころびを露呈させた」という点である。

 その辺をうろついていた牛が診療室に入ってきて書類を食べてしまうという奇妙な光景は、笑い話に見えて深刻な問いを投げかけた。

 なお、バガラーイチ地区の主任医療官は今回の事案を把握しているとの報道もあるが、州当局は沈黙を保っているとのこと。公式な説明や責任者の処分は、今のところ何も行われていないようだ。

References: Bull walks into UP hospital, chews onto paper in empty OPD. Video goes viral[https://www.indiatoday.in/trending-news/story/bull-walks-into-up-hospital-chews-onto-paper-in-empty-opd-bahraich-viral-video-2770074-2025-08-12] / मुख्‍यमंत्री आरोग्‍य मेले में डॉक्‍टर गायब, घुस गया सांड... अखिलेश यादव ने ली चुटकी[https://ndtv.in/uttar-pradesh-news/viral-video-of-bull-enters-phc-health-camp-mukhyamantri-arogya-mela-9061381]

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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