
2024年10月から、韓国ソウル市の繁華街にある公園に、光を使って3Dの映像を空間に浮かび上がらせた、実物大の「ホログラム警察官」が配備された。
夜になると制服姿の警察官のホログラム映像が浮かび上がり、来園者に注意を促す仕組みである。
目的はもちろん防犯だが、夜の闇の中にぼんやりと浮かび上がるその姿は、どちらかというとちょっとホラー味の方が勝っている感も否めない。
公園の利用者からは、「心臓が止まるかと思った」「逆に怖い」なんていう声も寄せられているが、この幽霊のようなバーチャル警官導入後の犯罪抑止効果は非常に高く、周辺では、前年に比べて犯罪件数が22%も減ったという。
公園の暗闇に浮かび上がる「ホログラム警官」
このホログラム警官に会えるのは、ソウル市中区の繁華街にあるチョドン(苧洞)3公園で、時間は夜の7時から10時の間である。
この間、2分おきに彼のホログラムが現れては、まるで生きている人間のように口を動かし、こんな警告を発している。
このエリアには、いたるところに監視カメラが設置されています。緊急事態の発生時には、警察がリアルタイムで対応します
ホログラム警官の目的は、公園を利用する市民に安心感を与え、不法行為の発生を防ぐことにある。
この公園のある地域は、酒を出す飲食店が多く集まる繁華街で、酔客による喧嘩や暴力事件、痴漢行為といったトラブルが後を絶たない場所だったそうだ。
そこで中区を管轄する中部警察署のキム・スヒョン警部補とキム・ヨンドン警部補の2名がCPO(防犯担当官)としてタッグを組み、このホログラム警官を導入したという。
仕組みは意外とシンプルで、公園内にアクリル製の人型の板を設置して、プロジェクターで警官の姿を映す。
ゆらりと浮かび上がる警官の姿は、幽霊説まで飛び出すほどのインパクトを、道行く人に与えたらしい。
当初はアクリル板の台座の部分が土に埋められていたこともあり、本当に地面に幽霊が立っているように見えたそうなんだ。
今は外からよく見えるスタイリッシュな台座に変更され、怖さはほんの少しだけ軽減されたとのことだ。
なんと本当に犯罪が22%も減った!
CPOの2人がホログラム警官を思いついたきっかけは、2人の家族や友人たちといった、身近な人々の声だった。
家族や友人が夜に公園を通るとき、とても怖い思いをすると言うんです。
特に酔っぱらいがいると、避けて通らざるを得ないと。
でもそこに、実際に警察官の姿が見えれば安心できるし、犯罪者には心理的に威圧感を与えられるのではないかと思ったんです
公園周辺が犯罪の多い地域なのは周知されていたが、ここに警察官が常駐することは難しかった。
そこで苦肉の策として登場したのがこのホログラム警官だったのだ。導入時、警察関係者からは期待する声も大きかったという。
よく見ると、実在の人物ではないことは明らかでしたが、警察の存在を単に認識するだけで大きな抑止効果がありました
最初のうち、市民からは冷たい目で見られることが多かったという。「ただの案山子だ」という声も多かった。
だが蓋を開けて見ると、ホログラム警官を設置した2024年10月~2025年5月までの犯罪発生件数は、前年の同じ時期より22%も減ったことがわかったのだ。
こういった犯罪は、一瞬の感情の爆発で起こることが多いんです。ホログラム警官が「CCTV作動中」と告げるだけで、犯罪者に警戒心を抱かせる効果がありました
当初は「案山子」と揶揄する声もあったものの…
あまりにも劇的な犯罪抑止効果に、当初は「幽霊が出るからって、人が寄り付かなくなったから犯罪が減ったのでは?」と揶揄する意見もあったという。
だが実際に公園を利用する市民やSNSからは、「頼もしい」「本当に警官がいてくれるように感じる」との好意的な反応も多いそうだ。
- 犯罪が減ったなら何より。酔っぱらいの目には本物の警官に見えるかもしれないね
- うわ、こんなの見たらめっちゃ驚くだろうな。 いいね、犯罪多発地帯への設置は大賛成。
でも酔っぱらいとか子どもが壊しちゃいそう…
- そしたら「俺の足を返せ~」って、夜中に警官が追いかけてくるかも
- 深夜まで運用を広げてほしい。良いアイデアだと思います
- ネットで「現代版の案山子」って言われてたのを覚えてる。まあ確かに犯罪は減りそうだよね。夜に見たら腰を抜かしそうだけど
- 犯罪は事後対応よりも、やっぱり事前の予防が大事だと思う。こういうアイデアをどんどん出してほしい
- でも場所は定期的に変えた方がいい。ずっと同じところにあると、通い慣れた人は慣れてしまうから
- ホログラムだけでも犯罪率が下がるなんて不思議だよ
- 「警察官が犯罪を未然に防ごうとしている」という意識が市民に植え付けられるだけでも、潜在的な犯罪を減らせると思うよ
- これはアリかもしれないよね。周辺は飲み屋が多くて、計画的な犯罪というより酔っ払って瞬間的に起きる犯罪が多いらしい。だからああいうホログラムがあるだけでも確かに減ると思う
- いいと思う。ただ最初は物珍しくて効果があるけど、そのうち慣れてしまうと気にされなくなるかも。一番大事なのは「今監視されている」ってことを確実にわからせることだね
- とても素晴らしい発想だ。ソウルだけでなく地方にも早く広まってほしい。潜在的な犯罪者にも当然効果があるはずだ
- とにかくロボットが動きながらパトロールする日が早く来てほしい
- 3年前、トンネルでよく似た何かを見たんだけど、これだったのかな
モデルは現役の警察官
ネットでは「なんてハンサム!」と黄色い声も上がっていたこのホログラム警官、そのモデルはソウル警察庁第7機動団所属のユン・デウォン警長とのこと。
私は現在、警察庁の広報モデルとして活動しています。(ホログラム警官の)主旨がとても良いと思ったので、一緒にやりたいと思い参加しました。
撮影しながらも、どんな完成版になるのかとても気になっていました。でも、いざ完成版を見てみると、自分の体格や声なんかが、そのまま再現されていて、本当に不思議でした
現在は試験運用のため、毎日3時間だけ任務に就いているホログラム警官だが、将来的にはもっと延長することも検討しているという。
アン・ドンヒョン中部警察署長は、次のように述べている。
ホログラム警官は、市民の安全意識を高め、不法行為に対する心理的な抑止効果をもたらす「スマート治安装置」として定着しつつあります。
今後もAI技術を活用した防犯活動を拡大し、市民が安心して利用できる公園環境づくりに努めていきます
しかし暗い公園で実際に予備知識もなく遭遇したら、間違いなく心霊案件だと思ってしまいそうだ。
今のところ宵の口と言ってよい時間帯なのでそれほどでもないかもしれないが、丑三つ時に現れたらやっぱりちょっと怖いと思う。
みんな怖いから犯罪が減ったのでは?という意見も、あながち的を射てるんじゃないかっていう気がするんだ。
References: South Korea Deploys Life-Size Holographic Police Officers to Prevent Crimes[https://www.odditycentral.com/news/south-korea-deploys-life-size-holographic-police-officers-to-prevent-crimes.html]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。