
アメリカ、フロリダ州で、新たな捜索救助隊員に抜擢されたのはなんとカワウソだ。これまで捜索救助の現場では犬が主役だったが、水中での捜索には限界があった。
そこで白羽の矢があたったのは、水中を自由自在に泳ぐことができ、高い知能をもつコツメカワウソだ。独特な方法で水中のニオイも嗅ぎ分けられる。
現在その特性を生かした訓練が行われており、今後は行方不明者の捜索にあたる予定だ。
まだ試験段階ながら、すでにFBIも関心を寄せるほどの実力を発揮しているという。
水中で威力を発揮する新たな捜索救助隊員、コツメカワウソ
アメリカでは長年にわたり、「K9」と呼ばれる警察犬が、捜索救助の現場で中心的な役割を果たしてきた。山中の遭難者捜索や都市部での行方不明者探しなど、多くの任務で活躍してきた。
しかし、すべての場面で犬が力を発揮できるわけではない。
たとえば、ボート事故や水難事故のように、人が川や湖に落ちたケースでは、犬の嗅覚は水際で止まってしまう。犬は泳ぐことができても、水中では鼻を使ったニオイの追跡が不可能になるからだ。
この問題を解決する手段として、フロリダ州の非営利団体「ピース・リバーK9サーチ・アンド・レスキュー」は、新たな発想にたどり着いた。
犬の代わりに「水中」の領域をカバーできる優れた嗅覚を持つカワウソを、新たな捜索隊員にするべく訓練するという試みだ。
動物園の協力でカワウソの訓練が叶う
「ピース・リバーK9サーチ・アンド・レスキュー」の代表を務めるマイク・ハドセル氏は、「カワウソを捜査救助隊員として訓練できないか?」というアイデアをSNSで発信した。
すると、アリゾナ州の動物園オーナーから連絡が入り、この活動に適した1匹のカワウソ「スプラッシュ」が紹介され、すぐに訓練を受けることとなる。
スプラッシュはコツメカワウソ(Aonyx cinerea)という種類で、東南アジアを中心に生息する小型のカワウソだ。
高い知能と人懐っこい性格を持ち、泳ぎも得意なことから、捜索訓練には最適な候補とされた。
コツメカワウソの水中捜索の訓練法
人間の体からは、およそ500種類以上の揮発性有機化合物(VOC)と呼ばれるニオイの成分が放出されており、それらは水中にも残り続ける。
犬の嗅覚は水に入ると機能しなくなるが、カワウソには別の能力がある。
水中で呼吸はできないが、カワウソは自ら水中に泡を出し、その泡を吸い戻す。この時、泡に付着したニオイ分子を口の中に取り込み、舌で味わ”ようにしてニオイを識別するという。
訓練では、子ども用のプールを3つ用意し、そのうち1つに、人間のニオイが付いたサンプルを沈めておく。
スプラッシュはプールの中に潜り、鼻から泡を出して吸い込むという動作を繰り返しながら、ニオイの痕跡を探る。
「泡にニオイの分子が付着し、それを口に含むことで味わって判断している」とハドセル氏は説明する。
スプラッシュがニオイのある水を見つけると、トレーナーのもとに戻り、マスクをくわえて知らせる。
訓練が功を奏し、実際の捜索現場でも活躍を見せる
この訓練は現在も継続中だが、スプラッシュはすでに実際の捜索現場に投入され、3件の発見実績をあげている。
その成果を見たFBIやフロリダ州法執行局が興味を示した。さらに、複数の捜索機関から協力要請が届き始めている。
「スプラッシュはすでに実用可能なレベルになっており、今もトレーニングを続けながら成長している。現時点で非常に有望なプロジェクトだ」とハドセル氏は語っている。
天敵のワニ対策、スプラッシュの安全性を確保
とはいえ、フロリダの水域には危険がつきまとう。特にワニの存在はスプラッシュにとって天敵となる。
「私自身、捜索中にワニに出くわしたことがある。スプラッシュの安全確保が一番の課題だ」とハドセル氏は言及している。
そのため、現場ではスプラッシュを命綱でつなぎ、陸上スタッフによる視認と、ソナーによる位置追跡体制を整備している。
捜索現場でカワウソたちが活躍する日も近い
訓練後には、警察犬同様にごほうびとしてサーモンが与えられ、モチベーション維持の工夫もなされている。
現段階ではスプラッシュは唯一の捜索カワウソだが、ハドセル氏は「10年もすれば、多くの捜索チームにカワウソが加わっているだろう」と予想している。
References: WTSP[https://www.wtsp.com/article/life/animals/florida-otter-searches-for-missing-people/67-10cedc5c-5e6f-4907-950a-44095e4ff192] / Popsci[https://www.popsci.com/environment/search-and-rescue-otter/]
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。