うれしいニュース、インドの湖で33年ぶりに蓮の花が咲き、喜びと安堵の声
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 インド北部のカシミール地方にあるウラー湖で、33年ぶりに蓮(ハス)の花が咲いた。

 この湖はかつてアジア最大級の淡水湖として知られ、5000人以上の住民がハスの茎「ナドゥル」を収穫し、生計を立てていた。

ナドゥルは日本でいうところの蓮根(レンコン)で地下茎が肥大化した部分のことである。

 だが、環境悪化や洪水によって湖底が土砂に覆われ、ハスは完全に姿を消してしまったのだ。

 2020年に始まった本格的な湖の再生プロジェクトが転機となり、今ようやく、ハスとともに人々の希望と暮らしがよみがえろうとしている。

かつては生態系豊かな場所だったウラー湖

 ウラー湖はスリナガルから北西に約30km、ピールパンジャル山脈とヒマラヤ山脈のふもとに広がる湖である。

 1990年には国際的に重要な湿地としてラムサール条約に登録された。

 ラムサール条約とは、正式名称を「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といい、1971年にイランのラムサールで採択された。

 湿地を保全し、その賢明な利用を促す国際的な取り組みであり、日本も1980年に加盟し、釧路湿原を最初の登録地としている。

 かつてウラー湖は217平方kmもの広さを誇り、そのうち58平方kmは湿地だった。

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土地開発と洪水で完全に姿を消したハス

 しかし開発や農地転用が進み、さらに湖岸でのヤナギの植林によって水の流れがせき止められ、湖は縮小と荒廃の一途をたどった。

 そこに1992年の大洪水が重なり、何千トンもの土砂が湖底に流れ込み、ハスの茎を完全に埋めてしまった。

 それに伴い、食卓からは「ナドゥル」と呼ばれるハスの茎(蓮根)が姿を消し、ワズワンと呼ばれる伝統的な祝宴料理にも影響が出た。

 最盛期にはナドゥル」の収穫を中心とした小規模産業が5000人もの雇用を生み出していたが、堆積物によってすべてが失われた。

 漁業に転じた住民も多かったが持続性には欠け、生活は困窮していった。

 20世紀初頭の豊かな姿からは想像もできないほど、ウラー湖は姿を変え、2007年までにその面積を3分の1にまで減らした。

 湖岸でのヤナギ栽培は土砂の堆積をさらに進め、一部は不法投棄場と化した。

 多くの動植物が姿を消し、湖は観光地としての魅力を失い、地域の人々にとっては過去の存在となっていった。

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再生プロジェクトが始動し、ついにハスが花開く

 2020年、ウラー湖の再生に向けた本格的な取り組みが始まった。

 地元の保全機関であるウラー湖保全・管理局(Wucma)が主導し、湖にたまった泥やごみを取り除く作業が進められた。

 この作業は「浚渫(しゅんせつ)」と呼ばれ、水底の土砂や廃棄物を重機でかき出すものである。

 これまでに790万立方m以上の泥が除去され、周囲に生い茂っていたヤナギの木も200万本以上が伐採された。

ヤナギの木は水の流れを妨げ、湖の土砂の堆積を進める原因にもなっていた。

 Wucmaの職員ショーケット・アフマド氏によれば、これまで姿を見せなかったハスの根は、長年湖底の泥の中で眠っていた可能性があるという。

 浚渫によって水と光が届くようになると、特定の地域で徐々にハスが再び芽を出し、水面に花を咲かせ始めた。

 こうして5年の歳月をかけて、かつての湖が命を取り戻した。再びハスの花が水面に揺れる光景は、自然だけでなく人々の希望もよみがえらせている。

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ハスの復活が食文化と人々の営みを取り戻す

 「ナドゥルが戻ってきて、また祖母のような料理が作れるようになった」と話すのは、カシミールの市場で働く料理人タビル・アフマド氏だ。

 彼の兄弟たちも湖に依存して暮らしており、ハスの復活は夢のような出来事だったという。

 バシール氏の弟、モハンマド・ファヤズ・ダル氏もまた、ナドゥルの再登場が地域の食文化にどれほど大きな意味を持つかを語る。

 「ナドゥルがなくなったことで、日常の献立も変わってしまった。でも今は、昔のような、じっくりと丁寧に作る料理が戻ってきた」と言う。

 この植物の復活が、長く途絶えていた人々の営みを少しずつ取り戻させている。

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人と自然の関係も再生される

 このウラー湖にはかつて、魚や水栗(くわい)を採取していたコミュニティが暮らしていた。また、シベリアヅルなどの渡り鳥にとっても重要な生息地である。

 デリーを拠点とする環境活動家のメーラ・シャルマ氏は、この現象を「植物の復活ではなく、文化的生態系の再生」だと語る。

 「自然が回復するとき、それは見た目の美しさだけでなく、人々の生業や伝統、そして生き物たちの居場所もよみがえらせる」と彼女は言う。

 ウラー湖に再び咲いたハスの花は今、地域の記憶と文化、そして人と自然とのつながりを象徴する存在となっている。

References: Joy and relief as lotus flowers bloom again in Kashmiri lake after three decades[https://www.theguardian.com/environment/2025/aug/05/wular-lake-kashmir-lotus-flowers-bloom-after-three-decades-aoe] / Joy and Relief as Lotus Flowers Bloom Again in Kashmiri Lake After Three Decades[https://www.goodnewsnetwork.org/lotus-flowers-bloom-on-india-lake-for-first-time-in-33-years-like-watching-history-breathe/]

本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。

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