中国の道路に囲まれた一軒家の住人、騒音に耐えきれず引っ越していた
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 2025年2月に紹介した、中国江西省撫州市金渓県の「釘子戸(釘の家)」を覚えているだろうか。

 立ち退きを拒否した結果、家の周りに道路ができてしまい、まるで目玉のように見えることから、「金渓(きんけい)の眼」と呼ばれたあの家だ。

 どうやらあの家が、ついに無人になったらしい。住人一家は2025年4月、周囲の騒音に耐えられなくなり、近隣の賃貸住宅へと移ったという。

 かつて「抵抗の象徴」のように扱われ、観光客まで集めていたあの建物は、草に覆われた空き家へと姿を変えてしまったようだ。

道路の真ん中に取り残されたあの家が廃墟に

「金渓の眼」は、新設された環状道路206号線の、上りと下りの車線の真ん中に取り残された家である。

 車道にぐるりと囲まれた異様な景観から、一時は観光名所のように扱われ、SNSでも盛んに拡散された。

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 この家には立ち退きを拒否した老人と、その孫娘が住んでいたと言われている。だが、2025年4月に道路が開通してからの生活はかなり過酷だったらしい。

 昼夜を問わず大型車両が行き交い、絶え間ない騒音と振動が住民を襲う。窓は震え、排気ガスが充満する環境は日常生活に大きな負担を与え続けた。

 2025年8月10日午前6時ごろ、あるネットユーザーがこの「金渓の眼」を上空から空撮した動画をネットに投稿した。

 動画を見ると、家はどうやら無人らしく、周囲には草が生い茂り、窓ガラスは割れて廃墟のような様相を呈しているというのだ。

 以前はたくさん訪れていた「見物客」も一人もいなかった。また、家の周囲の道路には、こんな時間から大型トラックがひっきりなしに通行し、かなりの騒音をまき散らしていたという。

 これを受けて、SNSには「夜に電気がついていない」「生活の痕跡がない」などのコメントが並び、「ついに引っ越したか!」と、数日間話題になっていたという。

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 実はこれに先立ち、7月21日に住人の息子の妻が、自身のSNSで、次のようにコメントしていたらしい。

義父(家主)は既に引っ越して、外で部屋を借りて暮らしています。この家が将来どうなるのかは、私にはわかりません

 さらに8月14日、家主の老人本人が報道機関の取材に応じ、現在の状況を語ったという。

あの場所は騒音があまりにひどくて、誰も住めません。それで、2025年4月に賃貸住宅に引っ越しました

 現地紙の記者が訪れた際、家には生活の痕跡がなく、庭は雑草に覆われ、窓ガラスが割れたまま放置されていた。

 人の気配はまったくなく、家財道具もなくなっていたという。数か月前には引っ越したという証言を裏付ける状況だったようだ。

立ち退きに応じなかったのは家族間での争いが原因か?

 もともとこの家の住人が立ち退きに応じなかったのは、補償をめぐる交渉の難航にあった。

 前回の記事では、当局は160万元(約3,200万円)を超える現金と2棟の住宅の支給を提示していたが、家主の老人が拒否したというところまでわかっていた。

 だが今回、メディアやSNSで再びこの件が注目された結果、ネット上には新たな情報も出回って来たようだ。

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 一番の原因は、条件をめぐって家族の間で意見が割れたことだったという。家主には2人の息子がいて、補償の主体は彼らになると想定されていたらしい。

 そのため代替の住宅も、息子それぞれにと2棟用意されたのだが、ネットで語られた噂によると、これに黙っていられなかったのが娘たちとその配偶者だという。

 中国の戸籍制度では、住居地である農村に登録されている「農村戸口」を持つ者にだけ、土地の分配や家屋の補償といった権利が認められるのが一般的だ。

 嫁いで村外の夫の戸籍に入った娘たちは、この村に戸籍がないため、こうした場合に補償対象となる資格がなかったのだ。

 しかし、娘たちも家主である親に対する相続権は持ち続けており、将来的には家屋や住宅を受け継げる可能性がある。

 こうした事情から、娘たち本人だけでなく、夫やその家族も補償に関心を示し、交渉に影響を与えることになったらしい。

 特に、1人の娘婿は交渉に強く関与し、当局からより多くの住宅や補助金を引き出すべきだと強硬に主張したと伝えられている。

 未確認情報ではあるが、このような内情のもつれが、家主の決断を遅らせ、結果的に道路の中央に一軒だけ取り残される、異様な風景を生んだというわけだ。

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日本とは違う中国の戸籍制度

 中国では「都市戸口(戸籍)」と「農村戸口」が区別されており、単に住んでいる場所ではなく、社会保障や土地の利用、さらには教育の機会にもかかわって来る。

 農村戸口があれば村の土地の使用権を得て耕作ができ、今回のように立ち退きを要求された場合、代替の住宅や現金が補償される。

 都市戸口の持ち主は、土地の使用権は持てないものの、都市部で高水準の医療や年金を受けられるほか、子供の教育に関してもかなり有利なのが実情だ。

 近年、中国政府はこの格差をなくすため、大都市では戸籍の種類による制限の撤廃などを推し進めてきているが、農村部ではまだまだ以前の制度が残っている。

 日本の場合は、住民票が全国で一元化されていて、戸籍どこにあろうとも社会保障や土地利用の権利を直接左右することはない。

 だが中国ではこうした場合、その場所の「農村戸口」を持つかどうかで、補償金や新築住宅の割り当てが受けられるかどうかが決まるという。

 この「金渓の眼」が今後どうなるかはわからないが、たとえ今さら家主が撤去に同意したとしても、当初と同じ補償が受けられるかは不明である。

 今のところこの家にはまだ電気が通っていて、インターネットも使えるらしい。言わば「生きている廃墟」と化したわけだが、今後家主が戻って来るとも思えない。

 このままモニュメントとして残るのか、あるいは取り壊されることになるのか、さらなる続報を待ちたいと思う。

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References: 中國「最強釘子戶」不忍了!終於搬家 竟然是這原因[https://www.mirrordaily.news/story/15551]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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