鯉のぼりならぬ「ナマズのぼり」、大群で滝を登る驚愕の光景(ブラジル)

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 ブラジル南部にあるアキダウアナ川で、体調が10 cmにも満たない小型のナマズが何千匹も、最大4mもの高さの滝を、一斉によじ登る壮観な光景が捉えられた。

 この魚はバンブルビー・カットフィッシュと呼ばれるナマズの仲間だ。

 この集団での川登りの光景は、おそらく長く続いた干ばつが明け、川の水位が増えたタイミングで、一斉に繁殖行動に出たせいではないかと推測されている。

 この研究は学術誌「Journal of Fish Biology[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jfb.70158]』(2025年8月8日付)に掲載された。

大群で滝を登る小型のナマズを発見

 2024年11月、ブラジルのマットグロッソ・ド・スル州にあるアキダウアナ川で、オレンジ色に黒い帯模様の小型ナマズが、暮れ時に滝の岩肌を群れでよじ登る行動が現地の環境警察によって撮影された。

  警察はすぐさま、研究者に連絡。その後、ブラジル、マットグロッソ・ド・スル連邦大学の研究チームが何度も現地に赴き、調査を行った。

 ナマズたちは暑さの厳しい日中は岩陰などで休息し、夕方の18時ごろになると一斉に動き出したという。

 そして小さな滝が流れる塗れた岩肌を、胸鰭を広げ身体を左右に揺らしながら、尾で弾みをつけて上る様子が確認された。

 現場では何千匹もの魚たちが高密度で重なり合っており、お互いの身体を「生きたハシゴ」のように利用して、上に登る様子も見られたそうだ。

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 主に観察された魚は学名をRhyacoglanis paranensis、英語で「バンブルビー・カットフィッシュ」と呼ばれ、最大でも体長が89.2mmほどの小型のナマズである。

 同じRhyacoglanis属には、アマゾン川、オリノコ川、ラプラタ川の流域に生息する9種の小型ナマズが含まれているという。

 マットグロッソ・ド・スル連邦大学の生物学者で、今回の研究の筆頭著者であるマノエラ・マリーニョ教授はこう語る。

この「属」のナマズはめったに採集されず、観察されることもほとんどありませんでした。だからこそ、今回私たちが報告した大規模な集団行動は、非常に注目に値します。



これまで、Rhyacoglanis属のナマズたちに、このような習性があるという事実を一切知らなかったのです。

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「カッピング」の要領でヒレを押し当てて岩肌を登る

 研究者たちによると、この魚が胸ビレと腹ビレを広げて岩の表面に押し当て、身体と岩との間に吸盤のような形で吸い付いて登っていくらしい。

 エステサロンなどで、ガラスでできたカップ(吸い玉)を身体にに押し当てて陰圧で筋肉をほぐして行く「カッピング」という施術が行われることがあるが、あれを想像してもらうとわかりやすいだろう。

 この仕組みは、アンデスに生息するナマズや、渓流にいるドジョウの仲間にも見られるメカニズムと共通すると考えられている。

 研究チームによる調査では、もっと垂直に切り立った岩を登っている様子や、研究者が持ち込んだバケツによじ登る様子も撮影された。

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干ばつ明けの繁殖行動で一斉に滝登りをした可能性

 彼らがこうやって滝を登っていくのは、おそらくは繁殖のために上流へ移動する途中の光景ではないかとの仮説が立てられた。

 特に観察されたのは雨季が始まった直後であり、水位の上昇が繁殖行動を促した可能性があるという。

 また、バンブルビー・カットフィッシュ以外にも、ナマズやカラシンの仲間の3種類の魚が、一緒に岩を登っている様子が確認されたという。

すべての兆候は、これが繁殖のための集合行動であることを示しています。今回の出来事は、この地域が長く厳しい干ばつに見舞われ続けた直後に発生しました。

おそらく急激な水位の上昇が、彼らの産卵を促す引き金となり、これまで一度も見られたことのないほどの大量の魚の集中を引き起こしたようです

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水力発電のための開発で、今後は生息域が脅かされるリスクも

 ブラジルの河川で暮らす小型の淡水魚の生態は、いまだによくわかっていないなことが多い。

 なぜなら、これまでの研究の多くは、漁業にとって重要な大型の魚に焦点を当ててきたからである。

 また、小型魚の移動は短期間かつ特定の環境条件下でのみ発生するため、研究者にとって見逃されやすいという事情もある。

 つまり地域の住民(今回は環境警察)からの通報が学術的な観察に結びついた例はレアであり、科学的にも重要な出来事だったのだ。

 今回の研究は、ブラジルの河川の生息環境が、小型魚のライフサイクルにとっていかに重要であるかを示唆するものだ。

 特に魚たちの回遊を阻害する恐れのある、ダム建設による河川分断の脅威をふまえると、開発による環境破壊に警笛を鳴らす結果となった。

 マリーニョ教授は最後にこう話している。

このような行動を記録し共有することは、自然の生息地、特に急流の小河川を保全する必要性を強調するものです。

こうした生息地は、しばしば水力発電のための貯水池に沈められてしまい、そこに適応した種は完全に姿を消してしまうのです

References: Thousands of bumblebee catfish captured climbing waterfall in never-before-seen footage[https://www.livescience.com/animals/fish/thousands-of-bumblebee-catfish-captured-climbing-waterfall-in-never-before-seen-footage] / Moving up in the world: Rare catfish species filmed climbing waterfalls[https://phys.org/news/2025-08-world-rare-catfish-species-climbing.html] / Onlinelibrary.wiley.com[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jfb.70158]

本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。

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