脳内の「心の声」を読み取る新たな技術、最大74%の精度でリアルタイム解読に成功
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 人が心の中で思う「言葉」、内なる声を、科学者たちがリアルタイムで解読することに成功した。

 「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」と呼ばれる技術を使い、脳の活動を読み取ることで、心の中で思った言葉を最大74%の精度で識別することに成功したという。

 これは、話すことができない人々にとって、思考そのものを言葉に変換する新たなコミュニケーション手段となる可能性を秘めている。

 さらに、パスワードのように、ユーザーが心の中で特定のフレーズを思い浮かべたときだけシステムが起動するしくみも導入されており、すべての思考が読み取られないよう、自分の意思で制御できるという。

 この研究成果は学術誌『Cell[https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00681-6]』(2025年8月14日付)で発表された。

心の中で思った言葉が伝わる技術

 今回の成果は、アメリカ・スタンフォード大学の研究チームによって発表された。

研究の中心にあるのが「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」という技術である。

 これは、脳内の神経信号をコンピューターに接続して読み取り、意志や思考を外部に伝えるという仕組みだ。日本では「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」という名称も使われている。

 これまでBCIは、たとえば義手を動かしたり、視線で画面操作をしたりといった用途で活用されてきた。

 さらに最近では、「話そうとする」口の動きを読み取り、言葉として再現する技術にも応用されている。

 しかし、筋肉の制御が困難な人にとっては、「話そうとする」動作すらも大きな負担になることがある。

 そこで注目されたのが、声に出さず、頭の中で言葉を思う「内言(ないげん)」だ。動きも発声も必要としないため、思考だけで伝える手段として期待が寄せられている。

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最大74%の精度で心の声を読み取ることに成功

 研究に参加したのは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脳幹卒中によって重度の麻痺を抱える4人の患者たちである。

 彼らの脳の運動皮質(大脳皮質の一部で随意運動の指令を出す領域)にマイクロ電極を埋め込み、神経活動を記録した。

 実験では、参加者に以下の2通りの指示が与えられた。

  • 指定された単語を声に出そうと努力する(実際には発声しない)
  • 同じ単語を、声にも出さず、心の中だけで思う(内言)
  •  結果として、どちらの行動でも脳の同じ領域が活動し、似たパターンの神経信号が観測された。

     ただし、内言の方が全体的に信号の強度は弱く、詳細な分析によって両者の違いも見分けられることが分かった。

     次に、この内言の脳信号データをAIに学習させたところ、最大12万5000語の語彙の中から、心の中で想像した言葉や文章を最大74%の精度で正確に解読することに成功した。

     さらに驚くべきことに、研究チームは、参加者が指示されていない言葉までもBCIが読み取っていたことを報告している。

     たとえば、画面上に表示されたピンク色の円を数える課題では、参加者が心の中で数を数えていたことが検出されたという。

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    勝手に思考が読まれないためのパスワードを設定可能

     思考を読み取る技術が進化すればするほど、気になるのはプライバシーの問題である。BCIが常に内言を解読していたら、本人の意思に関係なく心の中が筒抜けになってしまう恐れがある。

     こうした不安を解消するために、研究チームは「起動フレーズ」という仕組みを導入した。

     これは、心の中である特定のフレーズを思い浮かべたときだけ、BCIが「内言を読み取ってよい」という合図として認識し、解読を開始するもので、パスワードのようなものだ。

     実験では「chitty chitty bang bang(日本語でいうところのチキチキ・バンバン)」という特徴的なフレーズが使われ、98%以上の精度でBCIがこれを認識し、思考の解読をオンにすることができた。

    このように、思考の読み取りはあくまでユーザーの意思でコントロールできるように設計されており、倫理的な問題もクリアできるという。

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    話すことができない人の言葉が届く時代へ

     現段階では、BCIが完全に自由な思考や複雑な内言を誤りなく読み取ることは難しい。

    しかし今回の研究は、「考えるだけで伝える」未来に向けた強い可能性を示した。

     今後、センサーの精度やAIの解読能力がさらに進化すれば、BCIは言語を発さなくても他者と意思を交わせる、新しいコミュニケーションの形となるかもしれない。

     研究を率いたスタンフォード大学のフランク・ウィレット博士はこう語る。

     「BCIの未来は明るい。今回の成果は、思考だけで自然な会話を可能にするという夢を、現実に近づけるものです」

     ただしこの技術が悪用されると、SF映画にあるような情報漏洩や尋問などにつながってしまう懸念もある。

     この技術を本当に必要としている人たちのために、安全に、慎重に使われていくことが求められる。

    References: Brain-computer interface could decode inner speech in real time[https://www.eurekalert.org/news-releases/1093888]

    本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

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