驚異の脳を持つスーパーエイジャー 80歳を超えても若者並みの記憶力を保つ理由
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 年齢を重ねると記憶力や思考力は衰えるものだと多くの人は思っている。しかしアメリカの研究は、その常識を覆す存在を明らかにした。

 「スーパーエイジャー」と呼ばれる人々は、80歳を超えても30歳以上若い世代と同じ記憶力を保つ。彼らの脳は加齢による変化を驚くほど抑えており、社会性や脳の構造にも特異な特徴がある。

 25年間にわたる追跡研究から見えてきたのは、認知機能の低下は必ずしも避けられない運命ではないという希望の事実だ。

 この研究は『Alzheimer’s & Dementia[https://alz-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/alz.70312]』誌(2025年8月7日付)に掲載された。

80歳以上でも若者並みの記憶力を持つ高齢者

 米国イリノイ州シカゴにあるノースウェスタン大学の研究チームは、2000年から290人のスーパーエイジャーを毎年評価してきた。

 調査では血液検査や脳の画像解析に加えて、レイ聴覚言語学習テストと呼ばれる検査を行っている。

 このテストでは15個の無関係な単語を覚え、3回繰り返した後に5分から25分後でもう一度思い出す。

 スーパーエイジャーは15点満点中9点以上を記録し、これは56歳から66歳の平均値に相当する。80歳を超える世代としては極めて高い数値だ。

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脳の老化が遅い理由

 脳画像の解析では、スーパーエイジャーは大脳皮質の薄化が同年代より著しく遅いことが分かった。

 大脳皮質は感覚や運動、記憶、言語など高度な情報処理を担う部分で、年齢とともに薄くなるのが一般的だ。

 18か月間の追跡調査では、大脳皮質の厚さの減少率はスーパーエイジャーで1.06%、同年代の一般高齢者では2.24%と明確な差があった。

 さらにスーパーエイジャーは前帯状皮質と呼ばれる部分が若い成人よりも厚い。

 この部位は感情の調整や動機づけ、社会的なつながりの形成などに関わる。

 社交的で人間関係を大切にするというスーパーエイジャーの行動特性とも一致している。

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脳細胞にも特別な違い

 亡くなった後に脳を提供した77人のスーパーエイジャーの解析では、フォンエコノモ神経細胞(Von Economo neuron[https://en.wikipedia.org/wiki/Von_Economo_neuron])が多く見られた。

 これは社会的行動に関与するとされる特殊な神経細胞だ。また記憶に重要な嗅内皮質ニューロンも通常より大型であることが分かった。

 興味深いのは、アルツハイマー病の進行に関わるアミロイドβ(Amyloid-beta、アミロイド前駆体タンパク質が分解されて生じ、脳内に沈着してアミロイド斑を形成する異常タンパク質)やタウ(Tau protein、神経細胞内で糸状に絡み合い、神経原線維変化と呼ばれる異常構造をつくるタンパク質)が、ある人の脳には存在し、別の人には存在しなかったことだ。

 研究チームはスーパーエイジャーの強さを二つに分類している。一つはこれらの異常タンパク質を作らない抵抗力、もう一つは作られても脳に悪影響を及ぼさない回復力である。

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認知症予防への希望

 ノースウェスタン大学のサンドラ ワイントラウブ教授は、スーパーエイジャーの研究は高齢期でも優れた記憶力を保てることを示すだけでなく、その仕組みを明らかにすることで新たな脳の健康維持法の開発につながると語る。

 彼らの存在は、老化が必ずしも脳に破壊的な影響を与えるわけではないことを教えてくれる。

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