
腰痛は多くの人が悩まされる身近な症状の一つだ。完治したと思っても再発することが多く、そのたびに日常生活や仕事に支障をきたしてしまう。
そんな腰痛の再発を、簡単な方法で予防できる可能性があるという研究結果が発表された。
オーストラリアで行われた大規模な臨床試験により、ウォーキングを定期的に行うだけで、腰痛に悩まされる期間が大幅に少なくなることが明らかになった。
整骨院やマッサージに通っても効果がないという人にとっては最も手軽でお財布にやさしい方法かもしれない。
必要なのは、1日30分ほど歩くことを習慣にする意志だけだ。
腰痛経験者701人を追跡調査、歩くだけで痛みが軽減
この研究は、オーストラリア・マッコーリー大学の脊椎痛研究グループによって行われもので、対象となったのは、腰痛から最近回復した701人の成人だ。
参加者は2つのグループに分けられ、一方は個別に調整されたウォーキングプログラムと、理学療法士による6回の教育セッションを6か月間受けた。
教育セッションでは、腰痛に関する正しい知識の提供や、痛みへの不安や誤解を解消する指導が行われた。
ウォーキングの進め方についても、健康状態や生活習慣に合わせて個別に計画を立て、運動の習慣化をサポートする支援が行われた。
もう一方は何の介入も行わず、通常どおりの生活を送った。
その後、1年から3年間にわたり追跡調査を実施した結果、ウォーキングと教育を受けたグループでは、再び腰痛が再発するまでの期間が中央値で208日となり、対照グループの112日と比べて約2倍に延びていた。
激しい痛みの回数も少なくなり、医療機関の受診や欠勤の回数も約半減していたという。
歩く時間と距離の目安
研究チームを率いたマーク・ハンコック教授は、ウォーキングが腰痛予防に効果的な理由として、背骨や周囲の筋肉への適度な負荷、歩行による振動、心身のリラックス効果、ストレス軽減、さらにエンドルフィン(脳内で分泌される快感物質)の作用など、複数の要因が複合的に関係している可能性を指摘している。
また論文の筆頭著者であるナターシャ・ポコヴィ博士は、「このプログラムは費用対効果に優れており、特別な器具も高額な指導も必要とせず、誰にでも取り組める方法だ」と述べている。
なお、研究では参加者ごとに運動量が調整されていたため、論文内で明確な「歩数」や「分数」は示されていないが、報道によれば、おおよそ週4回で合計130分 / 週を目安に設定されていた。
これを1回あたりに換算すると約32分で、歩数では約3,200~3,800歩に相当する。無理のない範囲で、日常生活に取り入れられる内容だ。
医療の現場にも応用可能、今後の普及に期待
今回の研究が注目されるのは、誰にでも実践できるシンプルな方法で、腰痛の予防に効果があると実証された点にある。
これまでの腰痛予防法には、専門的な器具や高額なプログラムが必要な場合が多く、継続のハードルが高かった。
その点、ウォーキングであれば特別な準備も費用も不要で、年齢や居住地、経済状況を問わず誰もが取り組める。
今後、この方法が医療現場や健康づくりの現場でも活用されれば、慢性的な腰痛に悩む多くの人にとって、大きな助けとなるはずだ。
ただし、腰痛といっても原因はさまざまだ。強い痛みがある人や、症状の原因がはっきりしていない場合には、ウォーキングを始める前に必ず医師の診察を受けることが必要だ。
中には、別の疾患が関係しているケースもあり、運動がかえって症状を悪化させてしまう可能性もあるので、必ず専門の医療機関に相談しよう。
この研究成果は医学誌『The Lancet[https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)00755-4/fulltext]』(2024年7月13日)に掲載された。
References: Thelancet[https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)00755-4/fulltext] / Researchers Discover Surprisingly Simple Way To Ease Lower Back Pain[https://scitechdaily.com/researchers-discover-surprisingly-simple-way-to-ease-lower-back-pain/]
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