
ボストン・ダイナミクスのアトラスや、テスラのオプティマスといったヒューマノイド(人型ロボット)は、どんどん人間の動きに近づきつつあり、未来がすぐそこまで来ているように思わせる。
しかし、現実の世界で本当に役に立つロボットになるには、大きな欠点がある。
それはAI(人工知能)の頭脳ではなく構造上の問題にあるとSONYのロボット部門が研究パートナーを募る中で指摘した。
この欠陥こそ、ロボット革命を遅らせている最大の原因だという。
ロボットに足りないのは関節、柔軟性
SONYのロボット部門が研究パートナー募集の中で明らかにしたのは、関節の数の少なさによってロボットの動きが大きく制限されているという事実である。
人間や動物は数多くの関節や柔軟な筋肉、腱を使うことで自然な動きを実現しているが、ロボットは金属の骨格と限られた関節しか持たない。
そのために柔軟性がなく、生物との差が生じ、価値を著しく損なうというのだ。
SONYはこれを最も重要な設計上の問題点と捉え、解決のためには「柔軟な構造メカニズム」の研究が必要だと強調している。
つまり、次の世代のロボットには、より人間や動物に近い構造を持つ新しい身体設計が求められているのである。
金属製の体を持つロボットのエネルギー効率の悪さ
人間の体は、背骨や腱(けん)、関節がしなやかに働き、効率よく自然な動きを作り出している。アスリートの動きが優雅で無駄がないのもその仕組みのおかげだ。
一方でロボットは金属の骨組みとモーターに頼っており、関節の自由度も少ない。そのため不自然でぎこちない動きになってしまう。
さらにロボットは、自分の重さに逆らって立つだけでも膨大な計算を必要とする。毎秒何百万回もの小さな調整をして、やっとバランスを取っているのだ。その結果、大量の電力を使い、長く動けない。
たとえばテスラのオプティマス(Optimus)は、ただ歩くだけで毎秒500ワットを消費する。人間は早歩きでも310ワットで済む。
つまりロボットは人間より45%も多くのエネルギーを使っていることになる。
AIの進歩だけでは埋まらない生物の動きとの差
AIがどれほど進歩しても、この身体の欠陥を補うことは難しい。不自然な体は強力なモーターや膨大な計算を必要とし、結果的にロボットを重く、電気を食う存在にしてしまうからだ。
オプティマス(Optimus)が披露したTシャツを畳むデモは、人間との差をよく示している。
人間は布の感触を頼りに自然に畳めるが、ロボットはカメラで見た情報を基にAIが細かく計算し、一つひとつの動きを決めなければならない。
もしシャツが皺だらけでベッドの上にあれば、対応できないだろう。
また、ボストン・ダイナミクスのアトラス(Atlas)は派手なアクロバットを見せるが、苔の生えた岩場や枝が絡み合う茂みを歩くことはできない。
体が柔軟に形を変えられず、環境に適応できないためだ。こうした制約が、彼らを研究室の中に縛り付けている。
自然界に学ぶ「メカニカル・インテリジェンス」
SONYが浮き彫りにした課題を克服するために注目されているのが「メカニカル・インテリジェンス(MI)」だ。これは自然界の生き物が持つ「体そのものの知恵」をロボットに応用するものである。
松ぼっくりは乾燥すると自動で開き、湿ると閉じる。
もしこうした仕組みをロボットの手に取り入れられれば、今より少ない力とエネルギーで柔軟に物をつかめるだろう。皮膚そのものが「コンピュータ」のように働くことになるのだ。
未来は頭脳と身体の融合にある
SONYの問題提起は、ロボットの未来を考えるうえで重要な指針になっている。MIの目標は、余計なセンサーや電力を使わなくても、身体そのものが環境に適応できるようにすることだ。
人型の形をあきらめる必要はなく、新しい考え方で設計を見直せばよい。
すでにMITの研究者が開発したチーターの腱をまねた脚を持つロボット[https://news.mit.edu/2013/mit-cheetah-robot-0308]が、効率よく走る実験も行われている。
研究者たちは「ハイブリッド関節[https://hamedrajabi.com/]」と呼ばれる部品も開発しており、人間の肩や膝に近い自然な動きを再現しようとしている。
未来のロボットは、AIの頭脳と身体の設計、その両方の力を融合させることで生まれる。
メカニカル・インテリジェンスを取り入れた新しい世代のロボットは、研究室を飛び出して、私たちの暮らしの中で本当に役立つ存在になるだろう。
References: Today’s humanoid robots look remarkable, but there’s a design flaw holding them back[https://theconversation.com/todays-humanoid-robots-look-remarkable-but-theres-a-design-flaw-holding-them-back-262720]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。