倍速再生は効率的だが、2倍速以上では記憶力が低下するという研究結果
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 動画や音声の速度を上げて再生することで、短時間で多くの情報を得ようとする人が増えている。

特に若い人々の間では、1.25倍や1.5倍の速度での視聴は、もはや日常的な学習・情報収集の手段となっている。

だが、再生速度によっては、記憶に影響を与えることがカナダとアメリカの研究者らが行った最新の研究で明らかとなった。

 2倍速を超える速さで視聴した場合、記憶に残りにくくなる傾向が明確に見られたのだ。

 この研究は教育心理学の専門誌『Educational Psychology Review[https://link.springer.com/article/10.1007/s10648-025-10003-9]』(2025年4月8日付)に掲載された。

時短のための倍速再生、でも記憶は追いつけるのか?

 カナダのウォータールー大学、アメリカのシカゴ大学、カナダのニューファンドランド記念大学の研究者たちは、過去に発表された24件の実験データを統合し、再生速度が情報の記憶にどのような影響を及ぼすのかを検証した。

 各研究では、参加者に同じ動画を1倍速(通常速度)や1.25倍、1.5倍、2倍、最大2.5倍など異なる速度で視聴してもらい、その後、視聴した内容に関するテストを実施した。

 テスト形式は選択問題、記述問題、またはその組み合わせで構成された。

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再生速度による記憶への影響が明らかに

 分析の結果、再生速度が上がるにつれて、記憶できていた情報の正確さが低下する傾向が見られた。

 1.25倍速や1.5倍速といった中程度の速度では、テスト成績に対する影響はごくわずかで、統計的にも有意な差はほとんど確認されなかった。

しかし、2倍速を超える視聴では、明らかに記憶の正確さが下がり、無視できない悪影響が出ていたことが判明した。

 研究者たちは、再生速度が上がることで、視聴者の処理能力が追いつかなくなり、情報を記憶にとどめるための時間が不足することが原因ではないかと考えている。

年齢による影響の違いも見られた

 さらに、研究チームは参加者の年齢にも注目した。すると、年齢が高くなるほど、再生速度による記憶力への影響が強くなる傾向が見られた。

特に、60歳から94歳までの高齢層では、速い再生速度の影響がより顕著に現れていた。

 この背景には、加齢による記憶力の変化や、動画視聴機能に対する技術的な慣れの違いが関係している可能性があるという。

 ただし、これは研究者たちが補足的に行った分析であり、今後の詳細な検証が必要とされている。

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自分の理解度に応じて再生速度を決める

 今回の分析に含まれた研究では、参加者は決められた速度で視聴していた。しかし、現実の視聴環境では、一時停止、巻き戻し、再視聴といった操作が可能だ。

 研究チームは、「実際の学習者は再生速度を自由に調整できるため、自分の理解度に応じて記憶への負荷を軽減できる可能性がある」と述べている。

 どの程度の速さなら記憶できるかは個人差もある。

 つまり、「速く聞くだけ」で終わらせず、自分にとって適切なペースを見つけることが、記憶の定着には重要だといえる。

脳が処理できる速度と、記憶に残せる速度は一致しない

 倍速再生はたしかに便利で、時間の節約にもつながる。しかし、脳が処理できる速度と、記憶に残せる速度は必ずしも一致しない。

 特に2倍速を超える視聴では、「聞き取れていても覚えられていない」状態になる危険性がある。

一方、1.25~1.5倍速程度であれば、記憶力への悪影響は少ないことも今回の研究で裏付けられている。

References: Watching Videos At Higher Speeds May Save Time But It Has Some Drawbacks[https://www.iflscience.com/watching-videos-at-higher-speeds-may-save-time-but-it-has-some-drawbacks-79942]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。

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