地球の座標「0,0」には何があるのか?架空の島「ヌル島」の正体
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 地球上には、緯度0度と経度0度が交差する、座標上で特別な意味を持つ一点がある。赤道と本初子午線が交わるその場所は、地図上では「0,0」と表示される座標だ。

 かつて各国がそれぞれの都合で異なる基準を使っていた経度は、国際会議によってグリニッジ天文台を通る線に統一され、ようやく世界共通の基準が定められた。

 では、その「0,0」地点には実際に何があるのだろうか? 実はそこには、「ヌル島」と呼ばれる奇妙な“架空の島”が存在している。

世界中が主張し合った「経度0度」の始まり

 現在、地球の経度0度は、イギリス・ロンドンにあるグリニッジ天文台[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%B8%E5%A4%A9%E6%96%87%E5%8F%B0]を通る線「本初子午線[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E5%88%9D%E5%AD%90%E5%8D%88%E7%B7%9A]」として定められている。

 しかしこのルールが生まれる前、各国は自国の都合で本初子午線を定めていた。

 例えば、フランスはパリを、そして中国は北京を経度0度とする地図を作っていた。このため、世界中の航海者たちは、国が違えば地図の基準も変わるという、きわめてややこしい状況に直面していた。

 この混乱に終止符を打つべく、1884年、アメリカ合衆国のチェスター・アーサー大統領の呼びかけにより、「国際子午線会議(International Meridian Conference)」がワシントンD.C.で開催された。

 25か国の天文学者や代表者が集まり、経度の世界標準を定めることになったのである。

 そこでイギリスのグリニッジ天文台を本初子午線とすることが承認された。

 グリニッジが選ばれた理由のひとつは、その地点を通る経度線が、ほぼ海上を通過するため、各国の領土に干渉しにくいという実利的なメリットがあった。

 この線が、地球を縦に貫いて東と西を分ける「経度0度」となった。

 一方、「緯度0度」は赤道を基準に天文学的に決定されており、こちらは比較的スムーズに合意がなされた。

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「0,0」の地点には何があるのか?

 緯度0度(赤道)と、経度0度(本初子午線)が交差する「0,0」の地点は、アフリカの西岸沖にあるギニア湾に位置する。そこには陸地はなく、完全に海の上だ。

 ところが、デジタル地図の中では、この場所に“島”が描かれることがある。それが「ヌル島(Null Island)」と呼ばれる、1メートル四方の架空の島「ヌル島」である。

「ヌル島」はなぜ地図上に現れたのか?

 ヌル島は、実在する島ではない。それにもかかわらず、なぜ地図に描かれているのか?

 その理由は、地理情報システム(GIS)で地図をデジタル化する過程で発生するエラーにある。

 GISでは、住所や地名などの情報を緯度・経度の座標に変換する必要がある。

 この作業自体は単純だが、入力ミスや存在しない住所、誤った形式のデータが含まれていると、システムが正しい位置を特定できず、代わりに座標「0,0」を出力してしまうことがある。

 アメリカ議会図書館のティム・セント・オンジ氏は、ブログ[https://blogs.loc.gov/maps/2016/04/the-geographical-oddity-of-null-island/]でこう説明している。

住所のミス、存在しない建物番号、その他の不備があると、ジオコーダー(座標変換システム)は混乱し、結果として『0,0』という座標を返すことがあります

これは地球上の実在する場所ではありませんが、座標系上では存在するため、地図上にポイントが表示されてしまうのです(ィム・セント・オンジ氏)

 こうしたエラーによって、誤ったデータが意図せず「0,0」の地点に集まってしまう。そのため、地図制作者たちはこの地点を“エラーを見つける目印”として活用するようになった。

 こうして誕生したのが、「ヌル島」という仮想の島である。これは、座標指定ミスを検出・修正するためのプレースホルダーとして、あえて地図に描き加えられた存在なのだ。

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座標「0,0」に実在するもの

 座標「0,0」の海上に本物の島は存在しなが、そこにはたった一つ、実在するものがある。

 それが、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の観測用ブイ「ステーション13010(Station 13010 – Soul)」である。

 このブイは、熱帯大西洋の気象や気候を観測する国際プロジェクト「PIRATA(熱帯大西洋予測・研究係留ブイアレイ)」の一部を構成しており、全体で17基あるブイのうちの一つにあたる。

 海水温、湿度、風速などをリアルタイムで測定し、世界中の気象予報や気候モデルの精度向上に貢献している。

 ヌル島という架空の島が、地図上でエラーを示す目印として使われている一方で、そのすぐ真上の現実の海には、気候研究の最前線で活躍する観測装置が浮かんでいる。

 地球で最も象徴的な座標に設置されたこのブイは、重要な任務を担っているのである。

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References: Null Island[https://en.wikipedia.org/wiki/Null_Island] / Blogs.loc.gov[https://blogs.loc.gov/maps/2016/04/the-geographical-oddity-of-null-island/] / Naturalearthdata[https://www.naturalearthdata.com/]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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