
インド北部、首都ニューデリーから北東に約60kmの、ウッタル・プラデーシュ州メーラトにある時計塔。その屋根の上に突如として「スパイダーマン」が現れた。
マーベルの映画から抜け出したような赤と青のコスチュームを身にまとい、塔をよじ登っては高所でスタントを披露する姿。
これは映画の撮影でも公式イベントでもない。地元の青年が自らスパイダーマンに扮し、危険なスタントを撮影してSNSに投稿していたものだ。
歴史的な建造物でのあまりにも危険な行動に、とうとう現地の警察が動く事態に。「地元のスパイダーマン」はあえなく御用になったそうだ。
映画「スパイダーマン」の名台詞に「大いなる力には、大いなる責任が伴う」というものがあるが、まさにスタント能力を誇示した代償は大きかったようだ。
歴史的建造物で決めポーズをした「スパイダーマン」
事件が起きたのはメーラトの中心にそびえる時計塔である。英国植民地時代に建てられたこの塔は、市民にとってシンボルであり、文化的価値の高い歴史的建造物として知られている。
その塔を舞台に、赤と青のスパイダーマンの衣装をまとった男が壁をよじ登り、柱にしがみつき、地上を見下ろしてポーズを決める。
動画には派手な音楽やエフェクトが加えられ、まるで映画のワンシーンのように仕上げられていた。
元の動画は既に削除されているようだが、X[https://x.com/hindipatrakar/status/1959214390508482871]に転載されたものを見ると、時計塔の上でポーズを取ったり、壁に貼りついて見せたりしているようだ。
この映像は2025年8月22日にSNSに投稿され、すぐに広く拡散された。その結果、歴史的建造物である時計塔への敬意を欠く危険な行為だと批判が殺到。
逮捕されたのは、地元住民のモハマド・ファラージ(30)容疑者だ。彼は自ら「スパイダー・ファラズ」と名乗り、これまでもスパイダーマンに扮した映像を自身のInstagram[https://www.instagram.com/spider_faraz_01/]に投稿していたとされる。
彼の動画は一部で人気を集めていたが、今回の時計塔でのスタントはあまりにも危険であり、警察が動くきっかけとなった。
ファラージ容疑者は「公共の安全を脅かした」として逮捕されたが、拘置はされず、後日の呼び出しに応じる形で即日釈放されたという。
独立記念日のお祭り騒ぎでの出来事か
調べによると、ファラージ容疑者はメーラト市内のアバール・ナガルに居住しており、もともと動画を作るのが趣味だったという。
今回は「少し変わったことがしたい」という思い付きで、スパイダーマンのコスチュームを購入。
Instagramに「スパイダー・ファラージ[https://www.instagram.com/spider_faraz_01/]」のアカウントを作って、動画の投稿を繰り返していたそうだ。
警察当局は、この逮捕劇について以下のように説明している。
SNSに動画が拡散され、多くの人々から批判されました。問題なのは公的な場、保護対象に指定されている歴史的な建造物で、スパイダーマンの衣装を着て飛び跳ねていることです。
その手には国旗を持っていたようですが、国旗は敬意をもって掲げられるべきものです。動画が撮影されたのは独立記念日の時期と思われます。
こうした文化財を冒涜することは許されません。芸を披露したいのなら別の場所ですれば良いのです
ファラージ容疑者のInstagramには、他にもインド国旗を掲げてパレードを行う人々の前で、スパイダーマンに扮し、アクロバットを行っている動画が投稿されている。
おそらくインドの独立記念日である8月15日に、お祭り気分でこうした行為を行ったのだろう。
インド各地に出没する「スパイダーマン」たち
実は同じ時期に、インド国内では複数の「スパイダーマン」たちが現れて、SNSやメディアを賑わしていた。
ムンバイでは8月19日、豪雨による洪水の中で、モップを手に冠水した道路を掃除している「スパイダーマン」が話題になった。
モップ1本で何とかできるレベルの洪水ではないのだが、何ともユーモラスな「正義の味方」に、被害に遭った住民らの間にも笑顔があふれたという。
ただし、おぼれかけているような映像もあり、「まず自分を救えよ!」とネットでは盛り上がってもいたようだ。
また、8月20日にはオリッサ州ルールケラで、バイクで危険行為をした「スパイダーマン」が、交通違反で15,000ルピー(約25,000円)の罰金を科せられた。
どうやらこの「スパイダーマン」は、ショッピングセンターや公園に現れて、子供たちの人気者になっていたらしい。
ノーヘル・サンダル履きでバイクに乗っていたとのことだが、インドではほぼ当たり前なのでなんで?と思ったら、轟音が出るように改造したバイクだったようだ。
さらに2024年7月にも、首都デリーで車のボンネットに乗って移動していたスパイダーマンが逮捕されていたりした。
つまり「スパイダーマン」というキャラクターは、インド人にとってヒーローであると同時に、自分に注目を集めるためのアイコンになっているのだろう。
なんせ公式にインドのスパイダーマンが活躍する映画、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』まで登場しているんだ。
インドでは近年、列車の上に乗ってセルフィーを撮影した若者が感電死したり、高層ビルの屋上で危険なスタントを披露して転落する事故が複数報じられている。
2016年の調査では、セルフィーによる死亡事故は、世界でもインドが群を抜いて多い[https://www.afpbb.com/articles/-/3108546]んだとか。
危険行為が後を絶たないのはインドだけじゃない、中国やロシアでも高所で自撮りを行う若者たちが問題視されている。
たとえ今回は何事もなく、再生回数を稼げる動画が撮影できたとしても、次は無事で済む保証はない。
本家の「大いなる力には大いなる責任が伴う」というメッセージとは裏腹に、この「スパイダーマン」たちは責任を果たせず、法の網にかかってしまったようだ。
References: UP Police arrest 'Spider-Man' for scaling historic clock tower in Meerut, doing stunts[https://www.moneycontrol.com/city/up-police-arrest-spider-man-for-scaling-historic-clock-tower-in-meerut-doing-stunts-article-13482531.html#goog_rewarded]
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。