巨大な帆のような構造を持つ新種の恐竜を発見、求愛に使用されていた可能性

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 イギリス南部のワイト島にある博物館で保管されていた恐竜の化石から、背中に帆のような突起を持つ新種の恐竜が発見された。

 発見したのは元医師で現在は古生物学の研究を行っているジェレミー・ロックウッド博士で、約1億2500万年前(白亜紀前期)に生きていた「イグアノドン類」に属する恐竜だ。

 背中の骨から伸びた突起が皮膚に覆われ、まるで帆のように見える構造を持っており、仲間に自分を誇示するためのアピール、特に求愛行動に用いられていた可能性があるという。

 この研究成果は古生物学専門誌『Papers in Palaeontology[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/spp2.70034]』(2025年8月21日付)に発表された。

背中に帆を持つ新種の恐竜を発見

  この化石は、イギリス南部ワイト島に分布する「ウェッセックス層(Wessex Formation)」という地層から発見され、地元の「ダイナソー・アイランド博物館」に収蔵されていたものである。

 ウェッセックス層は白亜紀前期(バレム期)に形成された地層で、当時の多様な植物や動物の化石が豊富に産出することで知られている。

 元医師で、その後古生物学に情熱を注ぎ、現在はポーツマス大学の博士課程に在籍し、ロンドン自然史博物館と連携して研究を進めているジェレミー・ロックウッド博士は、調査の一環としてこの化石を詳しく調べた。

 その過程で、背骨の突起である神経棘(しんけいきょく)が異常に長い標本に気づいた。

 神経棘は、恐竜や哺乳類など脊椎動物の背骨(脊椎)の一部で、筋肉や靭帯の付着点となる構造である。

 これまでこの化石は他のイグアノドン類の一部と考えられていたが、詳細な解析の結果、全く別の新種であることが判明した。

 この恐竜は「イスティオラキス・マッカーサラエ(Istiorachis macarthurae)」と名付けられた。

 学名の「Istiorachis」は「帆のような背骨」を意味し、「macarthurae」はワイト島出身の冒険家デイム・エレン・マッカーサーにちなんでいる。

 マッカーサーは2005年、世界一周のヨット航海で史上最速の単独・無寄港記録を打ち立てた人物だ。

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イグアノドン類とは?

 イスティオラキスが属する「イグアノドン類[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%83%89%E3%83%B3%E9%A1%9E]」は、白亜紀前期に広く繁栄した植物食恐竜のグループである。

 代表的な種「イグアノドン」は19世紀にヨーロッパで最初に学術的に記載された有名な恐竜の一つで、恐竜研究の歴史を語る上でも欠かせない存在だ。

 体の大きさは数mから10mを超えるものまで幅広く、二足歩行と四足歩行を使い分けて移動していたとされる。

 頑丈な顎と特徴的な親指のトゲを持ち、木の葉や草を食べる一方で、捕食者に対してはそのトゲを武器に身を守っていたと考えられている。

 今回発見されたイスティオラキスも、そうしたイグアノドン類の仲間でありながら、背中に帆のような構造を持つという点で、これまで知られていた種とは大きく異なっていた。

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背のにある「帆のような構造」は何のため?

 イスティオラキスは成体の人間よりやや大きいほどの体格で、神経棘は25~30cmに達していた。この突起が皮膚に覆われて「帆のような構造」となっていたと考えられる。

 その役割はまだ明確ではないが、進化の過程では実用性よりも繁殖に有利な派手な特徴が残ることがある。これは「性淘汰(せいとうた)」と呼ばれる進化の仕組みである。

 例えばクジャクのオスが尾羽を広げてメスに自分を誇示するように、この恐竜の帆も異性を惹きつけ、繁殖の機会を得るためにアピールするものだった可能性が高い。つまり、求愛行動の一環として使われていたと考えられる。

 他にも体温調節や脂肪の貯蔵といった説もあるが、研究チームは「異性へのアピールに使われていた」という説を最も有力と見ている。

 実際、イグアノドン類は白亜紀前期にかけて神経棘を伸ばす傾向が強まり、帆のような特徴が一般的になっていったとされる。

 今回のイスティオラキスの発見は、その進化的な流れを裏付ける重要な証拠である可能性がある。

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 博物館の収蔵庫に眠る標本から、いまだに新しい恐竜が発見されるという事実は、古生物学の世界がいかに奥深く、未知の発見に満ちているかを物語っている。

 共同研究者である自然史博物館の古生物学者スザンナ・メイドメント博士はこう語る。

ロックウッド博士は過去5年間でワイト島における小型イグアノドン類の既知の多様性を4倍に増やした。

イスティオラキスの発見は、当時のイギリスの生態系についてまだ多くのことを学ぶ余地があることを示している(メイドメント博士)

 イスティオラキスの帆は、1億年以上前の恐竜たちがどのように生き、どのように仲間と交流していたのかを解き明かす鍵になるかもしれない。

追記(2025/08/27):

 Istiorachis のカタカナ読みを「イストイオラキス」と表記していましたが「イスティオラキス」に変更して再送します。

References: Onlinelibrary.wiley.com[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/spp2.70034] / 'Striking sail' may have helped dinosaurs find mates, new fossil suggests[https://phys.org/news/2025-08-dinosaurs-fossil.html] / Retired doctor discovers new dinosaur species deep in a museum archive[https://www.popsci.com/science/new-fin-back-dinosaur/]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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