鳥のさえずりが1日50分長くなっている。人工光が野鳥たちに与える影響
アメリカンロビン(コマツグミ) Photo by:iStock

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 野鳥のさえずりが、これまでより長くなっているという研究結果が報告された。その背景には、人工光の影響があるという。

 サザンイリノイ大学とオクラホマ州立大学の研究チームは、世界中に生息する583種の昼行性の鳥について、鳴き始めと鳴き終わりの時刻に関する約260万件のデータを分析した。

 その結果、人工光が多い地域に暮らす鳥ほど、1日あたりのさえずり時間が最大で50分長くなっていることがわかった。

 都市の照明や住宅地の明かりなど、人間の生活から発せられる光が、野鳥の行動リズムにまで影響を及ぼしているのだ。

 この研究論文は『American Association for the Advancement of Science[https://www.aaas.org/]』誌(2025年8月21日付)に掲載された。

市民の協力で集められた大規模な音声データを解析

 この研究では、「バードウェザー(BirdWeather)[https://www.birdweather.com/]」という市民参加型のプロジェクトが重要な役割を果たしている。

 バードウェザーは、野鳥の観察に関心を持つ人々が、庭や自然の中に録音装置を設置し、周囲の環境音を記録する取り組みだ。

 録音装置には、鳥の鳴き声を自動で識別するソフトが搭載されており、記録された音声から鳥のさえずりだけを正確に抽出できるようになっている。

 こうした仕組みにより、世界中から260万件以上の鳴き声データが集まった。

 対象となったのは、日中に活動する583種の鳥たちで、アメリカ国内の種だけでなく、オーストラリアやヨーロッパなどに生息する鳥も含まれている。

 個人の協力によって得られたこの大規模なデータが、今回の研究を支える基盤となった。

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人工光が多い地域ほど鳥のさえずり時間が長くなっていた

 こうして集まった大量のデータを、アメリカのサザンイリノイ大学とオクラホマ州立大学の研究チームが、鳥が朝に鳴き始める時刻と、夕方に鳴き止む時刻を地域ごとの光環境と照らし合わせて比較した。

 その結果、人工光の多い場所に暮らす鳥ほど、早朝から鳴き始め、夜遅くまでさえずっている傾向が見られたという。

 最も人工光が多く明るい地域では鳴き始めが平均で18分早く、鳴き終わりは32分遅くなっていた。

 合計すると、1日あたりのさえずり時間は50分も長くなっていたことになる。

 こうした行動の変化は、一部の種に限られた現象ではなく、多くの種類の鳥で広く確認された。これほど顕著な違いが見られたことは、野鳥の行動に対する人工光の影響の大きさを示すものだ。

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どのような鳥が影響を受けているのか

 この研究では、どのような鳥が人工光の影響を受けやすいのかについても分析が行われた。

 特に影響が大きかったのは、目が大きく、巣を開けた場所に作り、広い範囲を移動する鳥たちである。

 代表的な種には、北米でよく見られる、赤い胸が特徴のアメリカンロビン(コマツグミ)、鮮やかな赤い羽を持つショウジョウコウカンチョウ(Cardinalis cardinalis)、ほかの鳥の鳴き声をまねることで知られるマネシツグミ(Mimus polyglottos)などがある。

 また、開けた地面に巣を作るフタオビチドリ(Charadrius vociferus)、、ヨーロッパ原産で都市部に適応したクロウタドリ(Turdus merula)、オーストラリアに生息するツチスドリ(Grallina cyanoleuca)なども、人工光の影響を受けていた。

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 これらの種に共通しているのは、周囲の明るさに敏感な生活環境にあることだ。

 夜間でも光にさらされやすい場所に巣を作るため、人工光の影響を強く受けやすいと考えられている。

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長時間のさえずりが鳥に及ぼす影響

 さえずりの時間が延びるという変化は、鳥の健康にどのような影響を与えるのか。研究チームはこの点について明確な結論を出していないが、いくつかの可能性が指摘されている。

 活動時間の延長によって、採食や繁殖の機会が増え、個体の生存や繁殖成功にとって有利に働く可能性がある一方で、特に繁殖期にはエネルギーの消耗が大きく、休息が不足することによる負担が生じる可能性もある。

 鳥の中には、脳の片側だけを眠らせて片側を活動させる「半球睡眠」の能力を持つ種もいる。

 このような仕組みで、活動しながらも部分的に休息を取ることができるが、それでも限界があるだろう。

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光害がもたらす生態系への影響

 今回の研究は鳥類を対象としたものだが、人工光の影響は鳥に限らず、他の多くの生きものにも及んでいる。

 夜空が街の光で明るく照らされる「スカイグロー(skyglow)」という現象は、夜行性の昆虫、コウモリ、カエルなどの行動にも影響を与えている。

 また、海岸に産卵するウミガメの子どもが、月明かりではなく人工の光に引き寄せられ、誤った方向へ進んでしまうという事例も確認されている。

 現在、地球上の生命のおよそ八割が光害の影響下にあるとされており、人工光は自然環境に広く影響を与える現代的な問題となっている。

 研究チームは、今回の結果が人工光と野生動物の関係を理解する第一歩になるとし、今後はより多くの国や地域のデータを収集し、国際的な対策につなげる必要があると訴えている。

 論文の中では、夜の暗さを取り戻すことが、二十一世紀の自然保護における重要な課題のひとつであると強調されている。

 人間の手による光に満ちた現代の暮らしと、自然界が本来持つリズムとのバランスを、改めて見直す時期が来ているのかもしれない。

References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1094950] / Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adv9472] / Newatlas[https://newatlas.com/biology/birds-singing-longer/]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

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