
数年前、アメリカ・オクラホマ州のある家族が、敷地内に長年放置されていた古い納屋を取り壊すことにした。片付け作業を進めていると、床にぽつんと落ちていた奇妙な卵を発見する。
家族は、隣人のホイットニー・ロビンズさんが七面鳥を飼っていることを知っていたため、「きっと七面鳥が迷い込んで産んだのだろう」と考え、その卵を彼女に渡した。
ロビンズさんは孵卵器に卵を入れ温めて様子を見守ってみた。すると卵にヒビが入り、ヒナが誕生したのだ。
だがそれは七面鳥ではなかった、彼女が想像もしてなかった種類の鳥だったのだ。
もしかしたら孵るかも?隣人から渡された卵を温めてみた
どれほど納屋に放置されていたかわからないため、卵が孵る確証はなかったが、ロビンスさんはとりあえず温めてみることにした。
卵を孵化器に入れてから1か月以上が過ぎた。
ロビンズさんは途中で「これはもう孵らないかもしれない」と半ば諦めかけていたという。
ところがある日、卵に小さなヒビが入っているのに気づいた。
それは確かな命の兆しだった。そこから殻が完全に割れてヒナが出てくるまでには、さらに丸2日を要した。
七面鳥じゃない。なんとヒメコンドルのヒナ!
ようやく姿を見せたヒナの頭部を見た瞬間、ロビンズさんは違和感を覚えた。
くちばしがカーブしているのが見えたとき、『あれ?これ七面鳥じゃない』と思ったという。
ヒナの体は白い産毛に覆われていたが、顔とくちばしは黒っぽく、七面鳥のヒナのような黄色い羽やピンクのくちばしではなかった。
ロビンズさんが最初に驚いたのは羽の色だったが、決定的だったのは羽が乾いたあとに見えた顔の特徴だった。
「顔がはっきり見えたとき、「これはハゲタカの仲間だ」と直感したという。
彼女はその特徴を調べたところ、ヒナの正体がヒメコンドルであることを突き止めた。
野生生物の為、施設にひきわたす
ロビンズさんは、自分の家ではこの野生動物を適切に育てることはできないことをわかっていた。
その日のうちに、猛禽類の保護とケアに対応している野生動物救護施設に連絡をとり、ヒナを引き渡した。
施設では専門的な処置が行われ、ヒメコンドルは野生に戻るための準備を受けることになった。
「ほんの数時間しか一緒にいなかったけれど、忘れられない経験になりました」
彼女はその後、ヒメコンドルについてさらに調べ、多くの人がこの鳥に対して「不気味」「怖い」といった誤解を抱いていることを知ることになる。
「多くの人がヒメコンドルを嫌な鳥だと思っています。でも、彼らは自然界でとても大切な役割を果たしているんです」とロビンズさん。
彼女は今、空を舞うハゲタカの姿を見るたびに、その出会いを思い出すという。
「命をつなぐほんの小さな手助けができたことは、家族にとってもとても意味のあることでした」
ヒメコンドルとは?
ヒメコンドル(Turkey Vulture)は、北アメリカから南アメリカにかけて広く生息する大型の猛禽類で、体長は60~80cm、翼を広げると1.8m以上にも達する。
成鳥の頭部は赤く、羽毛が生えていないのが特徴で、これは死肉を食べる際に汚れや病原体の付着を防ぐ役割を持つ。
多くの鳥が視覚に頼る中、ヒメコンドルは優れた嗅覚を備え、腐敗した動物のニオイを空中から探知することができる。
一説には16km先の匂いまで把握することができるという。生息地では交通事故で死んだ動物の腐肉を食べるため、道路わきでよく見られる
さらに、極めて強い胃酸によって病原菌を無力化し、感染症の拡大を防ぎながら動物の死骸を分解する。
こうした特徴から、ヒメコンドルは「自然の清掃員」と呼ばれ、衛生環境を保つうえで極めて重要な役割を担っている。
人間からは不気味な存在として誤解されることもあるが、健全な生態系を維持するために欠かせない存在だ。
野生下では約16年、飼育下では40年以上生きる例もあり、長い年月をかけて環境のバランスを支えている。