
ロボットが人のように滑らかに動く。そんな未来がついに現実に近づきそうだ。
日本の芝浦工業大学、早稲田大学、そして富士通の研究チームが、量子コンピューターを使ってロボットの姿勢制御をより正確かつ効率的に行う新しい手法を開発した。
この方法では、量子ビットに「量子もつれ」という現象を導入し、関節の動きをリアルに再現。
実際の検証では、従来の方法に比べて誤差を最大43%も減らすことに成功したという。複雑な姿勢計算が求められるヒューマノイドロボットや多関節マシンにとって、大きなブレイクスルーとなりそうだ。
この研究は『Scientific Reports journal[https://www.nature.com/articles/s41598-025-12109-0]』誌(2025年8月8日)に掲載された。
ロボットを滑らかに動かすカギは「逆運動学」
ロボットが狙った位置に手や足を正確に動かすには、「逆運動学[https://jp.mathworks.com/discovery/inverse-kinematics.html]」という計算が欠かせない。
これは、「この場所に手を持っていきたい」という目標から、各関節がどう動くべきかを求める処理だ。
ロボットが人間や動物のように柔軟に動かないのは、関節の数が足りないことがすでに指摘されている。
かといって関節を増やせばいいという問題ではない。多関節のロボットではこの計算が極めて難しいのだ。
従来の方法では試行錯誤による反復計算に頼らざるを得なかった。
たとえば、人間のように複数の関節を持つ全身ロボットを想定し、17の関節を備えたモデルで動きを計算しようとすると、その処理には非常に多くの時間と計算資源が必要になる。
そのため実際の計算では、関節数を7個程度に簡略化して対応するのが一般的だったが、それでは動きの滑らかさやリアリティには限界があった。
量子ビットと量子もつれで動きの連動性を再現
今回の芝浦工業大学、早稲田大学、富士通の研究では、量子コンピューターを使ってこの課題を解決しようとしている。
ロボットの各部品(リンク)の位置や向きを、量子コンピューターの基本単位である量子ビットを使って表現し、それを量子回路上で処理するというアプローチだ。
量子ビットは、通常のコンピューターが使う「0か1」のビットとは違い、0と1の両方の状態を同時に持つことができる。この性質によって、複雑な計算を一度に効率よく処理することが可能になる。
さらに、研究チームは「量子もつれ」と呼ばれる現象を利用して、ロボットの関節どうしの連動性を再現した。
量子もつれとは、離れた量子ビット同士が深く結びつき、一方が変化すると他方にも影響が及ぶという不思議な性質だ。
これを使えば、ある関節を動かすと、それに連動して他の関節も自然に動くという構造を、量子の世界で再現できる。
こうした量子の特徴を活かすことで、ロボットの動きをよりリアルで滑らかにする新しい手法が実現したのだ。
ハイブリッド計算で精度と安定性を両立
とはいえ、すべてを量子コンピューターに任せているわけではない。
今回の手法では、「順運動学」(関節角度から手足の位置を求める計算)を量子回路が担当し、「逆運動学」はこれまで通り古典的なコンピューターで処理する。量子と古典の“ハイブリッド型”で、それぞれの長所を活かすかたちだ。
この結果、量子シミュレーターを使った検証では、従来に比べて計算回数を大幅に減らしながらも、最大43%の誤差削減に成功。
また、理化学研究所と富士通が共同開発した64量子ビットの実機でも同様の成果が確認されている。人型ロボットの17関節を対象にした複雑な動作の計算でも、およそ30分で実行できるとの試算が出ている。
実用化の道筋も見えてきた
さらに注目すべきは、この技術が「NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)」と呼ばれる現在の量子マシンでも利用可能な点だ。
NISQはいわば量子コンピューターの発展途上型で、完全な量子マシンが登場する前に、限られた能力の中でどこまで使えるかを探るための存在だが、特定の問題においてはすでに応用が可能なレベルにある。
今後この技術は、ヒューマノイドロボットや多関節マニピュレータ(人間の腕のように自由に動くことができるロボットアーム)のリアルタイム制御、障害物の回避、エネルギーの最適化といった分野への応用が期待されている。
さらに、量子フーリエ変換などの高度なアルゴリズムと組み合わせれば、さらなる計算スピードの向上も見込まれている。
量子の力で更に人に近づくロボット
人と一緒に働くロボットには、動きの柔軟さや俊敏さが求められる。今回の研究は、そんな未来を見据えた「量子×ロボット」という新たな挑戦だ。
複雑な関節の動きを、量子の世界で解決する。この不思議で革新的なアイデアが、これからのロボティクスの常識を塗り替えていくかもしれない。
References: Global[https://global.fujitsu/en-global/newsroom/gl/2025/08/25-01] / 量子コンピューターによるロボットの姿勢制御手法を開発[https://global.fujitsu/ja-jp/pr/news/2025/08/25-01]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。