
音楽に合わせてノリノリで身体を揺らすオウムやインコの動画は、ネットでは珍しくないし、一大ジャンルを築いていると言えるかもしれない。
だが、実際のダンスには具体的にどんな動きがあり、本当に音楽がダンスの引き金になっているのかなど、きちんとした学術的な検証はされてこなかった。
2025年8月、オーストラリアの大学の研究チームが、SNSの動画と動物園での再生実験を組み合わせ、オウム類の「ダンス行動」を体系立てて分析する研究結果を発表した。
その結果、彼らのダンスは驚くほど多彩であることが判明。少なくとも30種類のムーブ(動作パターン)が確認されたのである。
この研究は学術誌「PLOS ONE[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0328487]」(2025年8月6日付)で発表された。
オウムのダンスを科学的に分析してみた結果
ちょっと前にネットでバズった、この動画を見たことがあるっていう人も多いんじゃないかと思う。
アース・ウインド&ファイアーの名曲「セプテンバー」に乗って、キレッキレのダンスを見せてくれるオウムたちだ。
とっても楽しい動画なのだが、素朴な疑問もわいて来る。なぜオウムたちは音楽に合わせて踊るのか?
そんなエンターテイナーなオウムたちのダンスを、オーストラリアのチャールズ・スタート大学の研究チームが学術的に分析したレポートが発表された。
研究チームはまず、YouTubeやacebook、TikTok、Instagramの各SNSに投稿された、オウムのダンス動画を精査。
最終的に5種類45個体のオウムの動画を収集し、1個体につき1本の動画について詳細に分析した。
対象となったオウムは、タイハクオウムやオオバタン、キバタン、シロビタイムジオウム、アカビタイムジオウムの5種類である。
結果として合計で30種類に渡るダンスの動作を定義することに成功。そのうちの17種類は、科学的には初めて記載されたものだという。
動作の種類について、多かった順にトップ10を紹介しよう。
1.ダウンワード(50 %)
頭や体を下げ、重心を落とすような、お辞儀に似た動き。50 %の個体が披露し、最多となった
2.サイドステップ(43.5 %)
横にステップを踏む移動。軽快な雰囲気を感じさせる動きで43.5 %の個体に見られ、2番目に多かった
3.フラッフ(32.6%)
羽を膨らませる動作。自分を大きく見せる、誇張された表現
4.フットリフト(30.3%)
片足を上げるポーズ。リズムを取るような動きがつくことも
5.サイド・トゥー・サイド(29%)
身体を左右に振る動き。人間でいうとスイングに近い
6.ダウンワード/ヘッド-フット・シンクロ(21.7%)
頭を下げる動作と足の動きをシンクロさせた複合ムーブ
7.ヘッドバング(19.6%)
頭を激しく振る、いわゆる「ヘドバン」
7.セミ・サークル・ハイ(19.6%)
頭や体を高い位置で半円形に動かす動作。Headbangと同率だった
9.ターン(12.6%)
身体をひねって回転する動作
10.サイドステップ・ウィズ・サイド・トゥー・サイド
横へのステップと左右のスイングを組み合わせた動き
その他、頭を360度回す「ヘッドサークル」や、頭で「8の字」を描く「ヘッドフィギュア8」、頭を左右に振る「ヘッドターン」や身体をくねらせる「ボディロール」といった動作も記録されたという。
「音楽の有無」で差は出ず
次に研究チームは、オーストラリアのニューサウスウェールズ州にあるワガワガ動物園で、音楽の有無がダンスに及ぼす影響について実験をした。
キバタン、クルマサカオウム、モモイロインコの各ペア計6個体を用い、音楽を流した場合、会話のみの場合、無音という3種類の条件下でのダンスを観察。
その結果、全個体がすべての条件下でダンスを披露。統計的には「音楽の有無」がダンスに影響するという優位の結果は出なかったそうだ。
ただし、個体ごとに特異な動きはあるらしく、例えばある個体はヘドバンを繰り返し、ある個体はサイドステップが多かった。
さらに、1羽が使う動きはだいたい4~10種類で、いくつかの動きを組み合わせて「自分流のダンス」をアレンジしていたという。
チャールズ・スタート大学のナターシャ・ルブケ博士は、今回の実験結果について、次ののように解説する。
45本の動画に映ったオウムのダンス行動と、ワガワガ動物園および飼育舎のオウムを分析した結果、オウムにおけるダンス行動はこれまで考えられていた以上に一般的であり、21種のうち10種で見られたことがわかりました。
私の分析では、ダンスが以前考えられていたよりもはるかに複雑かつ多様であることも示しました。
複数の鳥で見られた30種類の動きに加え、1羽だけで観察されたさらに17種類の動きも記録されたのです
なぜオウムは踊るのか?
動画の中で見られる多くの動作は、野生下でのオスたちが求愛の際に行う行動に似ている点は否定できない。
だが実際には、潜在的な配偶相手がいない状況や、人間すらいない環境でも披露されており、さらにメスの個体によっても行われていた。
したがって、単なる繁殖行動以上の意味が備わっている可能性は明らかである。実際、ある動画では熱心に踊りすぎて、逆に求愛の成功を妨げている個体もいたほどだ。
人間なら、聞こえてきた音楽に合わせて、なんとなくリズムを取ったり身体を揺らしたりすることがあると思う。
身体の動きを音楽に合わせてることを可能にする前脳の同じ部分が、発声の学習も制御していることから、両者に関連があるのではないかとの推測もある。
しかし発声の模倣は多くの鳥類や哺乳類見られる一方で、「外部の音に合わせて自発的に身体を動かす」、いわゆる「エントレインメント」と呼ばれる行動は、人間とオウムの仲間だけに観察されているのだそうだ。
オウムたちのダンスは繰り返し自発的に行われており、その様子を見ていると、ポジティブな情動と結びつく行動だと思いたくなる。
ただし今回の再生実験では、音楽の有無による差が統計的には出ていないため、「音楽を流せば踊りたがる」「オウムは音楽が好き」とは断定できないのだ。
ルブケ博士はこう続ける。
この研究は、鳥類にポジティブな感情が存在することを裏付けるとともに、ダンス行動をオウムの感情を研究する優れたモデルとして提示しました。
音楽を聴かせることが、飼育下のオウムの生活を豊かにし、彼らの福祉に良い効果をもたらす可能性を示唆しています
さらに、同大学のラファエル・フレイレは次のように述べている。
人間のダンスとの類似点を考えると、オウムに高度な認知的・情動的プロセスが備わっていることを否定するのは難しいでしょう。音楽を聴かせることは、オウムの福祉の向上に寄与する可能性があるのです
今後は音楽が飼育下の鳥ダンスを誘発し、環境エンリッチメントの一形態として機能しうるのかを確かめる、さらなる研究が望まれます
オウムが音楽に合わせて楽し気に身体を揺らしている様子を見ると、絶対にコイツ音楽を楽しんでるよなって思いがちだったが、音楽がなくても踊りまくるというのはちょっと意外だったかも。
鳥たちと一緒に音楽を楽しめてると考えた方がハッピーになれそうだけど、結論を出すにはもう少し研究が必要みたいだ。
References: Cockatoos Love To Dance, Showing Off 30 Different Moves That Some Combine In Unique Ways[https://www.iflscience.com/cockatoos-love-to-dance-showing-off-30-different-moves-that-some-combine-in-unique-ways-80308] / Dance behaviour in cockatoos: Implications for cognitive processes and welfare[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0328487&utm_source=pr&utm_medium=email&utm_campaign=plos006]
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