
キノコやプランクトンなど、自然界には自ら光を放つ生き物が存在する。そのシピ的な輝きが、いまや観葉植物の世界にも広がろうとしている。
中国の研究チームは、観葉植物として人気のある多肉植物を使い、太陽光や室内のLEDライトで光を蓄え、暗闇で数時間輝く植物を生み出した。
方法は意外なほどシンプルで、葉に合成発光粒子を注入するだけだという。輝きは小型のナイトライトに匹敵し、低コストで作製できることから、未来の持続可能な照明としての可能性が注目されている。
この研究は『Matter[https://www.cell.com/matter/fulltext/S2590-2385(25)00413-8]』誌(2025年8月27日付)に掲載された。
光る植物のアイデアを現実に
中国・華南農業大学の劉淑婷(Shuting Liu)氏は、自然界の発光生物から着想を得て、暗闇で光る多肉植物を作り出した。。
劉氏は「映画『アバター』の世界のように、植物が自ら光を放って街や森を照らす未来を想像してほしい」と語る。
これまでにも遺伝子工学を使った光る植物の研究は行われてきたが、光は弱く色も緑に限られていたうえ、方法は複雑で高額だった。
調整したリン光粒子を注入するだけ
今回の方法が注目されるのは、その単純さにある。
必要なのは「リン光粒子(リン光体)」と呼ばれる合成発光微粒子を葉に注入するだけだ。
リン光粒子は光を吸収して蓄え、時間をかけて少しずつ放出する性質を持つ。暗闇で光る腕時計や子ども用のおもちゃに使われる蓄光材と同じ仕組みだ。
研究チームが使用したのは、その中でも代表的な「アルミン酸ストロンチウム(Strontium Aluminate)」をベースにした粒子だ。
この物質は日本の企業が1990年代に改良し、従来より10倍明るく、10倍長持ちする蓄光材として実用化された。
今回の実験では、このアルミン酸ストロンチウム粒子を赤血球ほどの大きさである約7マイクロメートルに調整して使った。
小さすぎると光は弱く、大きすぎると葉の内部を通れないため、最適なサイズを見つけることが成功の鍵となった。
多肉植物が強く光る理由
研究チームはこの粒子を多肉植物だけでなく、ポトスやチンゲン菜などの植物でも試みたが、強い発光を示したのは多肉植物だけだったという。
その理由は葉の構造にある。多肉植物の葉は狭く均一な通路が規則的に並び、粒子が効率よく拡散するのに適していたのだ。
数分間、太陽光やLEDに当てるだけで、多肉植物は最大2時間光り続けた。
「予想外の結果でした」と劉氏は振り返る。当初は葉に空隙が多い植物の方が粒子を広げやすいと考えられていたが、実際には多肉植物の方がはるかに効率的だったのだ。
太陽光やLEDライトで充電可能
光は時間とともに弱まるが、再び太陽光や室内のLEDライトに当てれば何度でも充電できる点が画期的だ。
数分の光照射で最大2時間の発光が得られるため、日常の光環境を利用して繰り返し使うことができる。
研究チームは異なる種類のリン光体を使い、緑や赤、青などさまざまな色で光る植物を生み出した。
56株の多肉植物を並べて「光る植物の壁」も作り出し、周囲を照らし文字が読めるほどの明るさを実現した。
準備にかかる時間は1株わずか10分、材料費もおよそ10元(約210円)と安価だ。
ただし、長期的に植物の健康や環境にどのような影響が出るかはまだ研究段階だが、現時点で枯れるといった不具合は確認されていない。
劉氏は「人工的に作られた微小な粒子が、植物の自然な構造と違和感なく一体化することに驚きました」と語る。
もし街灯や室内照明に光る植物が利用されるようになれば、夜の風景は大きく変わるだろう。
References: CELL[https://www.cell.com/matter/fulltext/S2590-2385(25)00413-8] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1095392]
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