モロッコでアンキロサウルス類の一風変わった新種が発見された。首から背中、尻尾に至るまで巨大なトゲで覆われておりまさにパンクロックだ。
「スピコメルス・アフェル(Spicomellus afer)」と名付けられたこの恐竜は、約1億6500万年前のジュラ紀に生きていたとされ、これまでに確認された中で最古のアンキロサウルス類(鎧竜類)である。
アンキロサウルス類といえば、四足歩行で短い脚を持ち、全身を甲羅のような装甲で覆い、尾の先にあるこん棒状の構造を振り回して身を守っていた草食恐竜として知られているが、スピコメルスは、従来のイメージを大きく覆した。
草食恐竜ならぬ装飾恐竜である。
今回の研究成果は、学術誌『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09453-6]』(2025年8月27日付)に掲載された。
極めて特殊な姿をしたアンキロサウルス類の新種
スピコメルス・アフェル(Spicomellus afer)は2021年、モロッコで発見された1本の肋骨から新種として記載された。しかしその姿は長らく不明のままだった。
2023年、洪水から救い出された複数の骨が地元の農家によって報告され、研究チームが現地調査を行ったことで、その全容に迫る発見がもたらされた。
2025年に公表された新たな研究によって、この恐竜が極めて特殊な姿をしていたことが初めて明らかになった。
アンキロサウルス類(鎧竜類)は白亜紀に多くの化石が見つかっている一方で、ジュラ紀の祖先的な化石は非常に少ない。
スピコメルスの存在は、その進化の過程を理解するうえで欠かせない手がかりとなった。
巨大なトゲに覆われていた
スピコメルスの最大の特徴は、首と腰を飾る異様なトゲである。
ロンドン自然史博物館のスザンナ・メイドメント博士によると、そのトゲは形も大きさも多様で、複数のトゲが結合したもの、肋骨から直接突き出したもの、涙滴型の板まで存在した。
さらに首を取り囲む襟状の骨からは、最大87cmに達するトゲが突き出しており、生前はさらに長かった可能性があるという。
「これほど奇妙な恐竜は他にいませんでした」とメイドメント博士は語る。
発掘現場での驚き
中部アトラス山脈での発掘を振り返り、バーミンガム大学のリチャード・バトラー博士は「初めて化石を見たとき、背筋が震えるほど奇妙でした」と述べている。掘り進めるほどに姿を現したのは、これまで知られていなかったトゲの群れだった。
調査の結果、発見された肋骨には3~4本の大きなトゲが突き出しており、この特徴は生き物の中で他に類例がない。
骨盤を覆う装甲からもトゲが伸び、首の襟にはゴルフクラブほどの長さの棘が並んでいた。その姿にはまさにパンクであり、ロックだ。
防御ではなく誇示のための装甲
アンキロサウルス類の装甲は一般に防御のためとされてきたが、スピコメルスの装甲は実用的な防御には不向きであるように見える。
メイドメント博士は「首に1メートルものトゲを抱えて生きるのは不便すぎます。これは求愛や闘争のために使われたと考えるのが自然でしょう」と説明する。
現代でもシカの角やクジャクの尾のように、直接的な機能を持たない構造が誇示に利用される例は多い。
草食恐竜であるスピコメルスも異性やライバルに対して自らの力を示すために、この装甲を用いたと考えられる。
進化の過程を示す重要な存在
初期の段階でこれほど派手な特徴を備えるのは極めて珍しい。
ジュラ紀から白亜紀にかけて環境が変化する中、ティラノサウルス・レックスのような強大な捕食者が出現した結果、より実用的な装甲を持つ仲間が生き残った可能性がある。
一方で、まだ発見されていないトゲだらけの恐竜が他にも存在し、進化の空白を埋めるかもしれない。
現在、スピコメルスの化石の一部はヨーロッパで販売されているとされ、研究チームは密売を防ぐため発掘地点の詳細を公表していない。
今後はさらなる発掘を進め、頭骨など新しい化石の発見を目指している。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-025-09453-6] / Nhm.ac.uk[https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2025/august/bizarre-armoured-dinosaur-spicomellus-afer-rewrites-ankylosaur-evolution.html]
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。











