ダークマターが惑星に蓄積し、ブラックホールを形成する可能性を科学者が示唆
Image credit:NASA/JPL-Caltech

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宇宙にひそむ見えざる存在、ダークマター(暗黒物質)が、惑星の内部でブラックホールを生み出すかもしれない。そんな驚きの仮説が、アメリカの研究者たちによって提唱された。

 彼らの理論によれば、惑星に取り込まれたダークマターが高密度に達すると、自らの重力で崩壊し、内部にブラックホールが形成される可能性があるというのだ。

 だが、安心してほしい。今のところ影響を受けるのは、銀河中心付近にある巨大ガス惑星に限られ、太陽系にある地球のような岩石惑星が飲み込まれるような心配はないという。

 とはいえ、宇宙には私たちの想像を超える現象が、まだ数多く存在しているのかもしれない。

 この研究は『Physical Review D[https://doi.org/10.1103/qkwt-kd9q].』(2025年8月20日付)に掲載された。

ダークマターとは何か?宇宙に潜む“見えない物質”

 ダークマター(暗黒物質)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%97%E9%BB%92%E7%89%A9%E8%B3%AA]は、私たちが直接見ることはできないが、その存在は銀河の回転速度や重力レンズ効果など、数々の天文現象によって間接的に示されている。

 銀河はこのダークマターでできた「ハロー」と呼ばれる球状の構造に包まれており、その密度は銀河の中心に近いほど高い。つまり、銀河の中心部に位置する惑星ほど、ダークマターの影響を強く受ける可能性がある。

 一部の物理学モデルでは、ダークマターの正体は「ウィンプ(WIMP)」と呼ばれる粒子であるとされている。

 ウィンプは通常の物質とは非常に弱くしか相互作用しないが、まれに惑星内部の分子と弾性的に衝突する可能性がある。その際、エネルギーを失ったダークマター粒子が惑星の重力にとらえられ、内部に留まることになる。

 ここで注意しておきたいのは、「ダークマター」とよく似た言葉に「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」があることだ。どちらも宇宙に存在する正体不明の成分だが、役割はまったく異なる。

 ダークマターは、銀河や銀河団を重力でまとめる見えない物質であり、重さがあるが光らないし電磁波にも反応しない。

 一方で、ダークエネルギーは、宇宙全体の空間を引き伸ばすように膨張させている見えない力で、物質ではなくエネルギーそのものだと考えられている。

 現在の観測によると、宇宙の構成のうち約27%がダークマター、約69%がダークエネルギー、そして私たちが普段目にする星や惑星などの「通常の物質」は、わずか5%程度に過ぎないという。

 なお、ダークマターもダークエネルギーも、現時点ではいずれも仮説上の存在であり、その正体ははっきりとはわかっていない。

 観測される現象を説明するために導入された理論上の概念であり、将来的にその性質や存在自体が見直される可能性もある。

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惑星内部でダークマターがブラックホールを形成する可能性

 この仮説を提唱したのは、カリフォルニア大学リバーサイド校の博士課程学生メフルダッド・フォルータン・メフル氏と、研究者のタラ・フェザーロルフ氏だ。

 彼らは、ダークマターが惑星内部に蓄積し、その密度が限界に達すると重力崩壊を起こし、ブラックホールが誕生する可能性を計算によって示した。

 条件が整えば、この過程はわずか10か月ほどで起こることもあるという。

 ただし、この現象が起こるにはいくつかの条件がある。

ブラックホール化するのは銀河中心部の太陽系外ガス惑星

 まず、惑星の質量が非常に大きいことが前提となる。研究では特に、木星のような巨大ガス惑星が対象とされている。

 さらに、銀河中心に近い場所に存在していることも重要な条件だ。というのも、銀河の外縁部に比べて中心部はダークマターの密度が高く、惑星がより多くの粒子を取り込める環境にあるからである。

 そのため、今のところ地球のような岩石惑星や、太陽系にある他の惑星がこの条件を満たす可能性は非常に低いと考えられている。

 そのため、今のところ地球のような岩石惑星や、太陽系にある他の惑星がこの条件を満たす可能性は非常に低いと考えられている。

 つまり、ブラックホールが内部に誕生する可能性があるのは、銀河の中心部に位置する太陽系外の巨大ガス惑星に限られるということになる。

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惑星内部に発生したブラックホールはどうなる?

 注目すべきは、惑星内部で誕生したブラックホールが必ずしも惑星全体を飲み込むとは限らない点だ。

 ここで関係してくるのが「ホーキング放射」と呼ばれる現象である。

 これは、イギリスの理論物理学者スティーブン・ホーキング博士が提唱した理論で、ブラックホールはわずかに熱を放射し、エネルギーを失っていくとされている。

 特に小さなブラックホールほどこの効果が強く、十分に成長する前に蒸発してしまうことがある。

 逆に、形成されたブラックホールの質量が大きければ、成長し続けて惑星を内側から破壊する可能性もある。

 また、成長と蒸発のバランスが取れた場合、ブラックホールが惑星内部に長期間安定して存在し続けるというシナリオも考えられている。

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ブラックホールを抱えた惑星は観測できるのか?

 もしブラックホールが惑星内部に存在すれば、その放射によって惑星が通常よりも高温になる可能性がある。

 この温度異常が観測できれば、ブラックホールの存在を間接的に推測できるかもしれない。

 実際、2011年にはフェルミ国立加速器研究所のダン・フーパー博士とジェイソン・ステフェン氏が、ダークマターが惑星内部に蓄積し、そのエネルギーによって惑星を温める可能性を提唱していた。

 居住可能領域の外にある惑星でも、液体の水が存在できるほどの熱が保たれる場合があるという。

 現在、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などによって遠方の惑星の熱放射を観測する試みが行われているが、もし予想を上回る高温が確認された場合、その原因のひとつとしてダークマターの存在が考慮される可能性はある。

 とはいえ、惑星が高温である理由は他にも多く、ブラックホールやダークマターに起因すると断定することはできない。

 だが、通常の物理法則では説明のつかない熱異常が観測されたとき、この仮説が新たな手がかりとなるかもしれない。

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想像を超える宇宙の姿

 ダークマターはまだその正体が明らかになっていない仮説上の物質だが、もしそれが惑星の内部で蓄積され、ブラックホールを生み出すのだとしたら、私たちの宇宙に対する理解は根底から覆されるかもしれない。

 銀河の中心付近には、見た目は何の変哲もないように見えて、内部でブラックホールと共存している惑星が数多く存在している可能性がある。

 そしてそれは、これまで想像もしなかった形で、生命の存在や惑星の進化に影響を与えているのかもしれない。

References: Journals.aps.org[https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/qkwt-kd9q] / Dark Matter Could Turn Some Planets Into Tiny Black Holes[https://www.sciencealert.com/dark-matter-could-turn-some-planets-into-tiny-black-holes] / Using exoplanets to study dark matter[https://news.ucr.edu/articles/2025/08/21/using-exoplanets-study-dark-matter]

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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