
世界には炭鉱の閉鎖や産業の衰退、戦争や災害によって放棄された「ゴーストタウン(廃墟都市)」が数多く存在する。
だが、正式な首都でありながら人が住めなくなったゴーストタウンとなった「ゴースト首都」は、カリブ海に浮かぶイギリス領モントセラト島のプリマスだけだ。
かつて行政と経済の中心地として栄えたが、1997年のスフリエール・ヒルズ火山の大噴火で壊滅的な被害を受け、住民は避難を余儀なくされた。
以来、プリマスは火山灰に埋もれたまま立ち入り制限区域に指定されているが、現在も公式には首都とされている。
「首都」がゴーストタウンとなった島
カリブ海・小アンティル諸島のプエルトリコ南東に、イギリス領の小さな島、モントセラトがある。
現在、イギリスの海外領土は大きく分けて4つの統治形態があり、モントセラトでは「総督」が象徴的な役割しか持たず、民選議会が選んだ党首が行政トップとなって実際の国の運営を行うという、かなり自治の度合いが高い場所である。
そんなモントセラトに現在「首都」が存在しないと聞いたら、なぜ?と興味も沸くのではないだろうか。正確には「存在しない」というのはちょっと違う。
モントセラトの首都「プリマス」は、島の南東に位置しており、1997年までは普通に首都として機能していた。当時の人口は4,000人を超えていたとされている。
多くの人々でにぎわっていたこの街だが、スフリエール・ヒルズ火山の大噴火が起きたことにより、街全体が火山灰に埋もれてしまった。
以来現在に至るまで、プリマスは公式には首都であり続けてはいる。だが、住む人も訪れる人もいない、世界で唯一のゴーストタウンならぬ「ゴースト首都」となってしまったのだ。
自然災害に悩まされてきた島
プリマスは17世紀に、スフリエール・ヒルズ火山の近く、古代の溶岩堆積物の上に築かれた街だった。
長い間、島で唯一の港として機能し、モントセラトの経済と行政の中心地として、首都の役割を担い続けてきたのだ。
だがその一方で、プリマスは地震やハリケーンなど、自然災害による壊滅的な被害に苦しめられ続けてきた街でもある。
1989年9月17日にはハリケーン・ヒューゴが島を襲い、強風によって港にあった長さ55mの石造りの桟橋が完全に破壊されるという被害を受けている。
このハリケーンにより、街の学校や保健センター、さらには島で唯一の病院も壊滅したそうだ。
トリニダード・トバゴの技術者が行った調査の結果、病院を将来訪れるであろうさらなる嵐に耐えられるよう、緊急に構造の再設計をすべきだと結論づけられた。
しかし、病院の再建が実行に移される前に、さらに大きな災厄がプリマスを襲うことになる。
未曽有の火山噴火が首都を襲う
1995年7月18日、休眠状態にあったスフリエール・ヒルズ火山が、約300年の沈黙を破り、突然活動を再開した。
連続する大規模噴火がプリマスとモントセラト南部に灰を降らせ、8月21日には住民が初めて避難する事態となった。
翌1996年1月には一部の住民が戻ることができたが、平穏は長く続かなかった。
同年3月27日、火山はさらに激しい活動期に入り、火砕流が街を直接脅かすように。4月3日、プリマス市民は3度目にして最後の避難命令を受けた。
そして1997年6月25日、壊滅的な大噴火が発生。この噴火による火砕流で、プリマスでは19人が犠牲となった。
この火砕流は、当時稼働中だったプリマスの空港付近にまで達したという。だが、最悪なのはまだこれからだった。
8月4日から8日にかけての連続噴火により、プリマスは約1.4メートルもの灰と火山岩に覆われ、埋没してしまっただ。
こちらは「在りし日」のプリマスの街並みだ。右にスワイプすると、何気ない日常を切り取った写真がさらに見られるのでぜひ見てほしい。
上の写真にあった時計塔も、この噴火ですっかり火山灰に埋まってしまっている。下は噴火前と噴火後の時計塔周辺の様子。
火山灰に埋まった街は「現代のポンペイ」
降り積もった堆積物はコンクリート並みに硬く硬化し、街は永遠に住めない場所となった。撤去には爆薬や重機が必要だったが、経済的に不可能だったのだ。
当局は島を危険度別のゾーンに分け、プリマスへの立ち入りは厳しく制限。立ち入りは昼間のみ、かつ迅速に退避できる場合に限られた。
一般住民が合法的に立ち入れた最後の日は1997年6月16日で、それ以降は必要不可欠な業務を除き立ち入り禁止となったそうだ。
下は2016年に撮影された、プリマスのドローン映像である。「現代のポンペイ」と呼ばれる理由がよくわかると思う。
政府は王立海軍の支援を受け、プリマスとモントセラト島南部の住人に対し、最終的な避難を命令。
以来島の南半分は立入制限区域に指定され、首都機能は暫定的に北部のブレーズに移された。
そして現在、北西部のリトルベイに、新しい行政拠点が建設中である。とはいえ、法的には今もプリマスが首都のままなのだそうだ。
プリマスは首都というだけではなく、約4,000人の住人がが暮らし、島の大半の商業・行政施設を抱えていた経済・社会の中心だった。
その壊滅は、モントセラト島全体に深刻な経済危機と大量の人口流出を引き起こした。
1995年から2000年の間に、プリマスの元住民の3分の2が島を離れ、その多くがイギリスへと移住したという。
1997年には残された元住民はわずか1,200人にまで減少したが、近年は再び増加傾向にあり、現在では約5,000人が暮らしているそうだ。
現在モントセラトを訪れることはできるものの…
プリマスは今も、「時間が止まった街」としてそこに存在している。厚い灰で覆われて街ごと保存されている様子は、まさにポンペイのようである。
2015年以降は、日中に限って砂利採取などの活動が許可されているというが、依然として危険地帯に変わりはない。
火山の影響がほとんどない北部では、経済活動も活発に行われており、日本から訪れることも可能である。観光局のHPはこちら[https://www.visitmontserrat.com/]。
スフリエール・ヒルズ火山の北側の、立ち入り制限区域の手前にある廃墟までは、観光で訪れることもできるようだ(状況が変わる可能性があるので要確認)。
ただし、日本から行こうとすると、飛行機を何度も乗り継がないと辿り着かない遠い島なので、行ってみたいと思う人はかなり気合が必要かもしれない。
下の動画は、ゴーストタウンとなったプリマスを探検する様子が写されている。ちょっと長いが廃墟好きにはたまらない感じなので、良かったら字幕の翻訳機能をONにしてみて見てほしい。
References: Plymouth, the World’s Only Ghost Capital[https://www.labrujulaverde.com/en/2025/08/plymouth-the-worlds-only-ghost-capital/]
本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。