
太陽系の小惑星帯に浮かぶ準惑星ケレスの内部に、かつて放射性熱エネルギーが存在し、地下に隠された海を温めていた可能性があることがNASAの新たな研究で明らかになった。
過去の探査データをもとにした最新のコンピュータモデルでは、内部の熱が数億年にわたり維持されていたことが示唆されており、地下海には生命を支える環境が一時的に整っていたかもしれないという。
現在その熱は失われているが、この研究によって、土星の衛星エンケラドスやタイタン、木星のエウロパなど、地下に海を持つ天体にも生命が存在していた可能性があらためて注目されている。
この研究成果は、学術誌『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt3283]』(2025年8月20日付)に掲載された。
太陽系の小惑星帯に位置する準惑星「ケレス」
ケレスは、火星と木星の間に広がる小惑星帯(メインベルト)に位置する天体で、直径は約945 kmと、この領域に存在する天体の中では最大である。
月の約4分の1の大きさしかないが、2006年に国際天文学連合によって準惑星として正式に分類された。
現在、準惑星として認定されている天体は5つ存在するが、その多くは海王星の外側に広がる領域にあり、ケレスは唯一、小惑星帯に存在する準惑星である。
また、太陽からの平均距離である軌道長半径が約2.77 auと、海王星の軌道(約30.07 au)よりもはるかに内側にあるため、海王星軌道の内側にある唯一の準惑星でもある。
ケレスの研究が大きく進んだのは、NASAの探査機ドーンによる観測によるものである。
ドーンは2014年から2018年にかけてケレスを訪れ、その表面や重力、化学組成に関する詳細なデータを収集した。
観測の結果、ケレスの表面には水や塩分を含む鉱物が存在し、地下には塩水の海が隠されている可能性が高いことがわかった。
また、有機炭素も確認されており、これは地球上のすべての生命に必要な要素である。
ケレス内部にエネルギー熱源が存在していた
これまでケレスには生命が存在するには不十分だとされていた理由のひとつが、エネルギー源の不在である。
水と有機物があっても、それらに化学反応を引き起こすためのエネルギーがなければ、生命が誕生することは難しいと考えられていた。
だが、NASAの研究チームによれば、ケレスの内部にはかつて放射性同位体の崩壊によって発生する熱が存在していたという。
研究者たちは、ドーン探査機から得られたデータをもとにコンピュータシミュレーションを行い、ケレスの核が時間とともにどのように変化してきたかを解析した。
その結果、ケレスの核は形成直後から数億年にわたり、摂氏280度近い高温を保っていたと推定された。
この熱によって、地下の塩水海は凍結を免れ、液体のままで存在していた可能性が高い。
さらに、熱の供給によって、地球で見られる熱水噴出孔のような環境がケレスにも存在していた可能性があるという。
地球外生命の可能性を示す新たな手がかり
地球では、深海の熱水噴出孔の周辺に多くの微生物が生息している。これらの生物は太陽の光を必要とせず、海底から噴き出す高温の鉱物質に富んだ水をエネルギー源として生命活動を営んでいる。
研究チームの筆頭著者であるアリゾナ州立大学のサミュエル・クールビル氏は、このような化学的エネルギーがケレスの地下海にも存在していた可能性に注目している。
ケレスがかつて持っていた熱と水、有機物という条件は、生命誕生に必要とされる三要素をすべて満たしていた。
地球と似た条件が、太陽系のごく近くにある小さな天体に存在していたという事実は、宇宙における生命の可能性を考えるうえで非常に重要な示唆を与える。
すでに失われたエネルギーと生命絶滅の可能性
研究者たちは、ケレスの放射性熱源はすでに活動を停止していると見ている。加熱期間は長くても20億年程度であり、今から約25億年前には完全に冷え切ってしまったと考えられている。
つまり、現在のケレスは極寒の天体であり、仮にかつて生命が存在していたとしても、現在はすでに絶滅している可能性が高い。
他の太陽系内天体にも広がる生命の可能性
それでも、この発見は太陽系内の他の天体に対する見方を大きく変えるものである。
今回の研究をきっかけに、土星のエンケラドスやタイタン、木星のエウロパなど、地下に海を持つとされる他の天体にもエネルギー源があり、生命が存在していた可能性があらためて注目されている。
準惑星ケレスのような小さな世界が、かつて生命を育む環境を持っていたかもしれないという事実は、宇宙における生命の存在が決して特別なものではない可能性を示唆している。
References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt3283] / NASA[https://www.nasa.gov/missions/dawn/nasa-ceres-may-have-had-long-standing-energy-to-fuel-habitability/]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。