バイキングは本当に無骨だったのか?髪型を整え、身だしなみに気を配っていた可能性
博物館で再発見されたバイキングの小像 / Image credit:Roberto Fortuna, the <a href="https://via.ritzau.dk/pressemeddelelse/14540693/the-national-museum-discovers-new-details-regarding-viking-hairstyles?publisherId=13560791&amp;lang=en" target="_blank" rel="noreferrer noopener">National Museum of Denmark</a>

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 「無骨な戦士」という印象がつきまとう北欧のバイキングだが、そのイメージを覆す発見がデンマーク国立博物館から発表された。

 1797年に発掘されたあと、長らく忘れられていた10世紀の小さな彫像が、最近になって同館の収蔵庫で再発見され、改めて調査が行われた。

 セイウチの牙で作られたバイキング(ヴァイキング)の小像には、精緻な髪型と編み込まれたあごひげ、そしてどこか含みのある表情が刻まれていた。

 身だしなみに強いこだわりを見せるこの人物像は、バイキング社会が想像以上に洗練された文化を持ち、美意識が高かったことを物語っている。

 この研究成果は学術誌『Medieval Archaeology[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00766097.2025.2518811]』(2025年8月11日)に掲載された。

200年以上忘れ去られていたバイキングの小像

 この像が再注目されたのは数年前、デンマーク国立博物館でバイキング(ヴァイキング)時代の女性シャーマンに関する展示準備が進められていた時のことだった。

 同博物館の学芸員のピーター・ペンツ氏が収蔵庫を整理していた際、棚の奥にある、高さ3cmほどの小さな男性像と目が合ったという。

 「こちらをじっと見返しているかのようでした。これまで見てきたどのバイキング像とも違っていました」と、ペンツ氏は語っている。

 この像は1797年、現在のノルウェー南東部・オスロフィヨルド沿岸のフログスタッドにある墓から出土したもので、馬とともに埋葬されていた人物の副葬品だった。

 制作年代は10世紀後半、デンマーク王ハーラル・ブルートゥースの治世(西暦958~986年)にあたる。

 素材には当時貴重だったセイウチの牙が使われており、価値ある品であったにもかかわらず、200年以上、収蔵庫の奥で忘れ去られていたのだ。

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髪型とひげが語る階級と美意識

 この像の最も印象的な特徴は、細部まで整えられた髪型とひげにある。

 髪は中央で分けられ、後頭部までなめらかに流れている。うなじは刈り上げられ、耳の周囲は波打つように整えられている。

 顔には大きな口ひげと、長く編まれたあごひげ、さらに整えられたもみあげが彫られている。

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 これらの特徴からは、バイキング社会において髪型やひげが単なる装飾ではなく、社会的地位や身分の象徴であったことがうかがえる。

 ペンツ氏によれば、この人物は上層階級に属していた可能性が高いという。

 実際、バイキングの遺跡からは、クシ、毛抜き、耳かき、ひげ用の小ばさみといった身だしなみ用品が多数見つかっており、彼らが見た目に強い関心を持っていたことを示している。

 無骨な戦士というよりも、洗練された価値観を持つ人々だったと考える方が、より実像に近いのかもしれない。

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表情に宿るバイキングの人間らしさ

 この像のもう一つの注目点は、表情の描写である。大きな目と深く刻まれた眉、そしてわずかに上がった口角が特徴的で、見る者によってさまざまな印象を受ける。

 ある人は「悪魔的」と表現し、またある人は「冗談を言った直後のような笑み」と感じるという。

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 ペンツ氏自身は、「彼はいたずらをして笑っているように見える」と話すが、実際には顔の一部に損傷があることもあり、表情の意図を完全に読み取ることは難しい。それでも、この像には当時の彫刻には珍しい“人間らしさ”が表れている。

 バイキング時代の美術は、動物や幾何学的な文様を中心とした抽象的な装飾が主流で、人間の顔をリアルに描いた作品は非常に少ない。そうした中で、この像のような個性を持つ人物像は異例である。

 この像が作られたのは、ハーラル・ブルートゥース王の治世と一致しており、出土した場所も当時のデンマークの支配圏内だったと考えられている。

 そのため、一部の研究者は、この像が王自身、あるいはその近しい人物を表している可能性もあると指摘している。

 ブルートゥース王は、デンマークを統一し、キリスト教を導入したことで知られている。歯が灰色だったことから「青い歯(Bluetooth)」という異名がつき、その名は現代の無線通信規格「Bluetooth」の由来にもなっている。

 高価なセイウチの牙を素材に使っていることも、この像が特別な人物を表していたことを裏付ける手がかりとされている。

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ゲームの駒か、文化の象徴か

 この像は、バイキングたちが親しんでいたボードゲーム「フネファタフル(Hnefatafl)」の駒だった可能性もある。

 このゲームは、いわゆる“バイキング・チェス”とも呼ばれ、8世紀から11世紀にかけて北欧全体で広く楽しまれていた。遠征を通じて、ヨーロッパ各地にも伝わっていたとされる。

 ゲームの中で中央に配置される“王”の駒は特別な存在であり、この像がその役割を果たしていたとすれば、単なる遊戯具を超えた象徴的な意味を持っていた可能性もある。

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 現在、この像はデンマーク国立博物館によるバイキング時代の人物描写や象徴表現に関する研究の一環として、さらに調査が進められている。

References: Via.ritzau.dk[https://via.ritzau.dk/pressemeddelelse/14540693/the-national-museum-discovers-new-details-regarding-viking-hairstyles?publisherId=13560791&lang=en] / Ancient Origins[https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/viking-figurine-portrait-0022390]

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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