2体の翼竜の幼体の化石を発見。1億5000万年前の嵐で命を落としたことが明らかに
嵐の中でもがく小さなプテロダクティルスの幼体の想像図  / Image credit:Artwork by Rudolf Hima.

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 ドイツ・バイエルン州にあるゾルンホーフェン石灰岩は、ジュラ紀後期の動植物化石が大量に発見されていることで知られている。

 ここで新たに発見された、約1億5000万年前の2体の翼竜の幼体の化石から、彼らが激しい嵐に巻き込まれて命を落としたことが化石の分析により明らかになった。

 骨の損傷の痕跡がその死因を物語っており、今回の研究は、なぜこの地層から幼体ばかりが多く化石として見つかるのかという長年の疑問にも新たな手がかりを与えている。

この研究成果は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)01037-1]』誌(2025年8月6日付け)に発表された。

新たに発見された翼竜、プテロダクティルスの幼体2体

 イギリス・レスター大学の古生物学者ラブ・スミス氏らの研究チームは、ゾルンホーフェン石灰岩[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BE%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%B3%E7%9F%B3%E7%81%B0%E5%B2%A9]の採石場で、2体の翼竜の幼体の化石を相次いで発見した。

 いずれの化石も関節が連結したままで、死んだ当時の姿に近い完全な状態で保存されていた。

 研究者たちは、この2体に「ラッキー(Lucky)」と「ラッキーII(Lucky II)」と“幸運”を意味する名前を付けた。若くして命を落としてしまったものの、化石として現生まで残されたからだ。

 この2体は、プテロダクティルス属[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%80%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%B9]に分類される翼竜の幼体で、生後数日から数週間ほどの個体とみられる。

 プテロダクティルス属は、後期ジュラ紀に生息していた翼指竜亜目の翼竜で、18世紀に世界で初めて学名が与えられた種のひとつでもある。

 翼開長は20cm以下と非常に小さく、知られている中でも最も小型の翼竜の一つだ。

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嵐による突風で翼を骨折し落下

 骨格は完全かつ関節が連結した状態で、死んだ当時からほとんど変化していないが、一点だけ異常があった。2体とも上腕骨に骨折が見られたのだ。

 ラッキーは左の翼、ラッキーIIは右の翼に斜めの骨折痕が確認された。

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 この損傷は、岩などに衝突してできたものではなく、空中で嵐による突風を受けて翼がねじられるような力がかかった結果だと考えられている。

 特にラッキーIIの化石は、UVライト(紫外線)を当てたことで、保存されていた骨格が主部と対部の両面にくっきりと浮かび上がった。

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ゾルンホーフェンで幼体の化石ばかりが発掘される理由

 ゾルンホーフェンでは、多くの翼竜の化石が発見されているが、そのほとんどは体の小さな個体、つまり幼体である。

 一方で、成体の完全な化石は非常に少なく、見つかったとしても頭骨や四肢などの断片に限られている。

 本来であれば、体が大きくて頑丈な成体の方が化石として残りやすいはずだ。

 ではなぜ、ゾルンホーフェンでは幼体ばかりが見つかるのか。この長年の疑問に対し、今回の研究は新たな答えを示している。

 研究チームによれば、嵐が襲った際、飛行能力の未熟な幼体は突風にあおられて墜落しやすく、命を落としやすかった。

 さらに、軽く小さい体はすぐに泥に沈み、保存されやすかった。

 一方、成体は嵐を飛び越える力があったうえ、死亡後も水面に浮いたまま長時間漂い、分解されてしまうため、化石として残ることは難しかったと考えられている。

 なお、「なぜ軽く小さい体が沈みやすいのか?」と疑問を持つかもしれない。

 翼竜の幼体は骨の構造がまだ未発達で、成体のような中空構造が備わっていないため、実際には体の密度が高く、浮かびにくかった可能性が高いという。

 また、体積も小さいため、腐敗ガスがたまる余地が少なく、死後すぐに沈みやすかったと考えられている。こうした特徴が、結果として化石としての保存率を高める要因になった。

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嵐が“化石になる命”を選別していた

 ゾルンホーフェンの翼竜たちは、必ずしもこのラグーンに生息していたわけではない。

多くの個体は周囲の島々で暮らしており、嵐によって空高く吹き上げられ、海上に流されて墜落したと見られている。

 研究チームのラブ・スミス氏はこう語る。

長年、ゾルンホーフェンには小型の翼竜しかいなかったと考えられてきましたが、それは保存の偏りによる見かけの事実にすぎません。

実際には、未熟な幼体が嵐で命を落とし、偶然にも化石として残ったのです

 共著者のデイヴィッド・アンウィン博士もこう語る。

最初に1体目を見つけたときは偶然かと思いましたが、2体目を発見したことで、これは繰り返された現象だと確信しました

UVライトで化石を照らしたとき、まるで岩から浮かび上がってきたかのように見え、心が震えました

追記(2025/09/08)

幼体の化石が成体よりも保存されやすい理由について、本文中に補足説明を追記しました。

References: CELL[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)01037-1] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1096908]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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