「第6の大量絶滅」は本当に始まっているのか? 研究で示された異なる視点
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 人類の活動によって、地球上の生物多様性は急速に失われ、生態系も大きく変化している。すでに数百の動植物が絶滅し、現在ではおよそ100万種が絶滅の危機にあるとされている。

 そのため、「第6の大量絶滅が始まっている」と警鐘を鳴らす研究も少なくない。

  だが今回、アメリカ、アリゾナ大学の研究者たちは、動植物の「属」に注目した大規模な分析を行い、少なくとも属という分類単位で見れば、絶滅は非常にまれであり、現時点では大量絶滅とは言えないという見解を示した。

 もちろん、研究者たちは生物多様性の危機を否定しているわけではない。むしろ今こそ人間が、緊急に対応する必要があると訴えている。

 この研究成果は『PLOS Biology[https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3003356]』誌(2025年9月4日付)に発表された。

本当に「第6の大量絶滅」は起きているのか?

 地球の生命は、これまでに5回の大量絶滅を経験してきた。これらはいずれも、短い地質学的期間に地球上のすべての種の75%以上が失われた極端な現象だ。

 代表的な5回の大量絶滅は次のとおり:

  • 約3億7500万年前(デボン紀後期):全種の75%が絶滅
  • 約4億4300万年前(オルドビス紀末):全種の86%が絶滅
  • 約2億5000万年前(ペルム紀末):全種の96%が絶滅(史上最大規模で「大絶滅」と呼ばれる)
  • 約2億年前(三畳紀末):全種の80%が絶滅
  • 約6600万年前(白亜紀末):全種の76%が絶滅。恐竜を絶滅させた小惑星の衝突が原因とされる

 近年では、「第6の大量絶滅」がすでに始まっているという見方も広まっており、実際に多くの種が消えつつあることは間違いない。

 だが、今回の研究は「属」という視点からこの問題を見直し、その深刻さを別の角度から検証している。

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「属」という分類で絶滅の度合いを分析

 アメリカ・アリゾナ大学の生態学者ジョン・ウィーンズ教授らの研究チームが着目したのは、「属(genus)」という生物分類の単位である。

 生物は、「界 → 門 → 綱 → 目 → 科 → 属 → 種」の順に分類されており、「属」は「種」の一つ上の階級にあたる。

 たとえば、イヌ属(Canis)にはオオカミ、イエイヌ、コヨーテなど複数の種が含まれる。属が絶滅するというのは、そこに属するすべての種が同時に失われることを意味し、種の絶滅よりもはるかに大きな生物多様性の損失となる。

 そこでウィーンズ氏らは、IUCN(国際自然保護連合)が評価した2万2000以上の動植物の属を対象に調査を行い、どれほどの属が絶滅しているのかを分析した。

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属の絶滅はまれで、過去100年でむしろ減速していた

 その結果、1500年以降に絶滅が確認された属は102件で、そのうち約8割(79件)は1種しか含んでいなかった属だった。

 つまり、実質的には種の絶滅に近いケースが多く、複数の種を含む属がまるごと消えた例は極めて少なかった。

 属の絶滅率を見ても、哺乳類と鳥類で2%未満、カメで約1%、その他の分類群では0.5%以下と非常に低く、現在進行中の絶滅が「属」レベルにまで及んでいるとは言えないという結果だった。 

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地球の6度目の大量絶滅はまだはじまっていない?

 一方、2023年に発表された、メキシコ国立自治大学の生態学者ヘラルド・セバージョス氏とスタンフォード大学の保全生物学者ポール・エーリック氏による研究では、1500年以降に73属の脊椎動物が絶滅したと報告され、「第6の大量絶滅がすでに進行している」と主張されていた。

この研究では、人類の活動が「生命の樹」の枝葉を切り落としていると表現されており、カラパイアでもすでに紹介済みだ。

 しかし、ウィーンズ氏らはこのような主張に対し、「脊椎動物は全生物のうちのごく一部(約2%未満)にすぎず、それだけを根拠に大量絶滅を語るのは不十分ではないか」と疑問を投げかけている。

 彼らは、より包括的に植物や無脊椎動物なども含めた属のデータを分析することで、現在の絶滅の全体像をより正確に捉えようとしたのである。

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属の絶滅は100年以上前に集中していた

 属の絶滅が起きた時期にも、はっきりとした傾向があった。ピークは1800年代後半から1900年代初頭に集中しており、絶滅した多くの属は、孤立した島にしか生息していない固有属だった。

 「それらのほとんどは島にしか見られない属であり、こうした絶滅はこの100年で急速に加速するどころか、むしろ減速していたのです」とウィーンズ教授は述べている。

 これまでに属レベルで絶滅した生き物の多くは、鳥類や哺乳類に属していた。

 だが、近年ではこうした分類群に対する保全活動が進められており、絶滅数が比較的少なくとどまっているのは、そうした取り組みの成果かもしれないと研究チームは指摘している。

 共著者であるハーバード大学(アメリカ)のクリステン・セイバン氏も、「科学への不信感が広がる今こそ、保全研究は慎重に進め、正確に発表することがこれまで以上に重要です」と述べている。

だが油断はできない。
すぐに人間が行動を起こすべき

 とはいえ、研究者たちは生物多様性の危機を軽視しているわけではない。

 むしろ、将来的には属レベルの絶滅がさらに増える可能性があると指摘する。

 たとえば、過去の属の絶滅は島で多く見られ、その原因は外来種だったが、現在では人間の関与による環境破壊や生息地の喪失が最大の脅威となっている。

 そのため、これまでに絶滅した属は島に限られていたが、今後は大陸部の属にも影響が及ぶおそれがあるという。

 気候変動は将来的に絶滅の要因の1つとなるかもしれないが、近年の絶滅や、現在IUCNにリストされている種の脅威の直接的な原因ではないという。最大の原因は、生息域の喪失にあるという。

 同じ地球の自然界に生きる命を守るという行為は、人間が負うべき責任なのだ。生物多様性の保全なくしては、地球人類の生存もなりたたなくなる。 

References: Journals.plos.org[https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3003356] / We’re not in the midst of a sixth mass extinction event, yet[https://cosmosmagazine.com/nature/animals/sixth-mass-extinction/]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

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