うれしいニュース。スマイル顔のクサウオの仲間、3種を発見!
MBARI/Youtube

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 深海は地球上でもっとも探査が遅れているカリフォルニア沖の深海で、新たに3種類のクサウオの仲間が発見された。

 いずれも2019年に採集された標本をもとにした調査で、ニューヨーク州立大学ジェネセオ校のマッケンジー・ジェリンガー博士が率いる研究チームが詳細な解析を行い、新種として報告したものである。

 そのうちの一種は、ピンク色の体に大きな目、まるで微笑んでいるような口元がなんともキュートでユーモラス。

 またしても深海のちょっぴりキモ可愛い生き物のリストに、新たな1種が加わったみたいだ。

カリフォルニア沖で新種のクサウオを相次いで発見

 2019年6月19日、カリフォルニア州にあるモントレーベイ水族館研究所(MBARI)[https://www.mbari.org/]の探査艇「Doc Ricketts」が行った調査で、ユーモラスな魚が見つかった。

 ピンク色のゴツゴツした質感と、丸い目、微笑んでいるような口元が何とも愛らしいビジュアルで、ジェリンガー博士をして「可愛い」と言わせた外見である。

 この魚が見つかったのは、モントレー湾の水深3,268mの深海である。魚はクサウオの一種で、体長は約9.2cm。

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 実はこの発見の1か月半前の2019年5月3日、カリフォルニア沖約290kmにある「Station M」という海域でも、2種の新種のクサウオが見つかっていた。

 こちらはハワイ大学マノア校のジェフリー・ドラゼン博士らを中心とする研究者が参加した調査で、探査艇「Alvin」によって行われたもの。

 Station Mはモントレー湾にも近く、MBARIが30年にわたって調査を続けている海域でもある。

 ジェリンガー博士は、このStation Mで発見された2種のクサウオについて、次のように語っている。

この2匹は、潜水艇 Alvin による同じ潜航で採集された黒いクサウオでした。標本を詳しく見てみると、2個体が驚くほど異なることに気づいたのです。

これは同じ種の成魚と幼魚ではありません。

形態的にも遺伝的にもまったく異なっています。これら2種はStation Mという、数十年にわたり探査と時系列データ収集が行われてきた非常に貴重な研究拠点で発見されました。

世界で最も深海の研究が進んでいる場所で、しかも同じ潜航で未記載のクサウオが2種も採集されたことは、私たちがまだ地球について学ばなければならないことがいかに多いかを示しています

 これらの調査で採取された標本から、新たに3種のクサウオが図鑑に名を連ねることとなった。

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ピンクが1種と黒が2種。個性的なクサウオたち

 この研究は2025年8月27日付の学術誌「Ichthyology & Herpetology[https://asih.kglmeridian.com/view/journals/cope/113/3/article-p487.xml]」に掲載されている。研究によると、新種の特徴はそれぞれ以下の通りである。

Careproctus colliculi(bumpy snailfish)

モントレー海峡の水深3,268mで、MBARIの探査艇「Doc Ricketts」により発見。体は淡いピンク色をしており、丸い頭に大きな目、特徴的な胸鰭を持つ。

皮膚には小さな隆起が散在しており、この特徴が種名「colliculi(小さな丘の意)」という学名の由来となった。

採集された標本は体長9.2cmの雌で、腹部には吸盤も備えていた。分布範囲など、詳細については不明である

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Careproctus yanceyi(dark snailfish)

Station Mの水深約4,100mから採集された。全身が黒色で、丸い頭と水平に広がる口を持つ。

胸鰭は22本あり、腹部には小型の吸盤を備えており、暗黒の深海に完全に溶け込むような姿をしている

Paraliparis em(sleek snailfish)

同じくStation Mから採集された個体。体は黒くて細長く、横に平べったい姿で、全体的に流線型のシルエットをしている。

下顎は鋭角的に前に突き出し、腹部には吸盤を持たないという点が他の2種との大きな違いである。種名の「em」はStation Mに由来しており、30年以上続けられてきたMBARIの深海研究への敬意を込めて命名された

 研究チームは形態測定に加えて、CTスキャンによる骨格の解析やDNA配列(COI遺伝子)の比較を行った。

 その結果、既知のクサウオ類とは異なる特徴を示すことが明らかとなり、新種としての記載が確定したという。

 クサウオ科の仲間はゼラチン質の体を持つのが特徴で、鱗はなく、腹鰭が吸盤のように進化しているものが多い。

 現在、世界各地の海で400種以上が確認されており、浅い沿岸から最深部の海溝まで、幅広い環境に適応している。

 一番深い場所では、伊豆小笠原海溝マリアナ海溝で水深8000メートルを超える場所に生息するクサウオ類も報告されている。

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ピンクで可愛い外見は深海だからこそ

 MBARIの映像で見られるcolliculiは、深海生物としては驚くほど愛らしい姿をしており、黒っぽい他の2種とは大きく異なって見えた。

 同じ海域に生息しながら、これほどまでに色彩が異なるのは奇妙に思えるかもしれない。だが、表層からこれほど遠い深度では、色彩はあまり意味を持たない。

この深さでは日光が届かないので、隠れる際に色はそれほど重要ではなくなります。

そこで彼らは水中の振動や匂い、味といった他の手段を使って、お互いや周囲の環境を感知していると考えられます。

多くの魚は、実際に胸鰭の鰭条で「味」を感じることができます。これらのクサウオも、器用な胸鰭を感覚器官として使っているのかもしれません。

この深さでは太陽光は届きませんが、生物発光による閃光は見られます。これらの種が視覚をどの程度使っているのかは、まだわかっていません。これは将来の研究にとって大変興味深いテーマになるでしょう

 ジェリンガー博士は、クサウオたちの見た目については、このように説明する。彼らが生息しているのは、いずれも太陽光の届かない暗黒の世界なのだ。

 また、彼らの胸鰭についても、ジェリンガー博士は言及している。

MBARIの無人探査機が撮影した美しい映像では、この魚が胸鰭の鰭条をとても活発かつ優雅に動かしている姿が見られます。

これらの鰭条は泳ぐ上で、特に方向転換の際に非常に重要な役割を果たすと同時に、周囲の環境を感知するためにも使われているのです

 深海という極限環境に生き物が適応する仕組みは、まだ解明されていない。我々人間は深海を、温度や水圧、光量などから過酷な環境だと考えがちだ。

 だが、一見脆弱に見えるクサウオの新種が、こうして次々と発見され続けている事実は、未踏の海にまだ多くの驚きが眠っていることを示している。

 今後の調査と研究が、深海生物の知られざる多様性をさらに明らかにしていくだろう。ジェリンガー博士は最後にこう付け加えた。

私はクサウオが大好きなんです。彼らは本当に素晴らしい存在で、研究すること自体が喜びなんです。

これほど繊細に見える生物が、その生息地で繁栄している姿を見ると、深海の美しさ、そしてこうした生態系を理解し守っていく責任を強く感じます

References: Descriptions of Three Newly Discovered Abyssal Snailfishes (Liparidae) from the Eastern Pacific Ocean[https://asih.kglmeridian.com/view/journals/cope/113/3/article-p487.xml] / Adorable New Species Of Snailfish Filmed 3,268 Meters Below The Sea, And There's A Video[https://www.iflscience.com/adorable-new-species-of-snailfish-filmed-3268-meters-below-the-sea-and-theres-a-video-80716]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。

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