額から歯がついた突起物が飛び出す神秘の深海魚、スポッテッドラットフィッシュ
額から歯の生えた突起物が飛び出すギンザメの仲間のオス  / Image credit:: Ray Troll.

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 深海には、我々の常識をくつがえす不思議な生き物たちがひしめいている。アメリカ・カナダ西海岸沖に潜む、「スポッテッドラットフィッシュ」もその1種だ。

 「生きた化石」として知られるギンザメの仲間に属するこの魚は、オスだけが額から突起物を突き出す。この突起物の先端には、しっかりと歯の構造を備えている。

 つまり口の外にも歯があるのだ。では一体何のために?

 アメリカ・ワシントン大学の研究者たちは、交尾の際にオスがメスにしがみつくために使っている可能性が高いという。

この研究は『PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2508054122]』誌(2025年9月4日付)に掲載された。

ギンザメの仲間、スポッテッドラットフィッシュ

 スポッテッドラットフィッシュ(Hydrolagus colliei)は、軟骨魚類のギンザメ類(Chimaera)の一種で、サメとは約3億8500万年前に分岐した古い系統に属している。

 ギンザメ類は、石炭紀に登場し、中生代には多様な種が繁栄していたが、時代の流れとともに多くが絶滅し、現存するのはわずか40種ほどしかいない。その多くは深海に生息しており、「生きた化石」とも呼ばれている。

 スポッテッドラットフィッシュは、アメリカ・カナダ西海岸沖の太平洋、アラスカ湾からカリフォルニア沖にかけて分布している。水深200~900mの海底に棲み、砂や泥の上を這うように移動しながら、エビやカニなどの甲殻類を捕食する。

 体長は最大で約97cmに達し、体には斑点模様がある。顔の形がネズミに似ていることから、「スポッテッド(斑点の)ラット(ネズミ)フィッシュ」と名付けられた。

 ふだんは深海に棲んでいるが、繁殖期になると浅い海域にまで上がってくることがあり、研究者がその生態を観察できる貴重な機会となっている。

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額の突起は交尾に使われる? その構造と役割

 スポッテッドラットフィッシュのオスは、額の中央から突起物をアンテナのように伸ばすことができる。この突起は「テナキュラム(tenaculum)」と呼ばれ、先端や側面にはフック状に湾曲した歯が何列も並んでいる。

 アメリカ・ワシントン大学の研究チームは、ワシントン州ピュージェット湾で採取した個体を使い、この突起の内部構造をマイクロCTスキャンで詳しく調べた。

 その結果、成体のオスのテナキュラムには7~8列のフック状の歯が形成されており、これらの歯は非常に柔軟にしなる構造になっていることが明らかになった。

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 その目的は、捕食のためではなく、交尾の際にオスがメスにしがみつくために使われている可能性が高いとみている。

 なお、メスにもこの器官の痕跡は見られるが、発達することはなく、オスにのみ現れる性特有の構造である。交尾が終わると、テナキュラムは額の中央にあるくぼみに収納される。

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歯が口の外にもあるというびっくり構造

 さらに組織を詳しく調べたところ、この突起には脊椎動物の歯の形成に関わる遺伝子が発現しており、単なる皮膚の変化ではく、歯として形成されたものであることが確認された。

 加えて、歯の根元には「デンタルラミナ(dental lamina)」と呼ばれる帯状の組織が存在していた。

 これは通常、口の中で歯が形成される際に必要な構造であり、口の外で発見されたのは初めての例となる。

 ワシントン大学のカーリー・コーエン博士は、「デンタルラミナを初めて確認したとき、まさか額の突起物の中にあるとは思いませんでした」と話している。

 博士は「テナキュラムは、口の外に形成される最初の明確な歯の構造です。歯は口の中にしかないという進化の定説を揺るがす発見です」と語っている。

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References: PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2508054122] / Cosmosmagazine[https://cosmosmagazine.com/nature/marine-life/spotted-ratfish-forehead-teeth/] / Zmescience[https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/this-bizarre-deep-sea-fish-uses-a-tooth-covered-forehead-club-to-grip-mates-during-sex/]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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