
説明しよう。「CDS」とは、海外で活動する猫の暗躍組織で、適性のある人間の元に、最適な猫を最高のタイミングで送り込んでくることを使命としている。
正式名称はキャット・ディストリビューション・システム(猫流通システム)で、日本のNNN(ねこねこネットワーク)はその傘下にあると言えよう。
アメリカ、ミネソタ州のペットショップで、明らかにCDSが関与したと思われる事案が発生していたので報告しよう。
愛犬の耳洗浄液を買いに来ただけの女性が、気付いたら保護猫を抱きかかえ、家に連れ帰っていたという話だ。
犬の耳薬を買いに来た女性の前でふみふみアピールする保護猫
ミネソタ州に住む29歳のハンナさんは愛犬、リリーの耳を洗浄するための薬を買いに、ふらりと近所のペットショップに立ち寄った。
だが彼女は知る由もなかった。この店は既にCDS(猫流通システム)の支配下にあったことを……。
このペットショップは、動物保護団体「アロウズ・ハート・アニマル・レスキュー(Arrows Heart Animal Rescue)」と提携しており、保護された複数の猫が「保護猫コーナー」に展示されており、新しい家族との出会いを待っていた。
ハンナさんが展示ブースを通りかかると、1匹の猫がガラスの前までやってきて、前足で毛布をふみふみし始めた。海外でいうところの「ビスケットづくり」だ。
彼女がしゃがんで挨拶すると、フミフミしながら、じっと見つめてくる。
ちょうどそのとき、保護猫担当のスタッフが驚いた顔をして近づいてきた。
「この子、普段はとても臆病なんです。こんなに人に近づいて、リラックスした表情をしているのをはじめてみました」
ハンナさんはしゃがんで猫に挨拶をかわしたが、猫はその間もずっとフミフミし続けていたという。
この時点でハンナさんの心は猫に奪われていたが、一旦愛犬のために耳のケアコーナーへと向かった。
猫との絆を確信した瞬間
ハンナさんがその場を離れた後、別の家族がこの猫に興味を示した。父親と思われる男性がやや強引に抱き上げようとしたちょうどそのとき、大きな音が響き、猫は怯えてケージ内の小部屋に身を隠してしまった。
ハンナさんはこの猫のことが忘れられず、薬を手に取った後、再びブースに立ち寄った。だが猫は怯えて隠れた状態のままだ。
どうしても猫の顔が見たかったハンナさんは猫用おやつ「ちゅ~る」を差し出した。すると猫はゆっくりと顔を出し、体を伸ばして寄ってきた。
彼女の手に鼻先を近づけると、おやつを食べはじめた。そしてなんと抱っこまでさせてくれたという。
「この子は、私のことを慕ってくれている」
完全にこの猫の虜になってしまったハンナさん。猫は彼女の心の中にまで這い上がってきたようだ。
その日は時間の都合で手続きをすることができず、泣く泣く店を後にした。
だが、車に乗っても、家に着いても、猫の顔が頭から離れなかったという。
数時間後、猫を引き取りに行き、家族に迎え入れる
そのわずか数時間後、ハンナさんは夫のドノバンさんを伴って再び店を訪れた。
急いで猫のいるブースへ向かうと、彼女の姿を見つけたその猫は、すぐにガラスの前まで駆け寄ってきた。彼女のことを覚えていたのだ。
その瞬間、すべてが決まった。
夫も、この子がうちの子になる運命だったことを即座に悟ったという。
手続きを進めるためにブースを離れた間、猫はなんと後ろ足で立ち上がり、ガラス窓越しにハンナさんの姿をずっと見つめていた。
まるで、「今度こそ連れて帰ってくれるよね」と確認しているようだった。
ハンナさんは「犬の耳洗浄液を買いに行ったら、また猫を飼うことになった」というタイトルで、このことをRedditに投稿した。
Redditのユーザーはこの投稿を見て、みな「CDS」が思い浮かんだようだ。
1万6000のいいねが付けられ、「お店にいくと、買う予定がなかったもの買っちゃうことあるよね、それが猫だったって感じ」、「あなたが猫を選んだのではなく、猫があなたを選んだのね、まさにCDS案件だわ」、「この猫があなたの犬を掃除してくれるのが得意だといいですね」などの面白コメントが並んだ。
CDSの任務を完遂!猫はふさわしい家族の元へ
こうして新たに家族に迎えられた保護猫には、北欧神話に由来する名前が与えられた。その名は「シグネ(Signe)」。
現在シグネは、ハンナさん宅のバスルームを拠点に、少しずつ新しい生活に慣れていっている。
先住犬たちとはすでに打ち解け、先住猫とは慣らしのために別にしているものの、最初の顔合わせはスムーズに進んだという。
「お互いににおいを嗅いだり嗅がれたりしてましたが、シャーッ!と威嚇するようなことは一切ありませんでした。安心して距離を縮めていけそうです」
少し憶病で、まだ緊張している様子もあるけれど、ハンアさんたちにはすっかりなついているようで、ブラッシングしたり、耳の後ろを掻いてあげると、すぐにゴロゴロ喉を鳴らすという。
これまでにも保護団体や里親から何匹もの動物を迎え入れてきたハンナさんだが、今回の出会いには特別な感情を抱いているようだ。
「彼女が少しずつ殻を破っていって、我が家の正式な家族の一員になるのを見るのが待ちきれません」
シグネの目に映っていたのは、“自分を選んでくれた人”ではなく、“自分が選んだ人”だったのかもしれない。これにてCDSの任務は完全に遂行された。
CDSのマッチング技術の高さとその手法は毎回驚かされるばかりだ。