
日本人からしてみたら、トイレにトイレットペーパーがあるのは当たり前。商業施設やレストラン、最近は公衆トイレでも完備しているところがほとんどだ。
だが海外では、置いておくと持ち帰られてしまったり、必要以上の量をちぎって持っていかれてしまったりすることもある。
その対応策として、最近中国の多くの商業施設や観光地の公共トイレでは、QRコードをスキャンして広告を見ないとトイレットペーパーが一定量出てこないというシステムを導入したという。
QRコードを読み込んで広告を見ないとトイレに行けない!
中国ではトイレットペーパーの「無駄遣い」を防ぐため、効果的な対策を長年にわたり試行錯誤してきた。
ここでいう無駄遣いというのは、単に多めに使ってしまうということではない。
ガーッとトイレットペーパーを出して、巻き取って持って帰ってしまったり、予備のロールをお持ち帰りしてしまったりとか、そういう事案が多発していたのだ。
そして辿り着いたのが、トイレットペーパーを一定量出すために、QRコードをスキャンして広告を見るという方式だ。
QRコード式の「取紙機」、つまりトイレットペーパーのディスペンサーの場合、実際にどんな操作をするのか、まずはこちらの動画を見てもらおう。
上の動画では、15秒ほどでトイレットペーパーをゲットできているが、機械によっては30秒、古いものだと1分近くかかるケースもあるようだ。
以前はWeChatという、LINEみたいなチャットアプリで広告元の公式アカウントをフォローして、広告動画を何本か見ないとトイレットペーパーが手に入らない、といったパターンもあったらしい。
トイレなんて緊急に飛び込みたい時だって多いだろうに、悠長に広告なんか見ていたら大惨事にだってなりかねない。
もちろん、そんな場合のためにショートカットも用意されている。0.5元(約10円)程度のお金を払えば、広告をすっ飛ばしてトイレットペーパーをゲットできるのだ。
つまり、無料で欲しければ広告を見る、急いでいるならお金を払う、というシステムになっているのである。
無駄遣い防止対策とは言え「面倒くさすぎる!」と不評
このQRコードを使う機械は、2023年ごろから徐々に設置されるようになってきたという。
さらに顔認証でトイレットペーパーが出てくるタイプもあるようだ。
顔認証をするには帽子や眼鏡をはずさなければならず、スキャン中はじっと立っていなければならない。機械が反応しないことも多いという。
トイレットペーパーを1回分欲しいだけなのに、いちいち顔認証をしなくてはならないだけでも面倒だし、個人情報の面でも不安である。
不具合の多さや煩雑さから、最近は顔認証タイプは減っていて、QRコードタイプが増えてきているようだ。
また、こういった「取紙機」で1回に出てくる長さは、場所にもよるが60~80cmほどだという。非常時にはこれでは足りないこともあるだろう。
中国法学会・消費者権益保護法研究会の副秘書長・陳音江氏は、このシステムの問題点を次のように指摘している。
QRコードで紙を取らせる操作は不便なだけでなく、消費者の知る権利や個人情報保護の権利を侵害している疑いもあります。
高齢化社会においては、利用者の基本的なニーズに応えるためにも、馴染みのある伝統的なサービスも維持していく必要があるのではないでしょうか
北京市では「無料での提供」が義務付けられているものの…
実は北京市では、2018年1月施行の「公共トイレ運営管理規範」で、一類・二類の公衆トイレは長さ80cm程度のトイレットペーパーを無料で提供しなければならないと定めている。
つまり大型商業施設公園・病院、駅などのトイレでは、本来は無料でトイレットペーパーを提供しなければならないのだ。
だが、無料だからと大量に使ったり持ち去ったりする利用者が後を絶たず、当局は頭を抱えていた。
例えば北京市の天壇公園のトイレでは、来訪者が紙を大量に使ったり、丸めて持ち帰ったりする光景が日常茶飯事だった。
清掃員によれば午前中だけで6ロールのトイレットペーパーを補充していたそうだ。これは1時間に1ロール消費するペースだったという。
こういったトイレ事情から、苦肉の策として登場したのが、QRコードや顔認証による「取紙機」なのだが、評判はあまり芳しいとは言えないのが現状だ。
先述の天壇公園でも、一時期顔認証による機械を導入したことがあったが、あまりにも不評で撤去され、元のシステムに戻された。
ただ、現在は2時間に1ロールの交換で済む程度になっており、利用者側にもある程度の節度が見られるようになってきたという。
また、観光地や繁華街では、そもそも紙が置かれていないケースも多い。なんなら「紙が必要なら清掃員まで」と張り紙があるケースも多いようだ。
しかし実際に利用者が清掃員に声をかける例は少なく、「やはり自由に使える形が望ましい」との声が多かった。
手をかざすだけの感応式や、簡易型QRコード式も登場
こういった紆余曲折を経て、無駄遣いを防ぎつつ利便性をも保てるような、最新式のシステムの開発も進んでいる。
最近は商業施設を中心に、手をかざすだけで約80cmの紙が出る「感応式取紙機」を導入する施設が、徐々に増えているそうだ。
また、QRコード式も改善が進んでおり、スキャン後に「取紙」ボタンを押すだけで5秒以内に紙が出るタイプも登場。
広告も一応表示されるが、視聴は強制ではなく、煩わしいステップも簡略化されているという。
ちなみに、日本では個室ごとにトイレットペーパーが設置されているのが大半なので、こんな話もあまりピンと来ないかもしれない。
だが海外では、トイレの入り口あたりにこんな感じのディスペンサーがあるところも多いんだ。
これは個室に入る前に、必要な分だけ自分でトイレットペーパーを出してカットし、個室の中に持って行くシステムである。
もっとも日本でも、置いてあるロールを持ち帰ってしまう被害が増えたせいで、在庫のトイレットペーパーが撤去されたなんて話もある。
結局はマナーの問題なのかもしれないが、一刻を争う事態に悠長に広告を見る余裕なんてないと思うので、今後日本で導入されないことを真剣に願っておきたいと思う。
References: 扫码取纸竟要分“十步”,还得看广告……上个公厕真够难的![https://finance.sina.com.cn/wm/2023-04-25/doc-imyrrksc4371351.shtml?cre=tianyi&loc=39&mod=pcpager_society&r=0&rfunc=42&tj=cxvertical_pc_pager_spt&tr=174&wm=5]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。