
視覚障がい者を支える盲導犬は、人と動物が築いてきた深い絆の象徴でもある。訓練を受けた盲導犬は“第2の目”となり、危険を回避しながら共に暮らすかけがえのないパートナーとなる。
だが生身の犬は、日々のお世話や高額な訓練費用、そして別れなど、乗り越えなければならないことも数多く存在する。
その弱点を補う手段として、世話が不要で機能性に優れた「ロボット盲導犬」が注目されている。
アメリカ、ジョージア工科大学では、犬のような外見でありながら、かわいすぎて注目を集めない「ちょうどいいロボット盲導犬」の開発が進行中だ。
生身の盲導犬に代わる新しい選択肢
盲導犬の育成には最大で5万ドル(約740万円)が必要だ。さらに毎日の食事や健康管理の負担があり、寿命があるため、共に過ごせる期間は10年程度だ。
そのため、必要としても手が届かない視覚障がい者が多いのが現実だ。
そこでジョージア工科大学の研究チームは、機械ならではの強みを活かした「ロボット盲導犬」に挑んでいる。
研究チームは、研究の初期段階で視覚障がい者や弱視者の声を集め、理想の条件を調査した。その結果、次のような要望が多く寄せられた。
・本物の犬に似ていて親しみやすい外見
・盲導犬であることを示すベストなどの識別サイン
・GPSやBluetoothなどの接続機能
・音声コマンドを含む複数の操作方法
・毛皮のようではないが柔らかい質感
・長持ちするバッテリーと自動充電機能
社会に溶け込むための「ちょうどいい」かわいさ
調査では「かわいすぎる見た目は避けたい」という声も多かった。実際の盲導犬は子どもに遊び相手にされたり、犬好きの人に触られたりする。
また、犬嫌いの人には拒まれたりすることがあり、それが持ち主に負担となる。
ロボット盲導犬には、親しみやすさと目立ちすぎない外見の両立が求められているようだ。
また、公共の場での受け止め方も無視できない。
研究チームは静かに移動するアルゴリズムを開発し、周囲にも配慮した存在を目指している。ウォーカー教授は「ロボットは利用者だけでなく社会全体に溶け込む必要がある」と語る。
危険を検知し、理由を伝える知能
ナビゲーションと安全機能の設計を担当している、博士課程の学生テリー・キム氏は、当初は「目的地を伝えれば自動で連れて行ってくれる」と考えていた。
だが、実際には「ここで左」「ここで止まる」といった細かな指示が必要になることがわかったという。
しかし、ロボットならではの利点もある。
360度カメラやAIによる障害物検知、声を識別する音声認識を備えれば、危険を察知して自動的に通報することが可能だ。
さらに、急に停止した際には「前方に危険があります」と理由を説明し、利用者に状況を伝えることもできる。
一生に一度のパートナーとなるか
製造コストは高額だが、引退が必要な盲導犬と違い、ロボットは所有者の生涯にわたって使える可能性がある。
必要な世話はバッテリー充電や定期的なメンテナンス程度。長期的に見れば費用対効果は高いと考えられている。
研究チームは技術開発だけでなく、人とロボットの関係性や社会的な受け入れまで含めた総合的な設計を進めており、外部の専門家とも協力しながら課題に挑んでいる。
人と犬の深い絆を完全に置き換えることはできない。
視覚障がい者にとって新しい形の「第2の目」となりうる存在として、ロボット盲導犬は未来への大きな希望となりつつある。
この研究は2025年5月の『国際ロボティクス・オートメーション会議(ICRA)』に発表されたもので、査読前のプレプリントは『arXiv[https://arxiv.org/abs/2503.16450]』誌に公開されている
References: Gatech.edu[https://www.cc.gatech.edu/news/georgia-tech-team-designing-robot-guide-dog-assist-visually-impaired]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。